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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~
【5】おじさんのために争わないで! その1
しおりを挟むフィラースがなんでジークを名指ししたのか、コウジには手に取るようにわかった。
理由は知らないがフィラースはジークが自分に敵意を持っていることをわかっている。この革命家の男はそういう相手を避けるより逆にぶつかっていくタイプだ。
売られたケンカは買う。買ってどちらが上か示す、もしくは同格ならば肩をたたき合って健闘をたたえ合い仲を深める。
殴り合って友情をはぐくむなんて青春だねぇ~とは思うが。
「コウジ、よいだろう?」
だから、なんでおじさんに確認をとるんだ? と言いたい。いや、これは挑発だ。フィラースがコウジに声をかけたとたん、ジークのまとう空気が剣呑なものとなった。こいつわざと挑発してやがると恨めしくフィラースを見る。
「ジーク、どうなんだ?」
コウジは答えず、当然ジークに訊いた。
「私は構わない。お相手しよう」
鉄面皮の王子様はどこまでも表情には出さない。こいつが熱くなっているのがわかるのは俺だけだろう。いや、熱いというより絶対零度モードに入りやがった。
怒れば怒るだけ冷静になるってのは良い資質かもしれない。ただしコウジはあんまり相手にしたくもないが。
フィラースは「ありがたい」と楽しげだ。うん、革命家ってのはギャンブラーの資質もあるもんだ。リスクがあればあるほど、こいつは燃えるタイプだった。
そして、二人の戦いが始まった。
始めの合図もない。双方、向かいあっている。そのまましばし時間が過ぎ、白い羽をはためかせたモルガナが「なにをしているのよ」とブツブツ文句を言う。アンドルもまた七三事務服に黒い革靴のつま先でコツコツ床を叩いてイライラしているようだった。まったく両方ともこらえ性がないし、すでに戦いが始まっていると理解してないって、モルガナ女神はともかく魔法戦士だったアンドルはどうなんだ? と思う。
逆にコンラッドもピートも真剣に二人の様子を見ていた。魔法少女二人、シオンとマイアはわからないながらも、そんなパートナーの様子にまた、彼女達も対峙する男達を見ている。
コウジはといえば。
────まいったなあ。少しもすきがねぇ。
二人とも手に持つ剣も構えずだらりと下げたままだが、まったくもって打ち込む隙がないのだ。
それで双方、探り合いさえもない、ただ見つめ合っているのだ。駆け引きなんぞ不要というのが、こいつららしいが。
「おいおい、これじゃ、らちがあかねぇぜ。はい! ドン!」
コウジがパン! と手をたたければ、それを合図に動いた。ジークの黒い聖剣と勇者の白い聖剣が、同じ動きで横にふられる。
ジークの剣から雷光がほとばしりフィラースの剣から閃光がまたたきぶつかり合う。
その余波でコロシアムの石の床がめくれ上がって、その破片がこちらにもふりそそぐのを、コウジはくわえ煙草を一つを放り投げて煙の結界で防ぐ。当たり所が悪けりゃ下手すれば死ぬような固まりが結界にはじかれて床に落ちる。
「すごい」とピートがつぶやく。コンラッドも固唾を呑んで見つめて、シオンとマイアもただただ呆然としている。
三王子と呼ばれているが、ジークの魔法騎士としての力量が、他の二人より段違いに抜きん出ていることは事実だった。
これは二人の魔法少女のシオンやマイアよりも、コウジが優れているのと同様。
────というより、あいつ、ますます強くなってね?
なにしろこの世に召喚したてとはいえ魔王を倒す“勇者”と互角に戦っているのだ。いや、この世界に来たばかりで、フォートリオンの“英雄”に一歩も退かないフィラースもすごいのか。
初めの微動だにしなかった二人は嘘のような激しい攻防を繰り広げていた。お互いの手の武器は剣から槍、戦斧へと変幻自在に形を変える。
それによって間合いも変わるのだが、それもまた妙な言い方だが息があったようにぴったりと、槍には槍、剣には剣、ときに大きく飛んで離れて弓矢のかけあいと、相手の動きに寸分の狂いもなくついていく。
そして互いの武器だけでなく、魔力のぶつかり。雷と光がハレーションを起こして、虹色の粒子が天へと昇る様は綺麗でもある。そんな狭間にあるものは瞬間にして消滅するだろう。美しくも恐ろしいエネルギーの渦であるが。
「素晴らしいわ」と羽をはためかせてはしゃぐモルガナ女神に、ただただ目の前で繰り広げられるとんでもない戦いに呆然としているコンラッドにピート、シオンにマイア。とは別にコウジはコロシアム全体を見た。
ばらり……と天井の石が細かく崩れて落ちてコウジの煙の結界にはねられる。
「保つか?」とアンドルに聞けば、彼はぶんぶんと首を振る。
「無理です。このままではこのコロシアムどころか、この神殿も壊れかねません」
「あいつら戦いに熱くなりすぎてるな。じゃあ、係のあんたが止めろよ」
「それも無理です。あのなかに飛びこめと? 雷光と閃光でズタズタになりますよ!」
「あんた、神様の息子だろう? 死にはしねぇよ」
「死にます! 確実に死にます。なんてこと言うんですか! この人でなし!」
事務服七三分けの血走った表情は、上司と部下の板挟みの中間管理職を思わせておかしく、しばらくからかってやりたかったが、ミシリとコロシアム全体が揺れたので「こりゃ、たしかにやばいな」とつぶやく。
「ピート王子、剣借りるぜ」
「え? はい?」と彼の生返事もまたずに、コウジは左手でピートの剣を引き抜く。次の瞬間には矛を剣へと変化させて、二人の間に飛びこんだ。
雷と光が渦巻くど真ん中にだ。
普通ならそんな苛烈なエネルギーが渦巻くなかに飛びこむだけで、皮膚が焼けるどころか四肢も吹っ飛んで肉片になりそうだが、コウジの煙草の煙の結界。“闇”の力が二人の“光”を相殺する。
飛びこんできたコウジに、二人とも振り下ろそうとした武器をぴたりと止めたのは流石だ。コウジもそれを見越していたのだが。
下手な奴らなら両腕をもっていかれる覚悟がいるし、コウジもそんな馬鹿なことはしない。
「はい、二人とも“本気のケンカ”はおしまい」
ジークののど元にピートの短剣の先を当て、フィラースの額には黒光りする銃口を向けて、コウジはニヤリと笑う。
「やれやれ、もう少し楽しみたかったが」というフィラースのぼやきに「コロシアムどころか、この建物まで壊されるのはな」とコウジは返し、ジークを見る。
「お前も不満そうな顔をしないの。まったくかっこいい俺の王子様が堂々としてりゃいいのに、ま、そこが可愛いけどな」
コウジは彼ののど元に当てていた短剣を「返すぜ」とぽいとピート王子に投げて、その空いた手をジークの首の後ろに回して、ぐいと引き寄せて。
そうして口づけた。
コウジとしてはただ唇をあわせるようなキスではなくて“見せつける”ために、軽く舌でも絡めてから離れようか? という気ではあった。
しかし、ジークがぐいとコウジの細腰に両腕を回し“やばい”と思った瞬間には、ぐっぽり唇を食われていた。
舌を“軽く”どころか、がっちり絡め取られて吸われてクラクラした。誰もいなけりゃこのままなし崩しに抱かれるところだが、しかし、ここは公衆の面前だ。
おじさんに恥じらいはないが、大人の意地はある。年下の恋人に良いようにされてなるものか!
力を振り絞ってその秀でた額にデコピンしてやった。ぷはっ! とムードもへったくれもない声をあげてはなれて、濡れた口許をシャツの袖でぬぐいながら「加減を知れ、馬鹿!」と叫ぶ。
あ、デコピンしたところ赤くなってやがると、指を伸ばして治癒魔法でちょいちょいとそれを瞬時に消しながら振り返れば、さすがの革命家も目の前で繰り広げられた男同士のラブシーンに呆然としていた。
コウジはニヤリと笑い「俺達、こういう関係なの」と言う。
それにジークがコウジの腹に後ろから手を回して、抱きしめ、なおかつその髪の毛に口づけながら言った。
「それでは正確ではないぞコウジ。私達は将来を約束しあった婚約者だ」
「あ、うん、そうですね」
だから、それを口にするのが照れくさいから曖昧にしたのに、どこまでも真っ直ぐでずれてる王子様だった。
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