ウサ耳おっさん剣士は狼王子の求婚から逃げられない!

志麻友紀

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愉快な大公一家【ノクト×スノゥ+子供達編】

最強女王様と麝香の女侯爵【中編】

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「愛の試練?」

 ノクトがいぶかしげに訊ねると「ええお二人の“純愛”は大陸中で有名ですもの」とヴィヴィアーヌはいう。

「兎族が起こした“愛の奇跡”だったかしら。
 本当にそんな“永遠の愛”があるのでしたら、わたくし、ぜひ拝見してみたいものですわ」

 ふ……と真っ赤な唇の端からこぼれたのは嘲笑だ。あの議場で「愛は移ろいやすいもの」と語ったきと同じく。

「ですからね。お二人がわたくしの“ご招待”に応じて、無事にわたくしの考えた試練を乗り越えて明日を迎えられましたら、わたくし、その“真実の愛”とやらを信じてもよろしいですわ」
「それを俺達が受ける筋合いがあるとでも?」
「もちろんお断りしてもよろしいですわよ。お二人の愛はわたくしの“挑戦”を受けず逃げるほどに、もろいものだとこちらは思うだけ」

 ヴィヴィアーヌは挑発的に見返す。これを受けないのならば、あなた達の愛は偽物だといわんばかりに。

「で、その愛の試練とやらを俺達が乗り越えたとあんたが認めたら、どうしてくれるんだ?」
「もちろん、お二人の愛を認めますわ」
「それだけでは足りぬな。今日の議題での発言の撤回を私は求める」

 ノクトの言葉にヴィヴァアーヌは軽く意外だと目を見開く。

「あら、てっきり本日の議題をすべて認めろといってくると思ったのに」
「賛成反対は各国の代表の裁量に任されている。強制は出来ない。だが、確かに永遠の愛はあるのだと、明日の議場でおっしゃっていただけるだけで十分だ」

 ぴくりとヴィヴァアーヌの整った細い眉がはねる。それは愛に奔放に生きる女傑が、己の敗北を認めるようなものだ。
 さてどちらが挑発し合って、引くに引けない状況となったのか。
 女侯爵が「よろしいわ」と強気に微笑んだ。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 指定された“舞台”はとある秘密の館。そこで開かれる仮面舞踏会。
 種族で正体がわからぬように、耳はターバン隠し、さらには頭には前時代風の羽帽子。尻尾もこれまたひと昔前の宮廷騎士風のマントですっぽりおおい隠して、目元を仮面で隠してしまえば、誰が誰だかわからない。
 館の入り口の門番に女侯爵から渡された招待状を渡して中に入れば、「ようこそ」と声をかけられた。そこには愛の女神の姿をしたヴィヴァアーヌがいた。マスクはしているが耳も尻尾も隠していない。自分の身元など隠すつもりなどないとばかりだ。

「これからお二人は、それぞれに別れてこの仮面舞踏会を楽しんでいただきますわ。条件は必ず別のお相手と踊ること。それから、お相手の誘いを断らないこと。
 ひとつでも破ればあなた達の負け。
 ああ、キス以上のお誘いはお断りしてよろしいですわよ」

 そう告げてヴィヴィアーヌはくつりと笑う。

「そう、ふらりと誘惑に負けたならば、これも“永遠の愛”などないという証明になりますわね」

 さらに二人の目の前にはシャンパンのグラスが差し出された。

「それからこれを一気に飲み干してくださいな」
「媚薬いりか?」

 スノゥが聞けば「ええ」とヴィヴィアーヌはあっさり認めた。

「ごくごく軽いものですわ。そう、ちょっと楽しくなって身体が熱くなる程度。真実の絆で結ばれているとおっしゃるならば、まさか相手を裏切るなんて気は起きないでしょうね」

 二人は視線を交わしあうと、一気にそれを飲み干した。「では、わたくしと一曲踊ってくださいませんこと?」とヴィヴィアーヌにノクトは連れていかれた。
 そして、スノゥには「お相手を」と男の手が差し出される。麝香猫の男だ。これもヴィヴィアーヌの息がかかったものだろう。
 ダンスの誘いは断らないことと言われている。スノゥは差し出された手短な手をとって、仮面舞踏会の一番の会場である大広間にはいる。スノゥが手をとった男以外たちの、男も回りを固めてついてくる。それも麝香猫の雄達だ。
 正直鼻が曲がりそうにくさい。普通なら誘惑の香りなんだろうが、視線とともに身体にまとわりついてくるそれは、スノゥにとって不快なものでしかなった。

「あ……」

 だから、広間にはいったとたん、男の手を放した。誘いには一度のったのだから、断ったことに入らないだろう。
 楽団の流す曲に従って、スノゥは鼻歌を歌う。それだけで自分の周囲に緩く風が吹いて、身体にまとわりつく不快な匂いを払う。
 同時にくるくると一人で円舞曲ワルツを踊り出す。相手がいないのに、あたかもいるかのように誰よりも巧みに優雅に。
 たちまちスノゥは注目を集めて、あちこちから男女問わず、一曲を……とばかりに手が差し出される。群がる仮装した彼らに、麝香猫の男達は自然にその輪からはじき出されていた。彼らの戸惑う様子にくすりと笑う。

 傍らの貴婦人の手をとって、スノゥはくるりくるりと三回まわる。そうして諦め悪く踊る自分達のあとを追いかけてきた、麝香猫の男の一人にその夫人を預ける。まったくごくごく自然なそれに男はあっけにとられ、夫人のほうは「まあ、お上手ね」と気分を害した風ではなく、その麝香猫の男と踊り出す。
 スノゥが次に手をとったのは、今度は自分の番とばかり手を差し出してきた中年の紳士。「君ほど巧みではないが自信があるよ」との言葉どおり、なかなかだった。

 ならば……と広間をくるりと回るうちに近づいた、楽団の指揮者にすれ違い様、耳打ちする。
 ゆったりとしたワルツが終わり、始まったのは軽快なマズルカ。初めの型通りのステップまでは紳士はついてきたが、即興の場面となるとスノゥの複雑なそれについていけず「おっと……」と足をもつれさせた、スノゥはふわりと微笑んで紳士の手を放す。「これは敵わないな」と紳士は苦笑した。
 マズルカの調子に合わせて、まるで宙を飛ぶような足さばきに、息も切らさずスノゥは悠々と即興で歌う。



 踊れや踊れ仮面舞踏会
 今宵は仮面の下に耳も尻尾も隠した無礼講
 一番の踊り手の手をとるのはだぁれ? 



 一人、悠々と踊る自分の手をとった者こそが、今宵の主役とばかりのスノゥの挑発に、色めき立った男も女も、少し踊っては足をもつれさせて、不合格とばかり手を放される。それでもスノゥの巧みな歌と踊りに、引き込まれれるように挑戦者は途切れることはない。
 楽団もまた、この希有な歌い手と舞姫? に次々と激しい踊りばかりの難曲を演奏しだす。普段ならばゆったりとしたワルツやカドリーヌが主流だというのに。
 スノゥを中心にした熱にあおられるように、大広間の人々は渦を巻きぐるぐると踊りに熱中する。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 一方。
 スノゥが差し出される手を華麗にかわすように踊り出した頃。ヴィヴィアーヌに二人きりの別室に誘われてノクトは一曲ワルツを踊った。次に切り替わったマズルカの曲に「あら」とヴィヴィアーヌは声をあげる。

「今夜は初めからずいぶんと激しいこと。では座っておやすみしましょうか?」
「私はこれで失礼したい」
「ダメよ、今夜の条件は“相手の誘いは断らないこと”でしょう?」
「…………」

 微笑み、猫足の長椅子に腰掛けるヴィヴィアーヌに、ノクトは傍らの一人がけに腰掛けようとする。しかし「あら、こちらへ」と隣を視線でうながされて、身体を少し離して腰をおろす。ヴィヴィアーヌは当然のように、その身体を押しつけてきてノクトの眉間にしわがよる。

「これはキス以上に入りませんわよ」

 くすりと麝香猫の貴婦人が笑う。ふわりとその身体から体香が立ち上った。甘い麝香の香りが。

「身体を離してもらいたいが」
「この椅子は二人がけですのよ。これ以上は離せませんわ」
「…………」

 そこに前時代風のくるくる鬘のお仕着せをきた少年従僕が盆を手にやってきて、ノクトの前にグラスを置く。

「お飲みになって」
「媚薬入りの酒なら、さっき飲んだが?」
「あんなものは“ご挨拶”これはもっと強力なものですわ」
「…………」

 これまたあっさりとヴィヴィアーヌは告げる。そのうえに「今夜は相手のお誘いは断れないとお約束しましたわね」と告げたうえで。

「あなたがお嫌ならば、もう一人の方に飲んでいただいてもよろしのですのよ」

 つまりはスノゥに媚薬を飲ませるとの言葉に、ノクトはためらうことなく杯を手にして、一気にそれを飲み干した。

「……本当にずいぶんと奥さま思いですこと」

 ヴィヴィアーヌが艶然と微笑んだ。





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