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鳴かない兎は銀の公子に溺愛される【シルヴァ×プルプァ編】

【38】こうして王子様とお姫様は家族になりました

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 黒に紫の光沢の子狼はシタンと白に銀の光沢の子兎はマグノリアと名付けられた。
 名付けたのはシルヴァだ。うるさいジジイ達二人が口を開く前に、スノゥがいったのだ。

「生まれた子の名前を考えるのは、父親の役目だぞ」

 と。

 そんな訳でシルヴァは別宅の書斎にて、その大きな机が丸めた紙で一杯になるまで考えて、付けたのがこの名前だった。



「とても良い名前です」

 双子を産んだ疲れからまどろんで、目覚めると大好きな人が自分の寝顔を見つめていた。シルヴァは「君に一番最初に告げたくて」と子供達の名前を教えてくれた。
 その銀月の瞳はちょっぴり紅い。窓の外を見れば、朝の柔らかな光が差し込んでいた。産気付いたのは昨日の昼過ぎで、産婆からは「初産なのに安産でしたよ」と告げられたのは深夜近くで、そのままプルプァは眠りについてしまったけれど。

「一晩中お名前を考えていたのですか?」
「子供達の大事な名前だ、寝られないよ」

 それでも少し休んでからでも……とプルプァは思ったが、シルヴァが回りには誰もいないのに、内緒話をするように声をひそめていった。

「早く考えないと二人のお祖父様に先を越されると、母上に言われたんだよ」
「スノゥママンが?」
「そう『二人がどっちが名付けるか揉めているあいだにとっとと名付けてしまえ』ってね」

 プルプァにもカールとデイサインの二人が『ワシが』『ワシが』と言い合っている姿が、容易に想像がついて、ぷっと吹き出した。

「たしかにクランパとお爺さまなら、絶対そうしそう」
「だろう?」

 「お祖父様達に悪気はないんだよ。むしろ、プルプァに御子達のことを大切に思ってる」というシルヴァの言葉にプルプァはクスクス笑いが止まらないままにうなずく。
 そして、不意に自分でもそうと意識せずに、白い頬にころころと真珠のような涙がこぼれる。

「プルプァ?」

 「どこか身体に痛みでも?」と慌てる心配性の夫にプルプァは、ふるふると首を振る。

「嬉しくて、幸せでも涙がでるんですね。シルヴァがいて、御子も……シタンとマグノリアも生まれた」
「プルプァ」
「家族です。あ、もちろん、ママンもノクト大公殿下も、アーテル様にジョーヌ様、ザリア様にブリー様、その愛する方々も、その御子達も、みんなみんな、大きな家族です」

 プルプァは今は亡き、父と母と懐かしく思い出す。マンの湖の城での小さな三人の家族。七歳まで幸せだった。
 たとえ、あの夜の悲劇があろうとも、その輝ける思い出は消えることはない。
 そして、そこから先は闇に閉ざされたようにおぼろげだ。地下に閉じこめられていた自分は、本当に半分死んでいて、その魂は両親の眠る墓の下でまどろんでいたのかもしれない。
 その扉を開いて迎えにきてくれたのは……。

「シルヴァを見たときに、王子様だと思った」

 両親の顔さえ忘れて、自分の名前となぜか繰り返し聞かされたおとぎ話の王子様のお話は覚えていた。
 あれは母の話でもあったのだ。いつか自分を迎え王子様はやってくる。放浪の皇子だった父を母はずっと待っていた。

 どんな思いで待っていたのだろう? 
 ただひたすら暗殺者に狙われ続ける彼の無事を祈っていたのだろう。
 自分の元に戻って来ますように……と。
 そして、いつかは叶わない二人の想いが重なる日を夢見て。

 プルプァを身籠もり生まれて、あの城で暮らしたのはたったの七年。二人が出会った年月を考えるととても短いけれど。
 それでも幸せだったのだ。プルプァを囲んでいつも幸せそうに笑っていた。思い出の中の二人がそう語りかけてくれる。

「あの小さな部屋から連れ出してくれて、二人で初めてみた夜明けの空の色を忘れない。黄金の日が昇って、抜けるような青い空になって……」

 シルヴァが黙ってプルプァの話を聞いている。自分のとりとめない話をいつだって聞いてくれて、それからわからないことは誠実に答えてくれる人。
 初めて見る世界を怖いと思わなかったのは、この人がいつも手を引くだけじゃなくて「大丈夫」と語りかけてくれたからだ。
 そして、これからは手をひかれるのではなく、並んで歩いていきたいと思う。思い出の中の両親のように、吾子達をあいだに挟んでその手をつなぎあって。

「もうシルヴァはプルプァの王子様じゃなくて、愛する人で家族だね。本当は結婚式の日にいうことだけど」

 「よろしくおねがいします」と言えば。

「ああ、これからもよろしく。シタンとマグノリアも一緒だ。ああ、もっと家族は増えるだろうな」

 「増えるの?」とシルヴァの言葉にプルプァが問えば「増やしたくないのかな?」と問われてプルプァは「ううん」と首を振る。

「家族はたくさんいれば、その分だけ幸せは増えるね」

 そして、シルヴァの顔が近づくのに、プルプァは目を閉じた。






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