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耐えろカルマン!
【2】一もタロウなら、二もジロウ……クロウまで生まれた!
しおりを挟む二十年前、ブリーとの間に自分そっくりの赤毛の長子が生まれたとき、カルマンはその子の名前を迷わずつけた。
タロウと。
これは大陸の東の果ての島国であるナの国から、特使としてやってきたサムライ。大狸の十四朗との話からだ。
同じ武人として二人はすぐに意気投合しあった。手合わせで汗を流し、酒を酌み交わす。そこで出た言葉。
あの頃、ブリーとの結婚を一年後に控えていたカルマンは、愛しい婚約者の話とそれから将来の夢を語ったのだ。
「子供は多ければ多いほどいい。俺の兄弟達はいずれも双子の三組で六人兄弟だが、それ以上を目指したいな」
「しかし、名前をつけるのが大変だな」と言ったカルマンに十四朗は「なに、簡単な事だ」と答えた。
「狸の家は子だくさんだ。私は十四番目に生まれた男子だから、十四朗なのだ」
「なんと! ジュウシロウとはよい響きだと思ったのに、ナの国の言葉では十四番目という意味だったのか?」
「順番だからわかりやすいし、なにより子が健やかに育つ良い名といわれいるぞ。一番目から順番に、タロウ、ジロウ、サブロウ、シロウ……」
カルマンはそれをふむふむと聞いた。最後に十四朗は笑って。
「これなら、百人生まれても大丈夫だぞ。そうだな、百番目になったら、あがりで戻ったという意味で、百太郎でもつけるとよい」
ナの国のおとぎ話にある、勇者のように強い男の子の名前だと、十四朗は豪快に笑って語った。
だから、タロウが生まれたときタロウと名付けた。ジロウが生まれたときはジロウ、サブロウはサブロウ、シロウはシロウ。
ブリーは毎年のように子供産んだ。お産はそれなりに苦しみを伴ったが、それも安産の範囲内だった。それにカルマンはいずれも付き添った。ひたいの汗を拭いてやり「がんばれ」と。
苦しいのに自分に向かい微笑む妻は綺麗だった。いつもは可愛らしいばかりなのに、このときばかりは母は強いな……といつも思った。
だから、油断していたのかもしれない。
クロウは難産だった。
産声をあげた赤ん坊事態は元気だったものの、その母体は血を流しすぎて、その元気な泣き声を聞いたあとにブリーは意識をうしなった。
「ブリー! ブリー!」
ぐったりしたブリーの身体を抱きしめ離れないカルマンを、ノクトとスノウが羽交い締めにして引き剥がす。大神官長のグルムがすぐさま癒やしの手をかざし、事なきを得たが。
わかっていたことなのだ。お産が危険を伴うものであることは。それは父であるノクトの母も彼を産んで数年病床にあって亡くなり、伯父である現国王ヨファンの母もまた、彼を産んですぐ亡くなった事例でも。
話には聞いていたがそれはカルマンの身近にあるものではなかった。
しかし、愛しい番がそうなって怖くなった。
ブリーはその後ひと月、寝台から起きあがれなかった。もしや、自分の祖母である父ノクトの母のように数年でそのまま儚く……とそのあいだカルマンは悪い考えを消せなかった。
ブリーがゆっくりと回復し、半年で普段通りの生活を取りもどしたときには、ホッと息をついたものだ。
そして、カルマンは決意した。
「ブリーもう子は作らないようにしよう。九人もいれば十分だ。いままでお疲れさまだったな」
夫婦の寝室でそう告げたときブリーはきょとんとしていた。それでもカルマンがこの半年どれほどブリーの身を案じ、最愛を失うことを怖れたか、正直に話せば、最後には瞳を潤ませて、ぽろぽろと涙をこぼした。
「ブ、ブリー、泣かせるつもりは……」
番の涙にめっぽう弱いカルマンは慌てた。それにブリーが首を振る。垂れたお耳がぱたぱたと揺れて、こぼれた涙が星屑のように散る。カルマンは思わずブリーを抱きしめていた。
「子がたくさんあればあるほど確かに嬉しい。お前の気持ちもわかる。だが、お前の命をもう危険にさらしたくはないのだ」
「……いえ、そうではないのです」
抱きしめた腕の中でブリーのくぐもった声が聞こえる。
「生まれた子達は確かにみんな愛おしい。カルマン様と私の愛の証です」
「ブリー……」
「だから、たくさんいればいればいるほど、カルマン様もお望みで私も望んで、クロウまで生まれました。タロウも愛おしい子」
ブリーの言葉はまさしく母そのもので、カルマンの胸を切なく締め付けた。だからもう子はいいと言ったことも後悔した。それでも、しかし。
「俺はお前の身が心配で……」
「はい、ですからもう、カルマン様のおっしゃるとおりクロウで終わりにします」
「ブリー?」
腕の中のブリーの顔を見ればブリーは涙のあとを頬に残したまま、微笑んでいた。
「私が泣いたのはカルマン様に、それほどご心配をかけてしまったことです。それに、私もカルマン様とお別れするのは辛い。少しでも長く御一緒にいたいのに……」
「ブリー……」
再びぽろぽろと涙を流し出したブリーをカルマンは、再び抱きしめた。一度目のようにぎゅっと……ではなく、包みこむように優しく。
純血種のカルマンは三百歳の寿命を誇る。純血種ではない兎族のブリーの寿命は二百歳。そのうえにブリーはカルマンより十歳以上年上だ。どうしたって先に逝く。
そのことを理由に初め求婚をブリーから断られたぐらいだ。だが、カルマンは「それがどうした!」と諦めなかった。純血種の狼の愛は一途なのだ。たった一つの輝ける星のような番をただただ、愛し求める。
「俺達にはもうたくさんの子がいる。そう、俺とお前の愛の証だ。だからこれからはその子達の成長を見守り、お前と長く共にいたい」
「はい、カルマン様」
いまだ瞳を潤ませながら微笑みブリーが愛おしくて、カルマンはその額に一つ口づけた。
それから十年二人の間には子がなかったが、やんちゃ坊主どもとの賑やかな毎日には寂しさを感じる暇などなかった。なにより傍らには愛おしい茶色の垂れ耳兎がいる。
ところが十年目にしてブリーが思い詰めた顔でいきなり告げたのだ。
「御子がもう一人欲しいです」
と。
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