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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~

【36】次なる神託

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 西の砂原に現れる三つ首の邪竜。それを倒すことで聖剣の完成となるだろう。
 神子の神託が下された。族長はれいの立派な木の椅子が置かれた広間に、一族の主立った者達を集め、目の前のアルパとモモに命を下す。

「聖剣の完成とはこれすなわち、聖剣の威光をもって、新たな国が誕生するということ。『最後』の災厄をうち払い、この地に安寧と王国を誕生させるのだ」

 「我が王国に栄光を!」とまだ出来てもいない国のことを口にする族長に、一族者達もまた期待に瞳を輝かせ慣性をあげる。そのなかでアルパは族長に向かい片膝を突き、頭を垂れ。

「邪竜討伐、たしかに承りました」

 そう告げる。その横でモモはいつもどおりマントのフードを深く被り、たたずんでいた。
 これで災厄討伐が終わるなどと、それは族長の勝手な思い込みだ。聖剣は完成すると予言されているのみで、災厄がうち払われるとは告げていない。
 アルパもそのことを分かっていて『邪竜討伐』と言ったのだから。
 しかし、あえてそれをこの偏屈な族長と浮かれている一族の者達に告げることはないと、モモは静かに広間を立ち去るアルパの長身の後ろに続く。
 その二人の背中を、族長の横に立つ神託の神子ケレスはじっ……と見つめていた。
 そして、その彼女の横顔を、族長の椅子を挟んで反対側に立つナハトがちらりと見る。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



「モモ」

 石の城館の冷たい回廊を歩きながら、伸びたアルパの手が、マントの中の自分の手をきゅっと握りしめるのに、モモはドキリとする。
 石の床の通路には誰もいないけれど、思わずフードを目深にかぶった狭い視界で、左右を確認してしまう。アルパは痛くないほど強くなく、しかしけして離さないという意思を伝えるようにモモの手を握りしめていて。

「戦いが終わったら、話があるんだ」
「アルパ、この戦いは……」
「わかっている。これで終わりではない。聖剣が完成したならば、それで倒すものが最後の災厄だ」
「…………」

 やはりアルパはわかっていた。ならば、話とはなんだろう? 
 そう思っていると、彼がその長身を折り曲げてフードの中をのぞき込んでくるのに、どきりとする。モモの大きなパパラチアの瞳に、アルパの金色の瞳が重なる。

「最後の災厄を倒したそのあとの話を、君としたいんだ」
「はい」

 頬を染めてモモはうなずく。
 あの中庭での口づけの意味を、モモはアルパから聞いていなかった。
 でも、この戦いが終わったら、それが聞けるのだろうと思い、胸がまた高鳴った。

   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇

「来たか」

 ぱちぱちと暖炉の火がはぜる音と、その揺れる灯り、小卓の上の燭台の灯りのみの薄暗い部屋。椅子に腰掛ける族長の前に、音もなく男がその足下にうずくまる。騎士のように片膝ではなく、両膝ををつく姿勢は、奴隷の証だ。

「誰にも見られなかっただろうな?」
「はい、もちろん」
「お前は弓が使えたな」
「はい」

 騎士である男の父親が罪を犯したために、男は家族と共に連座する形で、顔に入れ墨を入れられて奴隷身分へと落とされた。男自身も有望な騎士見習いであり、若くしてすでに妻も赤ん坊もいたのに、その彼らもだ。

「では、先に旅立った勇者アルパ達を追え。彼らが邪竜を倒したのを見届けたならば、これで星の賢者を射よ」

 うずくまっていた奴隷の男が顔をあげて怪訝な顔をするのに、族長は無言で男の顔を蹴り上げた。男は床に転がり、その顔は鼻血で染まる。

「すぐに返事を為ぬか!」
「は、はい!」
「まあ、よい。教えてやる。あの星の賢者と名乗る『偽賢者』はな。兎族だ」

 奴隷男の顔が衝撃の色に染まる。それに族長は「ふん!」と鼻を鳴らす。

「アルパとあの穢らわしい耳長との噂は、お前とて耳にしてるであろう? まったく、男をたぶらかすことだけには長けた、奴隷より下の種族のクセに」

 族長の言葉で奴隷男の瞳にもまた、よく人柄も知りもしない、星の賢者への憎悪の炎が宿る。自らが奴隷であるからこその、それより下とされる兎族への嫌悪。元は騎士階級であったからこその矜持もあるだろう。

「見事に最後の災厄を倒し、栄光の聖剣を国にもたらす勇者には、欠片もきずがあってはならん」

 「勇者をたぶらかすあだ花を見事討ち取ったならば、お前にも家族にも恩赦を与えよう」と族長は続ける。恩赦、つまり奴隷身分から引き上げられる。その言葉に男は瞳を輝かせ、うなずき「必ずなしとげます」と族長が差し出した矢を両手で受け取り去っていく。

「……さて、耳長にご執心の勇者様が、邪竜を倒したそのあとに、『とっさ』にどう動くか、見物だな。そう思わぬか? ナハト?」

 小部屋にて族長がそうつぶやくと、隣室の扉ががちゃりと開いて、蒼白の顔のナハトが現れた。




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