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プロローグ その1
しおりを挟むセンチネルとガイドという魔法の力がある世界。
センチネルは生まれながらに只人の数百倍の五感の感覚そなえ、さらには魂の分身たる使い魔を使役して、その魔法の力をふるうことが出来る。
ガイドはそのセンチネルの鋭敏すぎる感覚と魂を保護し、癒し、導く。
人々は“卵”の形で生まれ、男子しかいない。
そんな世界。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
辺境の村。
初雪が降りつもった早朝。孤児院の玄関先に、その“卵”は転がっていた。
「大変です! 来てください! ナイト!」
「どうした!? ルーク?」
己の連れ合いのいつになく切羽詰まった声に、とんできた男は、その腕の中にある卵に目をむく。
「こいつは?」
「玄関先に転がっていたんです。すっかり冷え切っています!」
「そりゃまずい! 急いで温めないと!」
「もし、一晩中冷たい雪にさらされていたとしたら……」と卵を抱きしめて不安げな声をあげる連れ合いに、その夫は安心させる様にニッと笑う。自分より一回り小さい連れ合いの身体を卵ごと包みこむように抱きしめて。
「俺は諦めないぞ、とにかく温めよう」
「はい」
氷のように冷たい卵に構わず、二人は上半身裸となって卵を挟むようにだきあって、暖炉の前にすわり、一つ毛布にくるまった。
そして暖炉に次々に薪をくべて火をおこす。燃えあがる炎はちりちりと二人の顔を焼くほどであったが、二人の腕の中にある卵は少しも温まる気配がなかった。
ルークが唇を噛みしめ、ナイトの眉間にも『ダメか? 』と眉間が寄ったとき“奇跡”は起こった。
「ルーク! 卵が!」
「熱が戻ってきました!」
それは初めは淡く、そして、どんどんと温かくなっていく。最後にはぽうっぽうっぽうっと鼓動するように、熱いほどに脈動をくり返して。
ぴしり……と卵にとうとうヒビがはいる。びしり、ぴしりと、それにナイトが「がんばれ!」と声をかけ、ルークが「がんばってください!」と声をかける。
卵にヒビがはいっても、たとえ両親の手であっても割ってはならないとされている。
それは内側からの新しい命の力でなければ。
手助けしたら最後、その命は最悪産まれずに力尽きてしまうか、産まれたとしてもその命の力は弱く長くは生きられないと。それが神々の定めたことだと。
卵の殻をやぶって、小さな手がにゅうと突き出たのを出て、二人は同時に手を伸ばした。身体の一部が外に出たならば、それが産まれたとされる。
二人の手にすくい上げられた瞬間。赤ん坊はほぎゃほぎゃと泣き始めた。その産声に二人は顔を見合わせて笑いあう。
「元気な子だ」
「ええ、ナイト。よかった」
黄色のふわふわした髪に黄色の瞳の子は、フェリックスと名付けられた。
フェリックスは辺境の小さな村の孤児院にて、ファーザー・ルークにファーザ・ナイト。そして孤児達を“村の子”として可愛がる素朴な村の人々に囲まれて、すくすくと成長した。
北の村の暮らしは厳しいけれど、それでも助け合い暮らすファーザー達と村人、そして孤児院の兄弟達はいつだって笑いあっていた。悪いことをした時はしっかり叱られて泣きべそをかいたこともあったけど、それも、ファーザー達や村の大人達が叱るのは自分達のことを思ってのことだと、子供達にはわかっていた。
そして、そのフェリックスの十五歳の誕生日の朝。
「ん……」
ぺしぺしと自分の顔を叩くその感触にフェリックスは薄い目を開けた。孤児院の小さな兄弟達の誰かか? と思ったが、人の手の感触ではない。なんかもふもふしている。
「んん?」
顔面一杯に広がる灰色の色に、フェリックスはその黄色の大きな瞳をますます大きく見開いた。灰色なのはやはりもふもふの毛……いやこれは羽毛で、お腹だとわかったのは視線を上にむけたら“それ”と目が合ったからだ。
ピィイイ!
それはくわりとくちばしを開いて鳴いた。
「えええぇぇえええっ!!」
フェリックスは叫び、両手でそれを掴むとそれがパタパタ水かきのついた足をあばれるように動かすのも構わず、二段ベッドの下から転がるように降りると、急いで屋根裏の三階から一階へと駆け下りた。
「ファーザー・ナイト!」
「おう、おはよう。寝ぼすけのお前にしては、メシの時間前に起きてくるなんて、珍しいじゃねぇか」
朝食の仕度中の厨房に駆け込む。ファーザー・ナイトの長身がお玉を持ったまま振り返る。
「今日のメニューはジャガイモのニョッキだぞ。昨日の夕ご飯は肉入りなしのコロケットだったなんて、苦情は受け付けねぇ」
「昨日もイモ、今朝もイモ、昼も芋のガレットだ~どうかまいったか~」なんて妙な歌? を歌っている、ナイトの鼻先に、フェリックスは“それ”を差し出した。
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