ウサ耳おっさん剣士は狼王子の求婚から逃げられない!

志麻友紀

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おチビちゃんは悪いおじ様と恋をしたい!【ザリア編】

【4】恋とは落ちたり、いい匂いがするもの? 

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 サンドリゥム王国とノアツン公国、それぞれの代表として両親が大陸会議に出ているあいだ、ついてきたダスクとザリアとて、なにもせずにぶらぶらしてるわけではない。
 本日はザリアは、各国首脳が伴ってきたご令嬢達とガトラムル市街の観光へと繰り出していた。観光というと遊びのようだが、そこは各国首脳の令嬢達なのだ。立派な社交で外交である。
 とはいえ、ザリアとしてはどうして自分が、その令嬢達に交じっているのか? と多少の不満はある。双子の兄のダスクは、他の令息達とガトラムル自慢の海軍の軍港見学へと行っているのに。

 まあ、あの生真面目な兄がとても令嬢達の華やかなおしゃべりについていけないのは、わかっている。だからザリアが適任だろうと。
 運河沿いの大通りの華やかなウィンドウの商店を見てまわり、あらかじめ予約しておいたカフェの個室へと案内される。昨日のあそこではない。こちらも有名店ではあるけれど、やっぱり各国首脳本人ならともかく、その息女達となるといきなりの予約のねじ込みは難しかったのだろう。
 とはいえ、出された東方渡りのお茶も香り高く、名物だという色とりどりのマカロンに魚の形をしたサブレの焼き菓子は美味しかった。

「ザリア様、このマカロン、とても美味しゅうごさいますね」
「ええ、僕はこのピスタチオとモカのマカロンが気に入りました」
「まあ、わたくしもピスタチオが気に入りました。おそろいですわね」

 「それは奇遇ですね」とにこやかに微笑みながら、頭の上の獣の耳にリボンに花で飾られたボンネットをかぶり、外出用のドレスで着飾った令嬢達を見て、彼女達のほうこそ色とりどりのマカロンのお菓子みたいだな……と思う。
 もっと小さな子どもの頃はお爺さまに「大きくなったら可愛らしいお嫁さをもらうんだ」と言っていた。
 その考えはつい最近まで変わることはなかった。自分は兎族の男子だけど、お嫁さんをもらって、カルマンの兄様みたいに、いつか伯爵領を継いでと……。

 それが揺らぎ始めたのはいつからだろう? 
 ふわふわの女の子達は可愛いし、綺麗だと思うけど、それだけだ。
 彼女達に自分は恋をしない。

 では、恋とはなんだろう? と兄のアーテルに訊いたら「突然、穴に落っこちて、気がついたら太い腕に囲まれて出られなくなってるものだよ」ちょっと恐ろしい答えが返ってきた。
 カルマン兄に訊いたら「こいつだと思うんだ! それからいい匂いがする! そういう奴に出会ったら、絶対に逃がさずにとっ捕まえろ!」と野生のボアを狩るみたいなことを言われた。
 やっぱり参考にならないので、最後にスノゥお母様に訊いた。」
 書斎にて銀縁眼鏡をはずした母は、少し考えて口を開く。

「さてな、どんな気持ちなのか俺にもわからん」
「え? お父様とお母様は大恋愛の末に結ばれたって、みんないっているけど」
「勇者と四英傑の運命の出会いと恋か? 伝説なんてのは人が勝手に夢見て飾りたてるものさ」
「え? じゃあ、お母様はお父様を好きじゃ……」
「いや、あいつを愛してなきゃ、お前達は生まれてないだろう。俺達はそういう種族だ」

 兎族は愛し愛されている人の子を自分の意思で身籠もるのだと。しかも、それは雄であるお前もそう出来るのだと、母に教えられなくても自然に知っていた。
 それはいつも寄り添う合う父と母を見てきたからだ。彼らから生まれた子供達はみんな、父と母のような、自分達が育った温かな家族を作りたいと未来を夢見る。

 それはザリアも一緒だ。
 だから可愛いお嫁さんをもらって……とザリアは考えていたのだ。なのに……。
 女の子達はふわふわして可愛いけど、でも、やっぱりアーテル兄のいうような、“穴におっこちる”感覚もカルマン兄の“良い匂いがして絶対逃がさない! ”なんて子に出会ったことはない。

「まあ、惚れた腫れたなんてもんは、そのときすぐにわかる奴もいれば、俺みたいに“いつのまにか”って奴もいる。ザリアもそうなのかもな」
「いつのまにか? でも、お母様は気付いたの?」
「ああ、あの男をどうしようもなく愛しているってな」

 穏やかな微笑を浮かべた母は、いつも通り、いやいつも以上に綺麗に見えた。



 ザリアもいつか、落とし穴に落っこちたり、どうしても逃がしたくない人に出会えるのだろうか? 



「ザリア様と黒犬のドーチェとのダンス、素敵でしたわ」

 いきなり出た名前に、回想から引き戻されたザリアはドキリとした。

「え? ロ……ドーチェ・ガルゼッリとのダンスのこと?」

 ロッシと呼ばそうになって言い直す。この名前はたぶん、秘密の名前なんだろうから。アーテルに呼ばせなかったように、ザリアも秘密にしておきたい。
 丸い小卓を挟んで向こうの狐耳の令嬢は「ええ」とうっとり頬を染めて。

「お二人ともダンスがとてもお上手で、まるで黒鳥と薔薇色の白鳥が湖面を滑っているようで」
「それをいうならば、グロースター大公ご夫妻もいつもながらお見事でしたわね。それとルースの大王様ご夫妻も」

 スノゥはもちろんのことだが、ノクトもさすが勇者というべきか、そこは隙はまったくなく、舞踏会において踊る二人は、どこにおいてもたしかに華だ。
 ルース大王エドゥアルドに関しては、アーテル兄が“猛特訓”したという話を聞いている。

「僕の足を踏んづけることがないのは偉いし、ステップだって間違えてないけどさ。あれじゃ軍隊の行進だって、いつもいってるのになかなか治らないの。勇猛なのはいいけど、優雅さがない!」

 との酷評? にもめげずに、ザリアが見たときには二人のダンスは息が合った素敵なものだったから、あの大王様は大変努力なされたんだろうと思う。

「黒犬のドーチェ。伊達男の遊び人って噂ですけど、素敵ですわね」

 そんな風にいったのは、ザリアと同じぐらいの年頃なのに、ちょっと色っぽい雰囲気の鹿耳の令嬢だ。それに「あら」と狐耳の令嬢が返す。

「ああいう方がお好みなのですの?」
「好みというか、ちょっと危険な大人な男って憬れません?」
「たしかに遠くから眺めている分にはご立派な紳士ですけど、お近づきになるのはちょっと怖いですわね」

 垂れた犬耳の令嬢がそういうと「婚約者がおられるかたは真面目ね」と狐耳の令嬢が返す。鹿耳の令嬢はザリアを見て。

「ザリア様はどう思われます? ダンスのときどんな会話をなされたんですの?」
「初めて見たこの都市のことなど色々。大運河から港の眺めはすばらしいとお話したら、ゴンドラに乗って街並みを見るのも楽しいですよと、お勧めされました」

 本当はすでにあの伊達男と二人でゴンドラに乗りましたとか、昨日はケーキをごちそうしてもらいました……なんていえない。
 これについては帰りの馬車でアーテルにもクギを刺されている。

「あの黒犬のドーチェがわざわざあの店に“内緒”で連れていってくれたんだから、誰かに話さないようにね」
「話すつもりはないけど、話してはいけないの?」
「あんな評判の遊び人と“嫁入り前”のサンドリゥム王国の公子が、二人でカフェにいました……なんて、この大陸会議で王侯貴族がそろうなか、格好の噂話のネタだよ。あることないこといわれるのはわかっている」

 「だから、あの“紳士”は自分の顔が利いて、誰にも会わないではいれるあの店を選んだんだろうけどさ。そういうのホント、遊び人の心配りって感じで、憎らしいよね」とアーテルは続ける。
 “嫁入り前”って言葉も気になったが「お兄様だっていたじゃない」とザリアは返す。

「だから僕は万が一の付き添いだよ。これが本当に噂話になったら、あの場にも僕がいましたっていえば、それで噂はおしまいだからね」

 たんに面白がりでついてきたわけではなかったのかと、兄の気遣いに感謝したけど。

「でも、僕は“嫁入り前”じゃなくて“カワイイお嫁さん”をもらうんだからね」
「はいはい、あんな男に『ぷぅ』したうえに、おチビちゃん以上にカワイイ子が見つかったならね」

 だからなんで「ぷぅ」で、お爺さまと同じことをいうのだろうと思った。



「それでダンスの間にドーチェにまさか口説かれた……なんてことはありませんわね?」

 狐耳の令嬢がわくわくした顔で訊く。本当この年頃の女の子たちは恋の話が好きだ。
 そしてザリアは慌てたりしない。あの年上の伊達男相手に、おチビちゃんといわれてむくれたり、あの眼差しに赤面したりするのは、彼がいつも大人の余裕ぶってるからだ……と思いたい。
 ザリアだってこんな社交界の戯れ言の話のかわし方の、一つや二つ、知ってなければおませなご令嬢のお相手なんて出来ないのだ。

「同じ大広間でお父様とお母様が踊っているのに? お父様の頭のうえの尖ったお耳はつねに、こちらに向いてましたよ」

 令嬢達は一斉に吹き出して「伝説の勇者様には誰も敵いませんわね」「怖いお父様だこと」なんて言われた。






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