どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?

【3】おじさんは月一で整えられる その2

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「ピート王子とマイアちゃんが、意外にも一番しっかりしてるのもかな」

 そのコウジの視線の先には、老貴婦人のダンスのお相手をするピートと、同じく老貴族の紳士と笑顔で踊るマイアの姿があった。どちらのご老人も余生の楽しみとして慈善事業に力を入れている彼らの協力者だ。
 コウジがしっかりしているというのは、ピートとマイアの婚約が、すでに一月ほど前に発表されていることだ。結婚については数年後ということになっているが、あの二人なのだから、そこらへん心配ないだろう。

「それでシオンちゃんのほうはどうなんだ?」

 聞くのは野暮かと思いながらも、くわえ煙草で口に出す。本日はすみれ色のドレスに身を包んだ美少女は憂い顔でため息を一つ。

「なんのことかしら?と言いたいところだけど、ピート殿下とマイアが婚約してからは、当然わたし達もって空気になってるわ」

 そもそもが運命の王子様と魔法少女は当然のように結婚してきたのだから、周囲もそう思って当然だろう。

「だけどシオンちゃんは迷っているか?あのコンラッド王子は堅物だと思うが、そのぶん誠実だとおじさんは思うぜ。
 なにより、シオンちゃんのことが好きなのは丸分かりだ」

 「はっきりいうのね」とシオンはこのときばかりは年頃の少女らしく頬を赤らめる。
 彼女だってコンラッドのことは憎からず思っているだろう。そもそもが女神様の裁量とはいえ、運命のパートナー同士の相性はいいのだ。だから、一人の例外もなく王子様と少女は結ばれてきた。

「コンラッド殿下は、ジーク・ロゥ殿下と同じ第2王子で、第1王子の座が空位の今、実質上皇太子と同じよ。どちらかが将来の王となる」
「俺はコンラッド殿下が次の王様だと思うがな」

 ジークが王位なんぞ望んでいないことは、コウジが一番よくわかっている。それにいくら彼が不遇の王子から国の英雄になったとはいえ、あの憎まれた公式愛妾エノワールの息子であることは変わりない。
 老害……もとい元老院の長老どもは、いまだそのジークの出自にこだわっているのだ。彼らからすれば愛妾の庶子よりも、準妃の正嫡であるコンラッドが王になることが順当だと考えているだろう。

「わたしはコンラッド殿下が王になろうとなるまいとそばにいて、その仕事を手伝いたいとは思っているわ。国の仕事はやりがいがあるもの。まだまだ色々勉強しなきゃならないけど」
「シオンちゃんは王妃様向きだと思うけどな」
「そこよ。王となれば、かならず正妃だけでなく、準妃も娶らねばならない。これは慣例よ。当然、私が正妃となるでしょうけど。
 しかるべき家から強い魔女の血を持つ貴族の娘が選ばれるでしょうね」
「決まり事だからって納得出来ることじゃないよな」

 ああ、それがあったか……とコウジは今さら思う。
 王に嫁いだ歴代の魔法少女がこの制度にどうおりあいをつけてきたかわからないが、しかし、現代日本の女性の価値観からすれば、夫が複数の妻を持つことにはたしかに抵抗がある。
 まして、シオンのようにしっかりした考えの少女ならばなおさらだ。

「あなたのほうはどうなのよ?」
「ん?」
「コンラッド殿下はね。長老達の意見はともかく、ジーク・ロゥ殿下こそが次の王に相応しいと考えているようよ」

 コウジはその言葉に軽く目を見開く。たしかにコンラッドはジークのことを高く買っているようだったが、そこまでとは……だ。

「そして、ジーク・ロゥ殿下が王となれば、当然あなたを正妃の座に据えるのでしょうけど」
「おじさんをか?冗談キツイぜ」

 コウジはくわえ煙草の口許をゆがめて茶化そうとしたが、シオンがそれを無視して続ける。

「この場合、正妃とはいわず、正王配と言うべきかしら?だけど、準妃は当然必要とされるでしょうね。ジーク・ロゥ殿下がいくらあなたを大切にしようとも、次の皇太子は望めないのだから」
「…………」

 むしろ、シオンの場合よりも、もっと準妃が重要視されるだろう。
 王の役目は国を統治するだけではない。次の血を確実に残すことが、王国の安定につながるのだから。

「あの頑固者がそれに納得すると思うか?」

 頑固者とはジークのことだ。コウジが誰かと踊ることさえ許さないほど自分に執着している男がだ。

「そうよね」
「だから、コンラット殿下が次の王様だってヤツは考えている」
「だけど、たとえ王にならなくたって、英雄の血を残したいと考える人達だっていることも確かよ」
「…………」

 シオンはそれだけ言い残して、広間の中央へと出て行った。そんな彼女にさっそくダンスを申し込む貴族があり、彼女はその手をとっていた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 ラストダンス。
 当然のようにコウジの手を取りにきた、ジークとともに踊り出す。その顔をじっと見れば「なにかあったか?」と聞かれる。

「なにもないぜ」
「シオン嬢とずいぶん話していたようだが」
「なに、嫉妬か?」
「うん」

 素直に答えるのに思わず吹き出してしまう。まったく、このかわいい男はコウジに関してはこの手の感情を隠しもしない。

「彼女にはコンラッド殿下がいるのに?」
「それでも気に入らない」
「俺だって、お前がご婦人の手をとって踊るのを壁際で見ていたぜ」
「なら、もうあなた以外とは踊らない」
「それはダメだ。ちゃんとお相手するのも円滑な社交のコツだって、執事のケントンさんも言っていただろう?」

 「そのかわり、最初と最後のダンスは俺としてくれ」と言えば、王子様は「ああ」と満足げに頷く。
 この様子じゃ、万が一にだってジークが準妃を娶るなんて日がくるとは思わないが。

 それでも“英雄の血を残したいと考える人々”というシオンの言葉は、コウジの胸に小さな棘のようにひっかかった。





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