どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

文字の大きさ
71 / 120
どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~

【5】おじさんのために争わないで! その1

しおりを挟む
   



 フィラースがなんでジークを名指ししたのか、コウジには手に取るようにわかった。
 理由は知らないがフィラースはジークが自分に敵意を持っていることをわかっている。この革命家の男はそういう相手を避けるより逆にぶつかっていくタイプだ。

 売られたケンカは買う。買ってどちらが上か示す、もしくは同格ならば肩をたたき合って健闘をたたえ合い仲を深める。
 殴り合って友情をはぐくむなんて青春だねぇ~とは思うが。

「コウジ、よいだろう?」

 だから、なんでおじさんに確認をとるんだ? と言いたい。いや、これは挑発だ。フィラースがコウジに声をかけたとたん、ジークのまとう空気が剣呑なものとなった。こいつわざと挑発してやがると恨めしくフィラースを見る。

「ジーク、どうなんだ?」

 コウジは答えず、当然ジークに訊いた。

「私は構わない。お相手しよう」

 鉄面皮の王子様はどこまでも表情には出さない。こいつが熱くなっているのがわかるのは俺だけだろう。いや、熱いというより絶対零度モードに入りやがった。
 怒れば怒るだけ冷静になるってのは良い資質かもしれない。ただしコウジはあんまり相手にしたくもないが。

 フィラースは「ありがたい」と楽しげだ。うん、革命家ってのはギャンブラーの資質もあるもんだ。リスクがあればあるほど、こいつは燃えるタイプだった。

 そして、二人の戦いが始まった。

 始めの合図もない。双方、向かいあっている。そのまましばし時間が過ぎ、白い羽をはためかせたモルガナが「なにをしているのよ」とブツブツ文句を言う。アンドルもまた七三事務服に黒い革靴のつま先でコツコツ床を叩いてイライラしているようだった。まったく両方ともこらえ性がないし、すでに戦いが始まっていると理解してないって、モルガナ女神はともかく魔法戦士だったアンドルはどうなんだ? と思う。

 逆にコンラッドもピートも真剣に二人の様子を見ていた。魔法少女二人、シオンとマイアはわからないながらも、そんなパートナーの様子にまた、彼女達も対峙する男達を見ている。

 コウジはといえば。

────まいったなあ。少しもすきがねぇ。

 二人とも手に持つ剣も構えずだらりと下げたままだが、まったくもって打ち込む隙がないのだ。
 それで双方、探り合いさえもない、ただ見つめ合っているのだ。駆け引きなんぞ不要というのが、こいつららしいが。

「おいおい、これじゃ、らちがあかねぇぜ。はい! ドン!」

 コウジがパン! と手をたたければ、それを合図に動いた。ジークの黒い聖剣と勇者の白い聖剣が、同じ動きで横にふられる。
 ジークの剣から雷光がほとばしりフィラースの剣から閃光がまたたきぶつかり合う。
 その余波でコロシアムの石の床がめくれ上がって、その破片がこちらにもふりそそぐのを、コウジはくわえ煙草を一つを放り投げて煙の結界で防ぐ。当たり所が悪けりゃ下手すれば死ぬような固まりが結界にはじかれて床に落ちる。

 「すごい」とピートがつぶやく。コンラッドも固唾を呑んで見つめて、シオンとマイアもただただ呆然としている。
 三王子と呼ばれているが、ジークの魔法騎士としての力量が、他の二人より段違いに抜きん出ていることは事実だった。

 これは二人の魔法少女のシオンやマイアよりも、コウジが優れているのと同様。

────というより、あいつ、ますます強くなってね? 

 なにしろこの世に召喚したてとはいえ魔王を倒す“勇者”と互角に戦っているのだ。いや、この世界に来たばかりで、フォートリオンの“英雄”に一歩も退かないフィラースもすごいのか。

 初めの微動だにしなかった二人は嘘のような激しい攻防を繰り広げていた。お互いの手の武器は剣から槍、戦斧へと変幻自在に形を変える。
 それによって間合いも変わるのだが、それもまた妙な言い方だが息があったようにぴったりと、槍には槍、剣には剣、ときに大きく飛んで離れて弓矢のかけあいと、相手の動きに寸分の狂いもなくついていく。

 そして互いの武器だけでなく、魔力のぶつかり。雷と光がハレーションを起こして、虹色の粒子が天へと昇る様は綺麗でもある。そんな狭間にあるものは瞬間にして消滅するだろう。美しくも恐ろしいエネルギーの渦であるが。

 「素晴らしいわ」と羽をはためかせてはしゃぐモルガナ女神に、ただただ目の前で繰り広げられるとんでもない戦いに呆然としているコンラッドにピート、シオンにマイア。とは別にコウジはコロシアム全体を見た。
 ばらり……と天井の石が細かく崩れて落ちてコウジの煙の結界にはねられる。

 「保つか?」とアンドルに聞けば、彼はぶんぶんと首を振る。

「無理です。このままではこのコロシアムどころか、この神殿も壊れかねません」
「あいつら戦いに熱くなりすぎてるな。じゃあ、係のあんたが止めろよ」
「それも無理です。あのなかに飛びこめと? 雷光と閃光でズタズタになりますよ!」
「あんた、神様の息子だろう? 死にはしねぇよ」
「死にます! 確実に死にます。なんてこと言うんですか! この人でなし!」

 事務服七三分けの血走った表情は、上司と部下の板挟みの中間管理職を思わせておかしく、しばらくからかってやりたかったが、ミシリとコロシアム全体が揺れたので「こりゃ、たしかにやばいな」とつぶやく。

「ピート王子、剣借りるぜ」

 「え? はい?」と彼の生返事もまたずに、コウジは左手でピートの剣を引き抜く。次の瞬間には矛を剣へと変化させて、二人の間に飛びこんだ。
 雷と光が渦巻くど真ん中にだ。
 普通ならそんな苛烈なエネルギーが渦巻くなかに飛びこむだけで、皮膚が焼けるどころか四肢も吹っ飛んで肉片になりそうだが、コウジの煙草の煙の結界。“闇”の力が二人の“光”を相殺する。

 飛びこんできたコウジに、二人とも振り下ろそうとした武器をぴたりと止めたのは流石だ。コウジもそれを見越していたのだが。
 下手な奴らなら両腕をもっていかれる覚悟がいるし、コウジもそんな馬鹿なことはしない。

「はい、二人とも“本気のケンカ”はおしまい」

 ジークののど元にピートの短剣の先を当て、フィラースの額には黒光りする銃口を向けて、コウジはニヤリと笑う。
 「やれやれ、もう少し楽しみたかったが」というフィラースのぼやきに「コロシアムどころか、この建物まで壊されるのはな」とコウジは返し、ジークを見る。

「お前も不満そうな顔をしないの。まったくかっこいい俺の王子様が堂々としてりゃいいのに、ま、そこが可愛いけどな」

 コウジは彼ののど元に当てていた短剣を「返すぜ」とぽいとピート王子に投げて、その空いた手をジークの首の後ろに回して、ぐいと引き寄せて。

 そうして口づけた。

 コウジとしてはただ唇をあわせるようなキスではなくて“見せつける”ために、軽く舌でも絡めてから離れようか? という気ではあった。
 しかし、ジークがぐいとコウジの細腰に両腕を回し“やばい”と思った瞬間には、ぐっぽり唇を食われていた。

 舌を“軽く”どころか、がっちり絡め取られて吸われてクラクラした。誰もいなけりゃこのままなし崩しに抱かれるところだが、しかし、ここは公衆の面前だ。
 おじさんに恥じらいはないが、大人の意地はある。年下の恋人ガキに良いようにされてなるものか! 

 力を振り絞ってその秀でた額にデコピンしてやった。ぷはっ! とムードもへったくれもない声をあげてはなれて、濡れた口許をシャツの袖でぬぐいながら「加減を知れ、馬鹿!」と叫ぶ。

 あ、デコピンしたところ赤くなってやがると、指を伸ばして治癒魔法でちょいちょいとそれを瞬時に消しながら振り返れば、さすがの革命家も目の前で繰り広げられた男同士のラブシーンに呆然としていた。

 コウジはニヤリと笑い「俺達、こういう関係なの」と言う。

 それにジークがコウジの腹に後ろから手を回して、抱きしめ、なおかつその髪の毛に口づけながら言った。

「それでは正確ではないぞコウジ。私達は将来を約束しあった婚約者だ」
「あ、うん、そうですね」

 だから、それを口にするのが照れくさいから曖昧にしたのに、どこまでも真っ直ぐでずれてる王子様だった。





しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。