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【13】プリンセス失格 その3
しおりを挟むウォーダンがうろたえる。痛いぐらいに握りしめていた手首を離して、今度はふわりと包みこむように抱きしめられた。その腕のなか、フェリックスはぽんと拳で、その広い胸を叩く。
「僕を置いて死のうとした」
「すまない。しかし、死ぬつもりは……」
「あのままだったら、死んでいたでしよ? あなたはいつもそうだ。自分が死んだほうがいいと思ってる!
そんなことは僕が許さない! 僕がいつでもそばにいて、あなたが死にそうになったら、たたき起こしてやるんだから!」
そう宣言すると、ぎゅっとさらに強く抱きしめられて「そうだ、君はそばにいてくれるって約束してくれた」とウォーダンの声が、頬を押し当てた胸から響く。
「温かな手が独りで泣いていた、幼い俺をすくい上げて癒してくれたよ。共に歩んでくれる誰かを、俺はずっと待っていたんだ」
「君が俺の心の奥で見たとおりだよ」とウォーダンは語りだした。
ウォーダンは産まれながらのプリンスとなる卵として、タワーに預けられたのだという。
そして、タワーで生まれた。
その直後に“事件”は起こった。
「生まれながらのセンチネルである俺には、あらかじめ幾人もガイドが付けられていた。ところが生まれた俺の力が強すぎて、タワーの優秀なガイド達でもガイディングしきれなかったんだ。
生まれたばかりの心は卵の中に再び戻りたいという回帰願望のままに、あんな暴走を起こした」
あんな……とはフェリックスが見たままの光景だ。ブリザードの渦。たしかにあれは卵のようだった。
そして、先日の暴走の渦も内へ内へと……。
回帰しようとしていた?
ぎゅっとフェリックスがウォーダンの胸元の服を握りしめれば、大きな手が上から重ねられて「もう卵の中には戻らないよ」と彼が告げる。
「いっただろう? 君が温かな手で。俺を包みこんでくれた。常にそばにいてくれると約束してくれた。
だからあれで俺は“生まれ直したんだ”」
そして、そこから先もフェリックスが見た通り。キングとクイーンが駆けつけ、二人は自分のアニマルをウォーダンを制御する盾とした。
彼を生かすために。
産まれながらのプリンスたる“未来の希望”を。
いや……。
「お二人はあなたがプリンスでなくとも、泣く赤ん坊を助けるのは当たり前だっていっていた」
「ああ、それも思い出したよ。
俺はプリンスとしてではなく、ただの赤ん坊として生まれて救われたんだ」
「覚えているの?」とフェリックスはきく。生まれたばかりの赤ん坊だ。暴走の事故はあとで人に聞いたとしても……いや、あの心の風景はたしかにウォーダンの記憶だ。
「ああ覚えている。自分が生まれたときの“孤独”を。どうしてこんな力を抱えて、なにもかも見通せてわかって、だがそのことが怖かったんだ。
同時に、なぜ“居ないんだ? ”と思ったんだ。全部見えて聞こえて、匂いも肌触りも、すべてが刺激的すぎて不快だった。
ガイド達の差し出す見えない手も、すべて“違う”と振り払った。“違う”“違う”と」
「……ごめん、僕が来るのが遅くなって……」
あのときの泣いている小さな子を実際に抱きしめられたら、どんなによかっただろう……と思う。もっともウォーダンが生まれたときはフェリックスはまだ卵の形さえなかったんだけど。
「いや、君はこうして俺の前にいるだろう? それでいい。……そこから先も君が見た通りだ」
アニマルを失ったキングとクイーンはタワーを去った。だから、彼らは人前に姿を現さない……のではなく現せないのだ。
今の学園を動かしているのはプリンスであるウォーダンと数人の側近達だという。メディとハートリーもそうだときいてフェリックスは軽く目を見開いた。
「二人は講師ですよね?」
「“表向き”はね。彼らは諜報部の長だよ。一介の講師でいたほうが情報を集めやすいとかいっていたけど、あれは趣味だな」
「…………」
「それから君に俺の秘密を教えておきたい。いや、聞いて欲しいんだ」
「まだなにかあるんですか?」
「うん、ある。雛なのは君のチィオだけじゃない。俺のロンユンは蒼のサラマンダーとされているが、本当は……」
耳元でささやかれた言葉に、フェリックスは今度こそ大きな目をさらに大きく見開いた。
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