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【13】プリンセス失格 その2
しおりを挟む「あいつらになにも言い返さないなんて、なに考えているんだよ!」
「今日はうつむかないで、真っ直ぐ前を見てられたけどね」
それは守った。なにをいわれても下を向いていじけたりしないと。
それにマルディーヌはわからないという顔をする。フェリックスはうすく微笑んだ。
「ありがとう」
「いきなりなんだよ」
「君が代わりに怒ってくれたでしょ?」
「別に僕はプリンスと生徒会の名誉のために反論したんだ。お前だって一応役員だしな!」
プリンセスとしてフェリックスも生徒会の役員となっていた。いきなり副会長は荷が重すぎるので、書記の一人として。
「でも、かばってくれてありがとう。うれしかったから……」
「……僕のほうこそお前にありがとうっていわないといけない」
「え?」
「本当はわかっていたんだ。大演習のときだってお前がいなければプリンスは助からなかった。今度の競技会だつて、命がけでダイブしてくれなかったら、プリンスは暴走を内に閉じこめるために、あのまま凍り付いていたかもしれない」
「だから、プリンスを助けてくれてありがとう」とマルディーヌが続ける。
「やっぱり、僕のほうこそありがとうかな。君がわかってくれているならいいよ」
「僕だけじゃない。ピエリッタだってロワイだって、お前のこと心配してる」
「うん、二人にもありがとうっていっておいてね」
「だから、勝手なこという奴らなんて相手にするな」というマルディーヌに「うん」とうなずいてフェリックスは彼と別れた。
「勝手なことか……」
フェリックスはつぶやく。チィオが横をよたよたよ歩きながら、こちらを見上げる。その左のフリッパーには黄金の輝きはやはりない。
「プリンセスの前に、僕はウォーダンのボンドでもないんだよね……」
それは事実だった。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
午後の講義にいかないで学園を出るなんて、不良学生かな? と思う。
シティをぶらつくなんてあてなく、足が向かった先は通いなれたパン屋の屋根裏部屋への道だった。
ひょいと店先に現れた自分にハンスは「おかえり」と扉を開いて招きいれてくれた。奥のパン釜のある厨房から、ヨハンが出てきて「おかえり」と同じくいってくれる。
「今夜、一晩、いや、しばらくまた御世話になっていいかな? たぶん卒業まで」
ハンスとヨハンは顔を見合わせてハンスは「いくらでもいていい」とパンこねる大きな手で頭を撫でてくれて、ヨハンは「今夜はパンシチューをつくるね」と笑顔でいってくれた。
ヨハンのパンシチューは久々で、やはりおいしいとおかわりしてしまった。タワーにいたときはあんなに食欲がなかったのに、なんかその分お腹が空いて。
屋根裏の部屋は自分がタワーに移ったときのままで、うれしかった。
チィオも久々の屋根裏部屋に帰ってきたとばかり、狭い部屋の中を歩きまくって、最後にベッドに飛び乗って、そこから天窓の外の暗くなった夜空を見上げている。チィオのお気に入りの場所だ。
なんか階下がちょっと騒がしい。こんな時間に来客? と思ったら、いきなり屋根裏部屋の扉が開いて、入ってきた長身にフェリックスは目を見開いた。
「ウォーダン?」
「身体は?」と聞いたら「もう平気だ」といわれた。
「目が覚めて君に会いたいといったら、午後の講義は終わっている時間だというのに、プリンセスの塔に戻ってこないという。
学園の門の守衛の話では、フェリが出て行ったと聞いて……」
「だって僕はあなたにボンド契約解除されたんですから、もうプリンセスじゃないでしょう? だから、下宿に戻って……」
きょとんとした顔でフェリックスがいえば「冗談じゃない!」と痛いぐらいの力でウォーダンに手首をがっちりつかまれた。それこそ逃がさないという勢いで。
「あれは緊急避難的なもので、君に危険が及ばないようにと……」
「それであなたは自分の生み出したブリザードの中で凍えるつもりだったんですか! 僕というボンドを頼らずに!」
思わず怒鳴って、フェリックスは自分が怒っていたことに気付いた。
誰って? 今日絡んできたネラなんかじゃもちろんない。
だいたい今日どころか、目覚めた三日前からで、今のいままでそれに気付かなくて、なんだか感情を置き去りにしたまま、たんたんと過ごしてしまった。
そしてフェリックスは黄色の大きな瞳からぽろぽろと涙を流した。
「フェ、フェリ……泣かないでくれ」
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