どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?

【3】おじさんは月一で整えられる その1

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 妃や愛妾とのあいだに四十五人も王子をもうけたお盛ん……ごほごほ……ともかくフィルナンド王がもっと若く壮健だった時代は、毎夜のように宮中で華やかな夜会が開かれていたそうだ。
 災厄が倒されフィルナンド王は病から回復したが、もう歳も歳であるからして、新たな愛妾の噂もなく、夜会もまた国の行事に関連して、月一程度の頻度となっている。

 そして、その日は昼過ぎより、第2王子ジーク・ロゥ殿下のお屋敷で、おじさんの悲鳴が響き渡るのが定番となっていた。
 もういい加減諦めてもいいだろう?自分……とも思わないでもないが、剃刀を手にした若いメイド軍団に後ずさるのは、もはや恒例行事だ。

 うっすら生えた無精髭は、実のところ無精でもなく毎日の手入れがいるのだ。なんにもしてないようでいて、コウジは毎朝鏡の前に立って、気に入りの微妙な長さにしている。そこはこだわりだ。

「だから俺は自分で出来るって」
「ダメです。コウジ様にお任せすると、かならず剃り残しがあります。このあいだも右顎の下にちょろりと一本ありました」

 「それぐらいいいだろう!」と叫んだら「よくありません!」とメイド達に口をそろえて言われた。
 こうなるともう、若い女の子に弱いおじさんにはなにも言えない。クリームを顔半分にぬられて、つるつるの綺麗に剃られる。そのあとに化粧水やら乳液やらをさらにぬりたくられた。おじさんの顔にやる意味あるのか?

 それから寝癖だらけのくせっ毛を、後ろになでつけられた。肩につくぐらい伸ばした横の髪もだ。耳が出てすうすうするのが、なんとなく心許なくて、思わず髪に手をかけそうになるが、そこに「コウジ様」と執事のケントンの怖い声に、髪に掛かろうとした手がぴたりと止まる。

御髪おぐしに触るお癖は、このお屋敷にお戻りになるまで我慢にございますよ」
「……はい」

 それからジークと揃いの黒に銀の軍服を着せられる。いつもはゆるゆるのネクタイとは違い、首元まできっちりの詰め襟に、つい緩めたくなるが、やはりケントンにちらりと見られて、その手を止める。
 ケントンがそのコウジの手をとって、黒革の手袋をはめていく。細長い指だが節くれ立った手に、ぴったりとそい、まったくキツくもない完全なオーダーメイドだ。この手袋だけで幾らするんだ?とか、考えたくもないが。

 「我慢ですよ」と念押しのように言われてうなずいたのだった。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 黒にいつもより飾りのついた銀の儀典用軍服のジークはかっこいい。まあ普段もこの王子様は完璧でかっこいいのだが。
 彼が王宮の大広間に姿を現すと、人々の注目が集まるのはいつものことだ。序列2位の事実上のこの国の筆頭王子になってからは、なおのこと。

 その横におそろいの軍服をきたおじさんってどうなんだ?とコウジが思わないわけでもない。が、ジークの黒革に包まれた手は、離さないとばかりおじさんの痩身の腰をがっしりつかんでいる。
 そして、ジークの左の肩にはマントがたなびき、コウジの右肩にも同じく。二人が並ぶと片方の肩につけられたマントが見事に左右対称になる。いや……だからおじさんとそんなところもおそろいにして嬉しいか?

 そうして、当然のごとく“最初のダンスはおじさん”とだ。さらにいうなら“ラストダンスもおじさん”とだ。

「ほら、行ってこい」
「ああ」

 最初の曲が終わり多少不満げな顔でジークがコウジから離れる。とたん彼の周りにはドレスの花が群がるが、ジークはその中から比較的年かさの……つまりは夫のいる貴婦人の手をとった。若い娘達はあからさまに不満げな顔となるが、爵位も高い夫人になにか言うことも出来ない。

 選ばれた夫人は誇らしげにジークとダンスし、彼になにごとか話しかけている。
 おそらくジークは次も年増……ごほごほ、もとい成熟したご夫人の手を取るのだろう。若い令嬢方には悪いが、これでも“進歩”したほうなのだ。

 なにしろジークは初めは「あなた以外とは踊らない」と主張して譲らなかったのだ。それをなんとかなだめすかして、最初と最後のダンスの相手はしてやるからと納得させたのだ。

 約束したことはもう一つあるが。

 「コウジ様一曲いかが?」と誘ってきた、物好きな貴婦人に「いやいや、情けないことに女性パートしか踊れないので、綺麗な靴を踏んづけては大変だ」とコウジは断り壁際に移動する。
 『あなたは誰とも踊らないで』と年下の可愛い恋人に懇願されてしまっては、おじさんとしては聞き入れざるをえない。

 給仕よりグラスを受け取り、壁に寄りかかってうまいワインをちびりちびりとやっていれば、コンラッド王子の次は元老院のお偉方の侯爵と踊り終えた、シオンがこちらへとやってくる。

「あなたは踊らないの?」
「おじさんを誘うモノ好きはいないさ」
「どうかしら、さっき素敵なご婦人があなたに声かけているのを見たけど」
「ダンスのヘタクソなおじさんに足を踏まれてまでって、勇敢なジャンヌ・ダルクはいないぜ」
「嫉妬深いパートナーに自分以外とダンスすることは許されていませんって、はっきり言ったらどうなの?」

 これにはコウジはまいったな……と内心苦笑して沈黙する。

 シオン達には先の災厄討伐で自分達の関係はバレている。なにしろ目の前で盛大なキスシーンをやらかしたのだ。ジークに強引にされたとはいえ、最後にはうっとりしたおじさんも、王子様の首に手を回していた。

 あれはコウジの黒歴史だ。

 「束縛系の男は今どき流行らないって教えてあげたら?」と言われて「そこが可愛いんでね」と答えたら、シオンに呆れた顔をされた。
 コウジとしてはシオン達にはいまさらこの関係を隠すつもりはない。というよりジークに隠すつもりがさらさらないのだ。

 毎月の夜会にそろいの軍服でやってきて、おじさんの腰をがっしりつかんで離さず、最初と最後のダンスは必ず踊ってりゃ、そりゃ噂にもなる。
 とはいえ、相手がくたびれたおじさんなので、シオン達以外は皆、半信半疑というところだが。ジークとコウジが災厄を倒したパートナー同士というのも、ある意味の隠れ蓑?になっている。

 だから、社交界では、あの二人は本当にそういう関係なのでは?というのと、いやいやいくらなんでもコウジ殿はただの盟友と、意見は真っ二つに割れているらしい。





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