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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~
【23】お空のお花は綺麗だな
しおりを挟むボア退治は簡単に済んだ。
勇者と賢者の二人なのだ。いかに巨大でも魔獣ではないボアなど、勇者の剣の一振りで決着がつく。
実際、アルパのみで『すべて』のボア退治は終わってしまい、モモの出番などなかった。
そう、すべて。
当初は巨大なボア『一頭』が村の畑を荒らし回っていると思っていた。ところが、ボアは一頭ではなく、数頭の集団で周囲の村々の畑を夜ごと周り、作物を貪り食っていたのだ。
次はどこの村の畑が襲われるのか。アルパは純血種の狼族の鼻と、地面に残るボア達の無数の蹄のあとから、それを予想し、見事に先回りに成功した。
村人達は遠くへと避難させ、モモはアルパのそばにいた。君も村人達とともに安全な場所に……と言われたが首を振る。
「僕には結界があります」
「そうだった。さすがのボアの突撃も通じないだろう」
「アルパも守ります」
後ろから飛びかかられたって、彼なら避けるだろうけど、万が一ということがある。少しでも怪我をしたら、すぐに治したいし。
「それはたのもしいな」
アルパのボア狩りが始まった。普通の大きさのボアではあったが、それでも成獣の小岩のように大きく、立派な牙を持っている。これで突進されて刺されたら、ひとたまりもない。ボアは草食で普段は大人しい生き物だが、怒らせると手が付けられないというのは、有名な話だ。
狙っていた村の畑を目の前に立ちふさがるアルパに、ボア達は一斉に突進した。普通家族単位で行動するボアが、こんな集団になるなんて……とモモは不信に思う。と、同時にいくらアルパでもあんな大軍と……思わず彼の前に結界を張りかけたが。
一瞬、こちらを振り返ったアルパが、ふわりと微笑んだ。大丈夫というように。モモは詠唱しかけて止める。それでも銀のロッドを祈るように握りしめて。
アルパは目にもとまらぬ速さで、先頭を走ってきたボアの眉間に、槍を突き刺した。あらかじめ、モモに「剣を槍に変えられるかい?」と言って、変化させたものだ。
急所である眉間をひとつきされたボアは、どうっと倒れた。倒れた仲間を跳び越えて、より興奮した様子のボアが二頭今度は同時に、アルパに迫る。
目にも見えない速さで槍を操り、アルパはそのボア達の眉間も連続で突いた。どさ、どさ、と宙に飛んだボアの身体が下へと落ちる。
さらにはその後ろからボア達が止まらぬ勢いでかけてくるが、すべてアルパの槍で葬られた。
先頭の大きなボア達の集団がすべて倒れると、後ろの小柄な雌や幼獣のボア達の集団は、くるりと向きを変えて逃げていった。
それをアルパはあえて追うことはない。モモもわかっていた。彼らは森に帰って当分は出てくることはないだろう。頼りの雄達が倒れてしまったのだ。
また、雌と子供達だけならば、大食の雄達と違って『少ない』森の恵みでも、一冬は越せるだろう。
村々を荒らし回っていた、ボアが倒されたという知らせに、村人達は喜んだ。そのうえに、大量のボアという肉の恵みももたらされたのだ。
翌日には、近隣の村々からそのすべての村人達が集まって、アルパがボア退治をした村は、年に一度どころか、百年に一度の祭りか?という盛りあがりをみせた。
みな、男も女も子供もボアの肉をたらふく食べて、さらには村々から持ち寄った、麦酒やかまどから次々焼かれるパン、果物、素朴な菓子。
勇者アルパはもちろんのこと、火山の噴火を鎮めたうえに大きな湖を作ったという、星の賢者。その話もこんな田舎にも伝わっていた。モモも当然大歓待を受けた。
とはいえ、勧められる麦酒もボアの串焼きも、モモには食べられない。アルパは族長に言ったように、賢者は戒律によって口に出来ないのだ……と、自分が代わりに各村長からの祝杯を受けてくれた。
もちろん自分の分の祝杯も受けてから。顔色がまったく変わらないのは、お爺様と一緒だな~とモモは思う。ただし、お爺様は無表情だけど、アルパは快活に笑い、ときに冗談さえ口にして村長達と笑いあっているけど。
そして、モモの前には村々の女達が「ならば賢者様、こちらはいかがですか?」と焼き立てのパンに、芋に豆の入ったスープ、カゴいっぱいの果物、そして木の実を砕いて焼いたものをハチミツで固めた素朴な菓子などを並べた。
モモにとっては十分にごちそうだ。「ありがたくいただきます」と口にした料理は、どこか祖母のスノゥの野営料理に似ていておいしい。
とくに木の実をハチミツで固めたものが美味しくて、ポリポリしていたら、横から木のコップが差し出された。
「そちらのお菓子にはこの温かい飲み物があいますよ」
ニコニコと微笑む素朴な村の婦人に礼を言って、モモはそれを口にした。たしかにほんのりとハチミツが甘くて美味しい。野外で開かれた宴で少し冷えた身体がぽかぽかとする。
なんだが、頭がほわほわしてきたような……。
こくこくと呑み干したら「お代わりをどうぞ」と渡されて、それもこくこくと呑んでいた。これは本当に美味しい。
村長の一人と話していたアルパはそれに気付かず、横にいるモモが手にしているものの湯気が鼻先をかすめたのにギョッとする。
「モモ、それは蜂蜜酒だ。甘いけれど、結構に強くて……」
「はちみちゅ……おちゃけれすか……とても、おいしい……れす」
すっかり呂律が回らない口調となったモモは、ふらりと立ち上がって、銀のロッドを空へとかかげた。
「こよいは……みなちゃま……ありがと……かんしゃのおはな、れす!」
銀のロッドから離れたら無数の光は、天空へと舞い上がり、様々な色の花火となって大きく開く。宴に集った人々から一斉に歓声があがった。
「おそらの……おはな……きれいで……ちゅね……」
「モモ!」
アルパはそのまま後ろにひっくり返ったモモを抱きかかえたのだった。
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