どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~

【12】おじさんが寵姫!? その1

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 放置されるか、やっぱりの地下牢コースで拷問でも受けるか。殺される……はないか。

「……あんたはまだ俺に利用価値があると思っているだろうからな」

 コウジはナポレオンパイを一口食べる。挟まれた大粒のイチゴは甘酸っぱく、生クリームも遠くで香り高い酒の風味がする甘さ控えめのカスタードが絶品だ。くわえてパイは作りたてのパリパリ感が損なわれていない。まさしく絶品。
 魔界にはナポレオンはいないだろうと、このイチゴのパイの名を自分のお世話係のメイド、リンベイに尋ねたら帝王のパイとのことだった。最上級の菓子にはどこの世界でも敬意を表して、こんな名前をつけるらしい。

 で、場所はコウジの部屋のバルコニーにテーブルと椅子を出しての優雅な午後のティータイム。高みから見渡す景色は素晴らしくいいが、さすがに針の尖塔のてっぺんからのロッククライミングによる脱出は無謀かと諦めた。チッ! 残念。
 いやいや、一度は試してみたのだ。茨の蔦模様が彫り込まれた石の欄干を飛び越えてみたものの、その下に足を引っかける場所がなくて、これはそれなりの装備がなければ無理かと、バルコニーにぶら下がってぶらぶらしていたらリンベイに見つかって悲鳴をあげられた。

 リンベイの上司つうか、フィラースの側近だというデクスという顔色の悪い奴が出てきて「フィラース様のお手をわずらわすな」だなんだと、散々説教された。結局フィラースが来て「まったく、隙間があれば逃げ出そうとする、野良猫のようだな」と言われてバルコニーの柵から外に出られないように結界が張られた。ここからの脱出は不可能となった。再びのチッ! 

 それから毎日午後の茶の時間に、そのお忙しいはずの魔勇者様がコウジの部屋にやってくる。饗されるのはこの魔王城のパティシエが腕によりをかけた、極上の逸品。今日はナポレオンパイで、昨日はザッハトルテだった。いや、それはあっちの世界の名前で、こちらでは夢魔のケーキだったか、そんな名前だった。漆黒のチョコレートケーキには間違いない。たっぷりのクリームを添えて。これもうまかった。

 で、コウジは放置か、地下牢の拷問行きかと思っていたのに、毎日、毎日、極上のスイーツを手にやって来る魔勇者様に「なんでだ?」と尋ねたわけだ。

「拷問など。お前が“その程度”で屈服するとは思えない。ますます、私への反抗心が強くなるだろうな。逆効果だ」
「当たってる。だからってうまいケーキぐらいで、俺の気を引こうなんて、甘いぜ」

 コウジはナポレオンパイの最後の一切れを食べると熱いお茶をすすって、口の中をすっきりさせて立ち上がる。
 バルコニーから部屋へと、フィラースのことなど構わず、チェストの上に積んであった本を一冊とると、それを床において広げて腕立て伏せをする。

「甘い物を食べてすぐに鍛錬か?」
「さして運動もしないで食っちゃ寝していたら、すぐに座敷豚の出来上がりだろうが」
「ダイエットに気をつかうとは、どこぞの姫君のようだな」

 “姫”との言葉にコウジはページをめくる片腕腕立て伏せの姿勢から、かくりと前のめりになる。逆らうことなくそのまま床に突っ伏して、ごろりと仰向けになると今度は両手で本を持ちながら、腹筋を始める。

「あんたまで“姫”呼びは止めてくれよ」
「あの男はお前を普段から“姫”と呼ぶのか?」

 あの男とは当然ジークのことだ。コウジは「だから止せって言ってる」と腹筋のみで上体を起こしながら。

「このおじさん捕まえて“姫”はないだろう。“姫”は。
 それとも顔面偏差値の高い男ってのは、どこの世界でも、平気でさらりとキザったらしい言葉を口にするのか?」

 「それで似合ってるのがシャクに触る」と言いながら、本を手にまた上体を持ち上げようとすると、男が覆い被さってきた。

「そんなに私とあの男は似ているか? お前に比べられると気に障るな」
「いんや、あんたは全然これっぽっちも、俺の可愛い王子様に似てないぜ」

 口許を持ってる本で隠したのはなんとなくだ。まさかこの魔勇者様がおじさんの口に食いつくとは思わないが、それぐらい近かったので。

「まったく気紛れでそっけない、猫のようだな」

 興が削がれたとばかりに男は立ち上がり、部屋を出て行った。

「……人を猫扱いするのも伊達男の特徴なのかねぇ」

 あの四十五人の王子を作った恥知らず、もといフィルナンド王にも野良猫に例えられたことがあるな……とコウジは読書と腹筋を続けながら、ぼやいた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 魔王城の長い廊下。名を呼ばれ振り向いて、デクスは内心で顔をしかめた。表情に出すことはないが。

「ガリオン、なにか用か?」
「用か? はないだろう。相変わらずお高く止まっているな」

 ガリオンと呼ばれた大柄な魔族の男は、不敵に笑いながら大股でこちらにやってきた。
 最近、軍のなかで台頭してきたもので、一兵卒から三番隊の黒狼旅団長まで成り上がった男だ。性格は粗暴で粗雑。ある意味、力こそすべてという魔族そのもののような男だ。

「それで、代行殿の寵姫の様子はどうなんだ?」

 現在、魔界の実質上の支配者はフィラースであるが、彼は魔王ではなくその代行者ということで、この名で呼ばれている。
 しかし、寵姫とは? とデクスが顔をしかめれば、ガリオンは下卑た笑いを見せて。

「東の塔のてっぺんにいる貧相な人間の男だよ。なのに代理殿はまるきりお姫様扱いだって話じゃないか。甘い菓子を料理人に作らせてよ、お忙しい身だってのに、毎日、足しげくお通いになってる」

 「オスだっていうのに、よっぽど具合がいいのかね」と下品な笑い声さえたてる相手に、デクスはそのまゆをひそめる。

「フィラース様はそのようなお考えで、あの男を客人として遇しているわけではない」
「では、どのようなお考えなんだ?」
「…………」

 実のところデクスにもそれはわからず沈黙する。それを「話せないってことは、あの噂は本当か」とガリオンは言う。

「噂?」
「塔の上の神子みこと交わると、力を得られるってな」
「馬鹿馬鹿しい。どこの誰がそんな噂を言いだしたか知らないが、あれは単なる異世界の男だ」
「そう異世界だ。代行殿と同じ世界から呼び出されたな」
「…………」

 おそらくはフォートリオンとやらの世界においての、異世界から召喚される魔法少女と王子との関係を曲解した話が伝わったのだろう。それにあの男がフィラースと同じ世界からやってきて、なおかつ以前からの知人であったことも、噂話におひれがついたか。
 「噂は噂だ」と言い捨ててデクスはその場をあとにした。

 そのような噂が出回っていることと、ガレオンの性格からして警戒すべきだと、フィラースの耳にいれるべきか? とデクスは一瞬考えたが、しかし、止めた。
 告げ口は彼の性格から好まないし、下卑た噂で敬愛するフィラースの耳を穢したくもない。

 フィラースが魔王代行となってから、魔界は変わった。いまだ力への信奉と支配は続いているが、理不尽な略奪や死闘は禁じられて、それを犯せば魔族といえど厳しく罰せられる。
 領土は次々と広がり新しく統合した異種族への秩序ある統治は、魔界に富をもたらした。身分に関係なく能力は評価され、デクスのような下級貴族の青年も、フィラースに取り立てられて側近となっている。

 ガレオンのようなスラム出身のものが、這い上がってきたのも、そのおかげといえよう。だから奴が気に入らなくとも、その力は認めなければならないとデクスは思っている。
 同時になんの力もないあの異世界人を、どうしてフィラースが丁重に扱っているのか? 

 嫉妬が無かったといえば嘘になる。
 そして、ガレオンの不穏な言動と態度はデクスの胸の内で握りつぶされた。





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