どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

文字の大きさ
84 / 120
どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~

【11】綺麗さっぱり忘れる男 その2

しおりを挟む
   



「あんたが俺を引き留めたのは“側近”なんて曖昧な役職で、俺に裏の汚れ仕事をさせるためだとわかっていた」

 短期の契約関係ならば、お互い仕事と割り切れる。しかし、長い付き合いとなれば個人的な関係も生まれるし、感情の齟齬も出てくるだろう。それをコウジは嫌ってはなれた。

「もっとハッキリ言えば、汚れ役なんてのは所詮最後にはすべての責任をなすりつけられて、トカゲの尻尾切りもいいところの末路が見えていたからな。
 いくら報酬がよくたって、そんなものには手を出せねぇよ」
「本当にハッキリ言う。そういうところは、私の知るコウジそのままだな。
 だが、私は個人的にも結構、お前を気に入っていたんだ。さすがに使い捨てて見捨てるなんて考えていなかったさ。
 多額の報酬と永久の国外追放というところだったろうさ」
「それはあの国の大統領だった“甘かった頃”のあんたならな。
 だけど今のあんたは、昔なじみだろうとなんだろうと、不要となれば始末するつもりだった」

 「なぜ、そう思う?」心外だとばかりに黄金の目を見開くフィラースに、コウジは大した役者だとばかり「はっ!」と鼻で笑う。

「あんたは転送で無防備になった俺達に、ためらうことなく最大級の閃光を放ったじゃないか」

 あれが直撃すれば全員確実に即死していただろう。そこに昔なじみのコウジがいる手加減も、短いながらもいままで共に戦ってきた仲間達に対する情けなど微塵もなかった。
 そして、そのことを指摘されてもフィラースの表情には少しの揺らぎもなかった。彼はそれが当たり前のことのように口を開いた。

「だが、その攻撃を自らが盾になって受けて、お前は気を失うだけですんだ」

 そういえばそうだったな……とコウジは思い出す。あの直撃をうけたあとからの記憶がない。

「なんで俺、助かったんだ?」
「本当に覚えていないのか?」

 首をかしげれば、そのままフィラースにまたベッドに押し倒されていた。おい、なんでまたこの体勢なんだ!?

「お前の話からすると、この身体は神が作ったことになる。そのあたりに秘密がありそうだな」

 そこはコウジも少しは思い当たる。あの神様は久々に直接創ったのが自分だと言っていた。
 御使いなんてのは話半分に聞いておいて、やっぱりこの身体は少し、特別製なのか? と思う。
 シャツの裾から再び入りこもうとする手に「おい、冗談はよせ」とコウジは眉間にしわを寄せる。

「あんたは女好きだっただろうが」

 そうこの革命家、なかなかモテた。その上に関係を結んで別れた女に恨まれないという、特異な才能を持っていた。天性の人たらしとも言えるが。

「お前のパートナーである王子が、あれだけの力を持つのもお前に秘密があるかもしれないぞ」

 たしかにジークが子供のときに彼とパートナーとなっていた。その絆が彼に力を与えていたのが、確かではあるが。

「魔力連結ってのは、互いの力が対等で循環させてこそだ。片一方だけ偏ってりゃ、逆にないほうに吸い取られる。
 あいつは元から魔力が高いんだ」

 聖女の肉体をまとってフォートリオンをその魅了の力で奪い取ろうとした女神モルガナは、己の手駒として複数の王子と契約をした。が、女神アルタナによって彼らの魔力が無くなったとたん、一方的に吸い取られて、美しい少女の姿から老婆の姿へと変貌した。

 コウジの言葉に「ほう」とフィラースは興味深いと声をあげて。

「では、あの王子を捨てて、この私に鞍替えするのはどうだ? お前のいうとおりならば、私達はお互いを高め合えると思うのだが」
「断る」
「にべもないな。あの王子がそんなに良いか? 散々に抱かれて身体から馴染んだか?」

 その言い方にカチンときた。拳で目の前の綺麗な横面を張り飛ばしたのは反射的だ。
 以前、ベッドでジークに手を出したことを思い出す。あのときは平手だったのは、やっぱり可愛い恋人に対して手加減していたのだと、自分のことなのに今さら思い知る。
 同時に目の前の男には怒りしか沸かなかった。

「俺が男にまた開いて屈服してると? 冗談じゃねぇ。俺達はそんな関係じゃない」

 ああ、これも同じようなことをジークに言ったな……と思う。
 抱かれるのではなく抱き合うのだと。
 互いに背中を預けて共に戦うものだろう? と。

「この私を殴るとはな」

 あえてコウジの拳を受けた、フィラースは切れた口の端を指でぬぐう。コウジの痩せた両手首を片手でまとめてベッドに縫い付ける。「ぐ……」と思わず声が漏れたのは、その手の力ではない。その全身から発する魔力で全身押さえ付けられたからだ。

「魔族以外の種族どころか、魔族であっても死罪ものだぞ」
「なら俺をお手討ちにでもするか? 魔勇者様よ」
「いや死罪よりも、お前にはもっと有効な手段がある」

 シャツの中に入りこんだ手に、肌を撫でられて背筋にぞくりと悪寒が走る。

「女好きだったお前が根性で男を抱くか?」
「あの王子が散々仕込んだ身体だ。具合はいいのかもしれん」
「まあな。抱かれ慣れていることは認めるよ。お前が乱暴にしなけりゃ反応するだろうし、突っ込まれりゃ感じるかもな」
「そこは認めるのか?」

 淫乱が……と嘲るように笑うフィラースに対し、コウジも侮蔑も隠さずに不敵に、口の片端をつり上げる。「鼻先をくすぐりゃくしゃみが出る。生理的反応って奴だ」と続けて。

「あんたが俺に暴力を振るったところで、その程度のことだ。身体の傷は癒えるし心にはかすり傷一つも残らねぇよ」

 これはセックスではなく単なる暴行だとコウジは言ったうえで、自分は傷つくことはないと金色の瞳を見据える。

「あんたは俺の記憶に一つもひっかき傷をつけることはない。ここを出たらさっさとあんたのことは忘れるさ」
「……残酷な男だ」

 フィラースがコウジの上から退き魔力による圧も無くなる。そのまま彼は部屋を出ていったがコウジはそちらを見もしなかった。
 ベッドに仰向けになったまま、しばらくしてぽつりと漏らす。

「……顔見てぇな」

 誰のことかなんて……。離れて一日もたっていないだろうし、今のことで心細いわけでも、泣きたいわけでもない。
 ただ無性に会いたいと思った。





しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。