落ちこぼれが王子様の運命のガイドになりました~おとぎの国のセンチネルバース~

志麻友紀

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【11】シティにて その2

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 ネラはそれでもしつこかった。それにウォーダンは「断る」と返した。休日を好きに楽しみたいから……と遠回しに断ってなお、誘ってきたのだから、ここははっきりいうしかない。
 「ひどい」とネラは大げさに悲しげな表情をした。

「プリンス……いえ、ウォーダン様とは中等部から御一緒でしたのに。それにフェリックスとは同じ専科のクラスメイトで中間試験まで、僕達は学んだ仲ではないですか」

 いや、どんな仲なんだよ……とフェリックスは心の中でツッコミを入れた。“落ちこぼれの貧乏人”と毎日馬鹿にされていた仲? って、それは自虐的過ぎるけど。
 しかし、甘えるような声をあげて腕に手をかけようとしたネラを、ウォーダンはすっ……と避けて。

「そこまで“会食”を希望するなら、学園の事務方にあらためて申し込んでくれ。“成績優秀者の交流会”ならば一考の余地はある」

 個人的に食事などしない。ならば公式に学園に申し込め。それも大演習の成績二位だからといって、お前達だけに配慮するわけではなく、すべての成績上位者のなかの“一人”として扱うとウォーダンは告げる。
 そして、フェリックスの肩を抱いて「行こう」とうながし、その場を去る。
 さすがにネラも追いかけることなく、彼の肩に掛けようとした手は宙に浮いたままとなる。「お高く止まりやがって」とスコルがいい、ネロに「おい」と不機嫌な声をあげる。

「あのプリンスにずいぶん色目を使っていたじゃないか? お前もやっぱりプリンセスの地位狙いかよ?」
「なにいってるの? あの二人を見かけたから、お茶にでも仕込めたらって、声をかけただけじゃない。先にいったでしょ?」

 「“計画”をちょっと前倒ししてさ」とネラは肩をすくめる。そして、蠱惑的な微笑みを浮かべてスコルを見る。

「僕のプリンスは君だけだって、僕をプリンセスにしてくれるんでしょ?」

 小声でささやければスコルが「ああ」と満足そうにうなずく。そして彼は「俺は“店”に行くから。あとでな」と去って行く。
 店とは学都であるシティでは本来禁止されている賭博場のことだ。もちろん秘密の場所にあり、学生相手でも平気で酒に煙草を売る。さらには扇情的な姿をした美しい男達が給仕を務め、身体も売っている。
 スコルを連れていったら、たちまちのうちに彼ははまり、休日となれば店に通っている。賭博のチップはいくらでも融通してもいいと店の者に言いつけてあるから、そろそろ借金で首が回らなくなっている頃だろう。
 店のオーナーがネラであることも知らずだ。

「操るなら馬鹿のほうがたやすい。賢すぎる王子様なんて願い下げだよ」

 ネラがそういい、赤い唇をゆがめた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 ちょっと嫌な出会いはあったけれど、華やかな店が並ぶ街角をウォーダンと二人で歩くのは、それだけでフェリックスの心が浮きたった。
 だけど、同時に困ったとも思った。
 お金のない貧乏学生のフェリックスは、こんなお洒落なレストランやカフェに入ったことはない。

「どこがいい?」
「う……正直、わかりません」

 フェリックスは肩を落とした。なにしろお金がなかったし、屋台の買い食いさえしたこともない。

「俺のなじみの店でいいかな?」
「はい! うれしいです」
「うれしい」
「だって、ウォーダンのお気に入りの店なんでしょう?」

 そこにつれて行ってもらえるなんてと、ニコニコするフェリックスに、ウォーダンもまた口許に微笑をうかべて。

「そうだな、俺モフェリを連れていけて嬉しいな」

 そうつぶやいた。



 ウォーダンのなじみの店は華やかな大通りから、一本はいった裏路地にある小さなビストロだった。カランとチョコレート色の歳月を重ねた風合いの扉をあけると「いらっしゃいませ」とベストにギャルソンエプロン姿の恰幅のよい中年の男性が出迎えてくれた。
 彼はにこやかな表情で「こちらへ」とごくごく自然に細長の店内の一番奥の席へと、二人を案内してくれた。他の客からは二人の姿は見えない場所だ。
 なるほど、シティの人達はたしかに心得ていて、プリンスのお忍びをこうして見守っていてくれるんだな……と思う。
 それをあとでウォーダンにいったら「プリンセスである君もだよ」と言われた。フェリックスには、ちょっとまだまだ実感がわかなかったけど。




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