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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?
【12】波乱の婚約式~なにごともないわけないよな~ その2
しおりを挟む婚約式は発表から五日後という慌ただしさだった。
理由はなんとなくわかる。おじさんがあれこれ考える前に、のっぴきならない状況に持ち込みたいのだろう。
「いや、俺だってさ、逃げるつもりはないよ。ないけれどさ、もう少し地味にさ、こう内々でこっそりとかさ~出来ないのかな? って」
王都郊外のジークの邸宅というか、もうコウジの家か。家だ。こんなでっかい家に住む予定は、修羅の街中目黒の掃除屋にはなかった。築ん十年の事務所兼住居の雑居ビルの一室だったな。たしか住み処の設定は!
それが今はでっかい居間にちょっとした舞踏会が開ける大広間があり、大きな晩餐用の部屋。さらには家族用の朝と昼の食堂に晩の食堂。主人“夫夫”のそれぞれの私室に寝室。さらに図書室やら使用人の住居やらなにやら含めると、何部屋あるのかわからない邸宅の主の一人だ。
そして、いまは仕度部屋にて執事のケントンが重々しく首を振っている。
「序列第2位の殿下のご婚約式が、うちうちですまされるものですか。これは国家行事です」
「だ、だからって王宮から神殿までパレードとかさ。ふ、服装もいつもの軍服でいいんじゃね?」
シャツにスラックス姿のコウジに着せられるようとしているのは、いつもより肩のモールもご立派で胸の飾り刺繍も黒に銀の軍服だ。さらにマントは片方の肩に掛ける腰丈のものではなく、両肩にくるぶしまでの重そうなヤツ。
「いけません、夜会などで着ていくものは準礼装。婚約式に臨まれるならば礼装でなければ」
いつものように髭を剃られ髪は後ろになでつけられて、さらに肩にはずっしりと重い軍服の上着にマント。
「これを結婚式でも着るのか?」
いつもの黒の革手袋ではなく、白の子羊の柔らかいびったりの手袋を、ケントンにはめられる。いつものごとく「長時間の儀式になりますが、御髪をいじるのは我慢ですよ」と注意された。
このあいだ、王様との謁見で髪をぐしゃぐしゃにしてしまい、あわてて手ぐしで整えたが、帰宅したときに老練な執事にはしっかり見抜かれて、ため息をつかれたことを思い出す。
「いえ、ご成婚の儀となれば、さらに上の大礼装をただいま準備中です」
「まだあるのかよ!」とコウジは叫び「結局、コウジ様がお逃げになりたいのは正装からでしょうが、長くて一日の行事のこと、我慢なさりませ」とぴしりとケントンに言われてしまった。
そして、自分と揃いの黒に銀の軍服。正装姿のコウジの仕上がりをじっと見つめてジークは言った。
「綺麗だ」
「……お前のほうがよっぱど綺麗だよ」
嫌みとは思わない。この王子様が本気で言っているのはわかるが目医者に行けと思う。以前に言ったら、両方ともの視力は鷹なみだそうだ。へえ。
とはいえ、礼装の軍服姿のジークは、いつもどおりにかっこよかった。後ろになでつけられた鏡のような銀髪。白皙のひたいにひとすじかかる髪が色っぽい。こいつの髪を整える従僕は計算しつくしているな~と思う。切れ長の剃刀色の瞳に、通った鼻梁。精悍な頬のラインに酷薄そうな形のよい薄い唇。
本当の性格は酷薄どころか、その唇が大変情熱的におじさんに吸い付くのを知っているが。
がっしりした長い首に、そこから繋がる広い肩と厚い胸板。まったく軍服が良く映える。その歩みとともに翻るマントさえ計算しつくしたように見える。
まあ要約すると、今日も俺の王子様はかっこいいぜ……となる。
この王子様を眺めていれば、儀式の一日の苦行も耐えられるか? と思うほどに。
邸宅から出た瞬間から、写し絵の魔道具の光がまたたいた。王都の各新聞社の魔法記者達がほうきに乗って上空を旋回している。邸宅の門にはその記者達だけでなく、英雄と盟友の姿をひと目見ようと、市民達が詰めかけていた。
正式なパレードではないが邸宅から王宮までもが、そのパレードのようなものだった。屋根付きの馬車の窓から、あがる歓声に手を振るのもなんか慣れてきた。
そして、今度は王宮から屋根無しの白馬の六頭立ての馬車に乗り換えて本番のパレード。あがる歓声に花吹雪。コウジは微笑を口許に貼り付けたまま、手を振り続けた。
ちなみにこのあいだくわえ煙草禁止だ。ケントンに「さすがにパレードのあいだはお控えください」と言われたうえに「コウジ様のそれは皮肉な笑みというのです。もう少し穏やかなものに改善して頂かなければ」と市民の皆さん用の微笑というのを特訓を受けた。顔面神経痛になるかとおもった。
訓練の効果はあったのか、とにかく神殿まではなんとか維持はできた。パレードの間は頭の中で素数を数えることでコウジは対処した。市民の皆様の笑顔笑顔におじさんの姿を見て(以下略……)なんて考えると、だいたい口の片端がつり上がるニヒルなそれになってしまう。
ケントン伝授の、両方の口許を軽くつり上げるのみの下品にならないかすかな微笑み……とやらを維持するには、とにかく頭の中は色即是空。世は無常と……なんのこっちゃ。
神殿についてコウジがホッと息をつけたのは、神官達に囲まれて回廊の奥へすすみ、たどりついた大神殿の巨大な女神の像の間。その裏にある秘匿の部屋にたどりついてからだ。
大勢いた神官達はついて来ずに、大神官長とその側仕え一人。それにジークとコウジのみとなる。
ここで女神に二人は婚約の宣誓をする。
またジークは生涯コウジだけを愛し、他の者を娶ることはないこともだ。コウジもまた同じようにジークだけだと宣誓した。自分の立場からするとそんな宣誓をしても序列2位の王子様のように意味はないだろうが。
これはコウジから言いだしたのだ。
お前だけ神様の前で誓うなんて不公平だろう? 俺もするぜ……と。
ジークが大変感激したことはいうまでもない。
ただこれを言ったのが寝台に入る前だったのは後悔した。その夜の王子様は大変しつこ……いや、情熱的だった。
ともあれ普段は小っ恥ずかしいだのガラじゃないだの言ってるコウジだが、儀式のあいだは大変まじめに文言も間違えることなく宣誓し、二人は大神官長の前で、羊皮紙に連名で署名した。
そして秘匿の部屋から出ようとしたときにそれは起こった。
秘匿の部屋にある祭壇の物陰より、飛び出してきた数人の者達。
“刺客”だとコウジは直感した。
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