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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?
【4】街の噂と王様襲来 その1
しおりを挟む朝、目覚めれば男の腕のなか。「今日もあなたを愛してる」とささやかれて「俺も」と返して互いのひたいや頬に口づけあい、最後に唇。
どこの馬鹿ップルか? と思うだろう。
これが超絶美形の王子様とおじさんの朝のルーティンだ。
最初のころは本気で毎日やるのか? と照れていたコウジだが、最近ではごくごく自然に「愛してるぜ」とジークの頬に口づけているから、慣れって怖い。
今日の朝食は「パンでチーズがとろりとしたの……」とリクエストどおり、クロックムッシュ。寝台から起き出して、やわらかな光差す朝食用の食堂で食べた。朝昼晩で食事を取る場所が違う生活にも、すっかり慣れた。
コウジの前にはクロックムッシュ一枚と新鮮なミルクのカフェオレ。ジークの皿にはクロックムッシュ二枚のうえに、ソーセージに蒸した芋、焼かれたトマトも添えられている。食欲旺盛なのは若い証拠だと思う。そしてミルクをいれないブラックの珈琲を飲む姿に、おじさんより味のこのみが渋くないか? と思うが。
「今日の予定は?」とジークに聞かれて「ん」とコウジはうっすら生えた無精髭を撫でて考える。
「街でもぶらぶらするか」
なにかあればまたシオンに文句を言われるのだろうが「私は今日王宮で軍議がある」とのジークの言葉に「ん」とうなずく。
「午後には王宮に戻るさ」
どうせ誰もやってこない、なんでもやる課の部屋で昼寝か茶菓子を摘まむだけとなるが、仕事なんてそう張り切ってやるもんじゃない。休み休みでいいというのが、おじさんの考えだ。
傍目からは遊んでいるように見えるだろうが、それはまあ“計算”だ。
「では執務が終わったら、あなたの部屋に行く。一緒に帰ろう」
「いつも一緒だろうが」
これもまた朝の二人の会話だ。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
活気ある王都を歩いていれば、すっかり顔なじみとなったコウジに、かかる挨拶の声や「ちょっと困ったことがあるんですよ」と街の女将に声をかけられる。
「もう、一年も前から石畳に穴が空いちまって、いくら役所に言っても直してくれないんですよ」
馬車や荷車の車輪が穴にはまる度に、近所の店の者達が総出で引き上げてやっているのだと、パン屋の女将がブウブウいうのに、コウジは「言っといてやるよ」と返す。
「ここ数年は災厄があちこちに出て、軍も大変だったからな」とフォローも忘れない。道路の補修や用水路の手入れなど国の公共事業なんかは、このフォートリオンでは平時の軍の仕事の一つだ。有事以外は訓練ばかりで兵士の給料がとんで行く常備軍のいい活用法だと思うが、さて軍がその有事に掛かりきりとなると、道路の穴だけじゃなくこういう穴があく。
「だけど災厄が倒されてもう半年にもなるでしょう? そろそろしゃっきりしてくれないと、道路の穴だけなら荷馬車を引き上げればいいですけど、西の区画のほうじゃ、手入れを怠った水道管が破裂して大騒ぎ」
「そりゃ大変だな」
「ええ、まあそちらはさすがにすぐに工兵が駆けつけて直してくれましたけど。うちのほうだって年に一度はあった点検がもう二年もないんですからね。いつ破裂するやらハラハラして」
「水が使えなきゃ、パンだって焼けませんよ」との女将の言葉にコウジは苦笑して「それも言っておくよ」と答えておく。
災厄が祓われたあとのゴタゴタは、半年たったがまだ収まってはいない。いまはただ“災厄の女”とのみ呼ばれる、正妃アルチーナがフィルナンド王に毒を盛って病床に押し込み、そのあいだ政を思うがままにしたのは、災厄の活動が活発化したここ数年のことだが、そのあいだにずいぶんと国政は乱れたようだった。
ことなかれ主義の官僚達の行政の硬直化に、今は牢獄に押し込められている、元親衛隊長にして魔法騎士団長ハーバレスの横暴。国軍を率いるロンベラス将軍と同格とされながらも、王室に近い親衛隊長ゆえに上位格とされていた、それを利用してヤツは色々とやらかしていたのだ。
軍費の流用にはじまり、あちこちの商家から借金や、店での飲食のあげくの踏み倒し。魔法騎士団幹部全員で繰り出した高級娼館での狼藉。
叩けば叩くほど出てくるほこりに、専任の調査官が頭を抱えたほどだった。
そんな理由で親衛隊およびに魔法騎士団は解散となった。いまは国軍の近衛隊に組み入れられて、ロンベラス将軍の管轄となっている。
「それにねぇ、場末の酒場の飲んだくれの乱闘なんて毎日ですけど」
フォートリオン名物の午前の広場でのさらし者だ。それがどうした? と口に出さずにコウジがパン屋の女将を見れば。
「元は赤い軍服を着てお偉かった騎士さんたちが、緑の制服を着崩して飲んだくれている姿は、あまりカッコいいものではないですよ」
女将は周囲をはばかるようにコウジに小声で「それにお国の批判までねぇ」と告げる。
赤い軍服とは元魔法騎士団の騎士達のことだ。騎士団は解散となったが、赤い制服は近衛の魔法騎士の証として残されている。
が、ハーバレスに近く素行の悪かった者達は一騎士に降格となって、緑の国軍の制服をまとうことになった。
「我らが英雄とその盟友のことも、かなり口汚くののしっているようでねぇ」と女将はコウジを前に心配顔だ。英雄とは当然ジークのことで、盟友はコウジのことだ。
「まあ、酔っぱらって口に出たことのとがめ立ては出来ないな」
これはフォートリオンの法にあることだ。酒場では国に対する批判や不敬にあたるような言動でも許す。所詮は酔っぱらいの言葉だと、これは中興の祖たるカール大帝が定めたものだ。
かの大帝は大酒飲みで有名で、その逸話が王宮内にいくつかある。中でも西回廊の獅子頭の彫像のひび割れは修復されないまま残っている。大帝が酔って拳で叩いたというから、どんな怪力だったんだ? と思うが。
そんな数々の己の失敗ゆえに、愛すべき酔っぱらい達へのこの法なわけだが。
ただし、カール大帝のこんな言葉もある。
酒での言葉をとがめだてはしないが、聞いた余人の耳には残る……と。
酔っぱらっての暴言で罰しはしないが、思わず出たお前の本音は覚えているぞと……よく考えれば怖い言葉だ。
「悪酔いしてくだまいたあげく、酒代も払えないんじゃって、酒場の親父がぼやいてましたよ」
「相変わらず飲食代踏み倒しているってことか?」
暴言よりもそっちのほうが問題だと、コウジが眉をしかめる。またも軍人であることで威圧して酒代を踏み倒して歩いているならば、今度は降格どころではなく、ハーバレスと同じく監獄行きとなるだろう。
「いえいえ、それがねぇ。奴らが飲んだくれてると酒代を先払いしてくれる人がいてね。親父としては金がもらえるから文句は言えないと」
「先払い? それはずいぶんと奇特だな。どこの者だ?」
落ちぶれた魔法騎士達の酒代を肩代わりするとはだ。
「それがねぇ、マントのフードを目深に被って顔はわからないんですって。身なりからして、どこぞの貴族の家のお偉い使用人だろうとは、親父は言ってましたけどね」
「ふぅん」
「ま、とにかく道の穴は近日中にふさがるさ」と言い残してコウジはその場をあとにした。
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