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【3】魂のシンクロ その2
しおりを挟むアニマルの姿はセンチネルの力を現す鏡だ。フェリックスは同調率を示す色が赤に変わっているのを見た。
────力がないんじゃない。力を出し切れてないんだ。
ふらりと起き上がったウォーダンと、彼をかばう様に四つ足を踏ん張って彼とケルベロスのあいだに立ちふさがるロンユンの姿に、フェリックスは直感した。
ガイドが三人必要なほどのウォーダンの力。それでも彼は今まで十分に力を出し切れてなかったのだろう。今はそれが二人。
ケルベロスを倒すには“全力”でなければならない。
三人いたガイドが一人欠けた状態ではそれでは足りない。
このままでは彼は死んでしまう。
フェリックスの脳裏にはまるで未来視のように、ケルベロスの爪と牙に引き裂かれて、赤に染まった倒れる彼の姿が見えた。
背筋がぞくりと震える。
そんなことはさせない!
強くそう思ったとたんフェリックスの身体はぴくりと硬直した。腕の中のチィオも「ピィ!」と鳴く。
突然に繋がったのだ。ウォーダンと。今朝短く会話を交わしただけで、親しいどころか彼のことはまったく知らない。
でも彼を助けたいと、強く強くフェリックスは想った。そして自分でも驚くほど、彼の深い場所まで潜ることが出来た。
共感と読心がごっちゃになって、それが自分の感覚なのか。彼の感情なのかもわからない。
そして脳裏に直接流れこんでくる、彼の心象風景。
一番最初に聞こえたのは、赤ん坊の泣き声。
それはとても混乱していた。怖い、寂しい、どうして? と。
お城のような装飾の部屋の中。すべてが凍りついていた。天井からは氷柱が垂れ下がり、柱も壁も凍り着いて。室内なのに嵐のようにふきあれるブリザード。床には雪が降りつもっている。
そして、その中心には揺れるゆりかご。周りにはローブ姿の人間達が大勢倒れていた。
あんなたくさんのガイドが!?
そのイメージは瞬時にかき消えて、今度は現在ウォーダンが見ている視界が映る。自分に迫るケルベロスの牙と爪が。
同時に強く感じた感情は恐怖。
ケルベロスに対してではない。
あまりにも強い己の力に対してのものだ。
もう二度と誰かを傷つけたくない。
そのトラウマが巨大な氷山のような障壁となって、ガイドの導きを拒んでいるのだ。
誰かを“また”犠牲にするぐらいなら……。
死んだほうがいい。
彼は迫るケルベロスを前に一瞬考えた。それが同調しているフェリックスにもエンパスで伝わる。
「ダメッ!」
と、フェリックスは叫んだ。モニターの中の牙を剥くケルベロスに壁際に追い詰められる、ウォーダンとロンユンを見つめながら。
「生きて!」
その言葉と同時に分厚い氷の障壁をするりとぬけて、自分の見えない精神の手が彼の心臓に触れる。
それは氷のように冷たかった。触れたフェリックスの精神の手も白く凍りつくほどの。彼のすっかり冷えてしまった心は、他者を根底で拒絶している。
自分に触れれば誰かが傷つくと怖がってる。閉じこもっている。
再び脳裏に飛びこんできた光景は、人々に囲まれて穏やかな笑顔を見せる、プリンスとしてのウォーダン。でもその彼のまわりには視えない氷の壁が、まるで卵の殻のように囲んでいた。
本当の自分には触れさせてはいけない。
自分はこんなにも冷え切って、触れればみんな凍りつかせてしまうから。
それが彼を深い孤独と絶望へとさらに押しやっていた。
触れたフェリックスの精神の手もまた、白く凍えてしまい。感覚がない。
同時に彼の寂しそうな声が響く。
ほら、君も俺には触れられない。
離れて……俺は産まれた時からずっと独りなのだから……。
そんなことはない!
フェリックスは心の中で叫ぶ。
自分だって孤児院の玄関に転がされていたひとりぽっちの卵だったのだ。
ファーザー達が見つけて温めてくれなかったら、きっと凍りついて死んでいた。
でも、自分はいま生きてる。独りなんかじゃない。
ファーザー達だけではない。孤児院の子達を村の子だと可愛がってくれた村人達。頑固者のバーキ爺なんか、怒ったときは本当に怖かったけど、畑で採れたトマトを井戸水で冷やして、子供達にふるまってくれた。そのときの笑顔は本当に優しかった。
それから兄弟みたいに育った孤児院の子達。誰かが孤児院を旅立つときには、みんなでいつも誓い合うのだ。
離れていても自分達は家族なのだと。
当然、フェリックスもこの学園に旅立つときにも、みんなと握手をし、ファーザー達と抱きあって村をあとにした。
学園にやってからは落ちこぼれだと馬鹿にされて仲間外れにされてばかりだったけど、下宿に帰ればヨハンとハンスの夫夫が温かく迎えてくれた。ヨハンはフェリックスを迎えた初日にいってくれた。
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