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ワガママ王子はゴーケツ大王なんか絶対に好きになってやらないんだからね!【アーテル編】
【8】勇者の父に、ゴーケツ大王の息子? の対決!?
しおりを挟む「さて、肉も腹一杯食った。ここは腹ごなしに一つ手合わせ願いますかな? 勇者殿」
エドゥアルドがノクトにそう話しかける。しかし、彼は自身の得意とする大剣を、牧場で働く雪豹族に配慮して王都の離宮においてきている。
ノクトの腰には長剣があるがエドゥアルドは「お互い、これで」と握りしめた拳をぐいとあげる。ノクトが「よかろう」とうなずいた。
え? あの筋肉虎と父様、殴り合うの? とアーテルは青くなったが。
「心配ない。お前の父様も脳筋ぐあいでは、あの虎の大王様とどっこいだからな」
母のスノゥがしらりとした顔でいう。
素手とはいえ、勇者にルースの大王がぶつかり合うのは、牧場の建物のある場所は論外ということで、選ばれたのは冬の備えの干し草用の牧草をかりとった、ボアも放牧されていない平原の真ん中。
この戦いを見届けなければ! と当然カルマンがついてきたが、ブリーには食事をした牧場の建物にいるようにと告げた。
「父上とあの虎の大王様が戦いに夢中になったら、俺には自分は守れるけど、お前を守れる自信はない。安全な場所にいて欲しいから、ここで待ってろ」
「はい」とうなずくブリーを見る目は生意気にもいっぱしの男だった。
ちなみに今回、シルヴァは近衛の仕事のために王宮に。ジョーヌもまた「読みたい本の……約束がありますので」とやらで牧場に来なかった。読みたい本の約束ってなんだ? ダスクとザリアはまだチビだから、当然、大公邸で留守番だ。
そして、平原で距離を取り相対する狼勇者と虎大王、男二人。
「スノゥ、開始の合図を」
とノクトがいえば、エドゥアルドが続けて。
「お美しい大公配様、勝者にはなにかご褒美を下さいませんかね?」
“お美しい”の言葉に父のこめかみがぴくりとひくついたのを見て、あの虎、虎の尾ならぬ、狼の尾を踏んでいるよ……とアーテルは思う。そこになんと、その“美しき”大公配の母が。
「じゃあ、勝者には望む場所に口づけでも授けてやろうか?」
なんてとんでも発言。ありゃ、父様の艶やかな黒い毛並みの尻尾がぶわりと一瞬膨らんだように見えたぞ。
「もちろん、ノクトには俺が、大王様にはこれが」
スノゥの白い指が指したのは、横にいた自分でアーテルは「はぁ!?」と声をあげる。
「ちょ、ちょっと母様、僕はそんなこと承知してないんだけど、なに勝手に!」
「万が一にもノクトが負けるなんて、俺は思っちゃいないが」
あ~確信してるんだ。これ母様のノロケ? とアーテルの目が遠いものになる。
「しかし、俺が“言葉だけ”だって、あの大王様のお望みのままに……なんていってみろ。あの黒狼が血の雨を降らせて、せっかくのサンドリゥムとルースの和平が台無しになるぞ」
「だから、母様がその事態をさらに混乱させてどうするの?」
「お~お姫様が俺の望む場所にチューしてくれるのか? こりゃ張り切らないとな」
「だっから僕は姫じゃない!」というアーテルの言葉に「そろそろ始めるか! やっちまえ!」とスノゥの声が重なって、混乱のうちに男達は拳を重ね合わせていた。
「すげぇ……」
カルマンがお口をぽかんと開けて見とれている。飛んできたつちくれの固まりを、ひょいと顔を横に傾けた最低限の動きで避けたのは、さすが純血種同士の仔と言うべきか。
「もう、この牧草地無茶苦茶になっちゃうんじゃない?」
アーテルもそういいながらも、白いムチをヒュンヒュン回して、とんでくる細かい小石やら土砂やらをはねのけていた。それでも先のカルマンがよけたようなでっかい石は、ぴょんとはねて避けるしかないけど。
「まあ、牧草刈ったあとは一回“浅く”掘り起こして肥料と土を混ぜて、タネをまくらしいから、ちょうどいいんじゃないか?」
ピュッピュッと同じように白いムチを振りながらスノゥがいう。アーテルは自分のみだが、母はとなりのカルマンに飛んで来る細かいものも避けてやっているからすごい。
さらにはその場所から一歩も動かず、自分の顔面に飛んできた岩石もムチの一撃で砕いた。母、強し。
「だけど、掘り起こしというより、星が落ちたみたいな深い穴が一つ開いちゃってるけど、あ、また!」
さっきは飛んだ拳の起こした衝撃同士がぶつかってドカンと爆発起こして穴がいたけど、今度は飛ばした蹴りがぶつかりあって、またドカン! と。
大地が震えた。
「あ~ありゃやりすぎだ」
「わかっているなら、母様。そろそろ『それまで! 』って引き分けにしないと」
「戦いに夢中になってる雄二匹を、声掛けぐらいで引き離せるかよ。実力行使でいくぞ。俺はノクトを止めるから、お前はあの大王様を止めろ」
「カルマンは自分の身は自分で守れ」と言い捨てて、スノゥはムチをひるがえして自分の腰にしゅるりと巻き付けると、今度は二つの短剣を抜き放って、飛び出していく。
「え? あの筋肉虎は僕が止めるのぉ!?」
アーテルも叫びながら、ムチを放り出して駆け出す。
「「そこまで!」」
スノゥとアーテルの声が重なる。男達が距離をとった一瞬を逃さずに同時に飛びこむ。その短剣を男達ののど元に突きつける。
男達の拳は二匹の兎のひたいすれすれでぴたりと止まった。
「はい、引き分けだ。これ以上この牧草地を穴ぼこだらけにされたくないからな」
スノゥはそういって短剣をひく。同時に拳をおさめたノクトの唇にちゅっと軽く口づける。
「ほれ、引き分けの参加賞」
「…………」
ノクトが無言でスノゥの細腰を引き寄せて、かぷりとその唇に食らいついた。「んんんっ!」とくぐもった声をあげた母であったが、あきらめたように目を閉じて夫の首に腕を回して受け入れた。
熱烈な両親のキスを見せつけられてアーテルが遠い目をすれば、むこうでカルマンが両手で目隠ししているのが見えた。が、指の隙間からお前見てるだろう? 赤い狼耳の内側まで真っ赤だぞ。ブリーとするのはまだ早いと、あとで忠告しておこう。
「さて、お姫様よ。俺にも“参加賞”をくれないか?」
「…………」
後ろから声をかけられてアーテルはくるりと振り返る。口の片端をつりあげた、れいの“気に食わない”笑みを浮かべて虎男が立っている。
「お望みの場所っていってたよな?」
「それは勝った場合。今回は引き分けでしょ?」
もちろん最初から唇なんてゴメンだし、頬もなあ……と思っていたら。
「ん」
エドゥアルドが拳を突き出す。
「なに?」
「ここにキスしてくれ、勝利の女神様」
「僕はお姫様でも女神様でもないんだけど」
そういいながら、アーテルは男の拳に軽く口づけた。このずうずうしい男なら、てっきり「唇にしてくれよ」とでもいうと思ったのに。
そしたら、きっぱり「それはなし」と断るつもりだった。頬にだってだ。それが拳なんて気遣われたかな? と思うし、そこまで断るほどアーテルだって狭量ではない。
これは逆にキスするように、ハメられたかな? と思うけど、拳、ひとつでホント、目くじらたてるほどじゃないし。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「あれはいい男だな」
戦いすんで日が暮れてでもないけれど、大公邸。家族がくつろぐ居間にて、父のノクトがいった。
「手合わせをすれば、相手の人柄はある程度わかる。まっすぐで気骨のある男だ」
え? 父様ったら、あの筋肉虎のこと気に入っちゃったの? とアーテルが驚けば。
「おや、黒うさ姫のお父様は黒虎の花婿をお認めになるので?」
そう茶化したのは母のスノゥだ。アーテルは「母様まで姫なんて」とむくれる。
「いいや、彼の大王としてのルース国を開いた実績と、一人の戦士としての戦いぶりは認めるといっているのだ。
アーテルの婿として認めたわけではない」
婿って……父様まで婿って、いや結婚するならあんな筋肉“花嫁”ってガラじゃないし、たしかに花婿同士ってことになるんだろうけど。
結婚の盛装をした自分と隣にあの黒虎が浮かんでしまい、アーテルはふるふると首を振る。いやいや、あり得ない、ないない。
「アーテルはルースにやらんってか? すっかり花嫁の父だな」
むっつりした黒狼の父をからかう白兎の母。アーテルは「母様は僕の結婚に賛成なの?」と思わず訊く。
「賛成も反対もない。そりゃ、明らかにお前が不幸になるようなクズな相手なら、俺だって猛反対するけどな。
結局、結婚ってのはその当事者同士の話だろう。お前が幸せになることが一番だよ」
母はやっぱり母らしく綺麗に微笑む。それにむっつりしていた父が、ちらりと横目で見とれているのがわかる。相変わらず万年新婚夫婦め! と両親にアーテルは思いながら。
「僕の幸せ……」
恋だって未だわからないのに……幸せな結婚なんて、もっとわからない話だった。
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