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【11】シティにて その1
しおりを挟む予定外のワルツで喝采を受けて、それからはたしかにウォーダンの横でニコニコしていればよかった。おかげでほっぺの肉がちょっと引きつりそうだったけど、ホフマンが寝る前に蒸しタオルで温めて、マッサージしてくれた。
毎日のお肌の手入れは、本当に僕なんてどこにでもいる人並みな顔にどうか? と思うけど、マッサージは気持ちいいなといったら、また深いため息をつかれた。
「ですからあなた様はそこらへんにいる並の御容姿ではありません。こうやって少しわたくしが手をかけただけで、誰もが目を見張るように輝かれたのですから、お手入れは欠かさないようにいたしましょうね」
そうにっこり微笑まれてしまった。
うーん、ホフマンの微笑みはファーザー・ルークと似ていて、こういうときはどことなく怖いと思う。
翌日は約束どおりウォーダンがシティに連れて行ってくれた。大きな古書店で見つけたいくつかの本が、どれも優しくない値段で奨学金のなかでぎりぎり二冊までかな? と悩んでいると。
「これをすべてくれ」
ウォーダンが店主にそういっていた。「タワーに届けてくれるか?」とも。
「あ、あの僕、お金が……」
「俺が出すよ」
「悪いです」
「本ならばいくらあったって悪くないだろう? それに君の蔵書は、プリンセスの塔の図書室におさめられて、代々のプリンセスに受け継がれていくことになるんだから」
それならば……と納得する。早く帰って読みたいな……と、そわそわしてると。
「このあとはごちそうと甘い物を食べるんだろう?」
「それがありました!」
さて、お楽しみの時間というところで、古書店街からお洒落な店が建ち並ぶ通りへと出て、思わぬ人物に出くわした。
あんまり良くない意味でだ。
その証拠に“彼ら”を見たとたん、フェリックスの足下にいたチィオが「ピィ!」とくちばしを大きく開けて威嚇した。
「おやおや、相変わらずプリンセスのアニマは元気がよろしいですね」
「本当に、いつもこうやって俺達のアニマルに挨拶してくださる」
ネラとスコルだ。
というか……二人に対してのチィオの態度は相変わらずだ。どのアニマルと組んだって気に入らないと威嚇するチィオなのだが、この二人にはなにもなくとも初対面から威嚇していた。
まるで敵だといわんばかりに。
まあ、実際、二人には目の敵にされていたんだけど。
威嚇し続けるチィオにスコルが連れている巨狼が一歩前へと出たが、そのあいだに蒼い身体が入りこむ。ロンユンだ。
巨狼よりは身体が小さいサラマンダーだが、その蒼の瞳にすっと見られて巨狼の足が止まる。同じ幻想生物でも格が違うのだ。
そんな光景を一瞬ギロリといまいましげににらみつけたスコルだが、すぐに取り繕うように。
「ここでプリンスとプリンセスに会ったのも、うれしい偶然です。ランチでも一緒にいかがですかな?」
いつもの周囲には尊大な態度を崩さないスコルが、丁寧な口調なんて違和感ばりばりだ。別に寒くもないのに、フェリックスの背にぞぞぞ……となんか震えが走る。
「僕達、これからなじみの高級レストランにいくところなんですよ。予約じゃないとなかなか席が取れなくて、御一緒にいかがですか? プリンスとプリンセスならば、あちらも席を融通してくれるでしょう」
ネラがいつもの意地悪な微笑ではなく、にこやかな表情でいう。それが逆にあやしいけど。
それにそもそもプリンスとプリンセスなら……って、自分達の立場を利用して、予約で一杯の人気店の席を横取りする。そんなことはしたくないなとフェリックスは思う。
「先の演習で一位と二位のセンチネルとガイドの組みあわせ同士、親好を深めませんか?」
ネラがさらに続ける。以前フェリックスは自分を介してではなく、食事にさそうなら直接ウォーダンに申し込んでくれといったけど。
「いや、今の俺達は一般の生徒としてシティに降りてきている。“好き”に食事を楽しみたい」
ウォーダンは今はプリンスとプリンセスではなく、個人として休暇を楽しんでいるのだと断った。それにフェリックスは内心でホッとする。この二人との食事なんて、どんなに高級で美味しい料理でも味なんかしなさそうだ。
「ではなおさら、同じ生徒同士、僕達と食事しませんか?」
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