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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~

【55】拳と拳で語り合う!

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「手合わせの前に提案があります」
「なんだ? 俺達九人相手にするのが、やっぱり、怖くなったんでございますか?」

 片手をあげて、後ろにいるノクトとカルマンを振り返ったアルパに、クロウがまたもや妙な敬語で突っかかる。が、くるりと振り返ったアルパににっこりと笑顔を向けられて「う……」と押し黙る。

「いや、これはあくまで鍛錬の一つだ。だから、互いに素手の組み手はどうだろう? と思ってね」
「組み手だって!? そりゃいい。たしかにお互い素手と素手で平等ですね」

 クロウが意地悪く口許をゆがめたのは、カルマン以下の赤狼達はそれぞれ得意の武器を持っての戦いも得意であるが、本領? は素手だからだ。それこそ『拳と拳の語り合い』の兄弟ゲンカは日常茶飯事だからして。
 クロウほど露骨にないにしても、他の赤狼達からも剣呑な雰囲気が漂う。剣呑を通りこして、殆ど殺気だが。
 しかし、そんな飛ばされる殺気もアルパは「それはよかった」と爽やかな笑顔で受け流す。

「ならばそちらがよろしければ、九人全員同時にお相手したいのですが、後のこともありますし」

 アルパが口を開き、九人の赤狼たちは「なあっ!? 」と叫んだ……のはクロウだけであったが、いずれも顔色を怒りに真っ赤に変えた。これは後ろで見ていたカルマンも同様。
 あくまで穏やかで丁寧であるが、裏を返せばお前達など同時に素手で九人相手で十分という意味にも聞こえる。どころか、後がつかえているから、さっさと片付けようとばかり。
 これにはカルマンが「うちの息子達を馬鹿にしておられるのか?」と怒りに震える唇。歯の間から低い声を出す。
「許す、九人同時に相手をしろ」
 それにノクトがうなずいたのに、カルマンが「父上!」と思わず声をあげたが、金色の瞳にぎろりと睨まれて、黙りこむ。本日は勇者みずから手ほどきする鍛錬の日。副団長のカルマンより、ノクトの権限のほうが強い。

「大丈夫かなぁ……」

 壁際で隠れてみているモモがつぶやく。スノゥが。

「なんだ? 自分の番を信じてやれないのか?」
「違うよ。兄様達がぺこぺこにやられて落ち込まないか、心配してるの」
「まぁ、そっちだなぁ」

 勇者を番に持つ、祖母と孫は顔を見合わせてうなずく。
 勝負は一瞬でついた。
 いや、常人の目には一瞬だったかもしれない。

「まず、クロウが馬鹿正直に真正面から掴み掛かって、簡単に吹っ飛ばされた。壁にぶつかって白目むいているのは、アルパが叩きつけたせいじゃなくて、自分の勢いだから自業自得だな。
 次にシチロウが、クロウをぶん投げて出来たと思いこんだスキの横腹に、蹴りをたたき込もうとしたが、ありゃ勇者殿のワザとだ。それにひっかかって、ひょいと避けられたあげく、尻を蹴られて床に顔面叩きつけて昏倒。
 さらにその後ろから、ハチロウが背後から羽交い締めにしようとしたが、それもしっかり気配を読んでいた勇者殿が、腹に回し蹴りを決めて沈んだ。
 その回し蹴りの片脚を掴んだゴロウはよく見ていたな。さすがはいつもカルマンの組み手の相手やってるだけのことはある。が、これも掴んでいないもう片方のつま先蹴りが、あごに決まって後ろにひっくり返った。いや、ノクトもそうだが、勇者ってのは全身バネなのかね」
「すごい、お婆様、全部見えているの? 僕、全然わからなかった」

 スノゥの解説にモモが感心する。

「赤狼の中じゃ、多少? の頭脳派のロクロウとシロウが視線を交わしあって、左右から同時にとびかかったまでは……いや、同時じゃねぇな。それでも騎士道精神って奴か。わずかに誤差があった。それを突かれたな。飛びこんできたお互いの頭を掴まれて、ごっつんこだ。さすがの石頭の赤狼でも、お互いの石頭同士じゃ気絶するわな」
「すごい痛そう」
「まあ、あいつらの一番の敗因は、その騎士道精神かもなあ。九人同時に相手するっていうのに、同時にとびかかりもせずに、結局一人ずつだ」
「僕には同時に見えたけど?」
「わずかな時間差がありゃ、勇者にとっちゃ各個撃破も同然だ。だから、サブロウだって、足払いくらってひっくりかえっている間に、助けにはいったジロウが、手刀を後頭部に受けて昏倒して、本人は落っこちてきたジロウの肘をみぞおちに食らったのは……さすがに偶然だろうなあ。まあ、間が悪かった。
 そして、最後に残ったタロウは勇者に掴み掛かったまでは、さすが長兄だが見事に背面投げをくらったと。以上」

 「わ~わ~すごい」とモモはスノウの解説に、パチパチパチと小さく拍手する。


 


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