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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~
【56】これが本当の拳と拳で語り合うです!
しおりを挟む「モモ、お前なぁ……自分の兄貴達がコテンパンにやられたのに、少しは可哀想に思えよ」
鍛錬場の真ん中に一人立つアルパの姿に瞳を輝かせるモモに、スノゥが言う。
「え~だって、こちらの話も聞かずに頭ごなしに反対したのは兄様達だし。それに自分の番の味方をするのは当然でしょ?」
「だな」
「ほら、お婆様だって、お爺様とお父様がケンカしたら、お爺様の味方なんでしょ?」
「ノクトとカルマンか。俺はどっちの味方もしないな」
「ええっ!? お爺様、かわいそう!」
「可哀想なのはカルマンだろう。負けるに決まってる。お前だって兄貴達の心配のほうしていただろう」
「それはそうか」
あっさりとモモがうなずく。どちらも自分の夫が勝つと思っている番の会話を聞いたら、黒狼達の尻尾はブンブン回転しそうだが、赤狼達の尻尾はたらんと下がりそうだ。
「次は俺の番だな」
鍛錬場の四方八方で伸びている赤狼達が、他の騎士によって邪魔にならない、片隅へと運ばれるなか中央に立つアルパに、カルマンが真っ直ぐ向かう。
「大丈夫かな?」とモモがつぶやくのにスノゥが「カルマンがだな」と訊き、素直に「うん」と頷く。この会話も赤狼の父の耳に入ったならば、ひと月ぐらいは尻尾が……(以下略)。
「歯ごたえのない息子達で失礼した」
「いえ、この私の身体に触れるだけでなく、掴むことが出来るなど、十分にお強い」
アルパとしては褒めたつもりだろう。にこやかな笑顔が物語っているが、ぴくりとカルマンの筋骨たくましい肩がはねた。赤く太い眉の眉間にぐっとしわが寄る。
「そちらこそ、小手先の技でひらりひらりと身軽にお避けになることばかりがお得意ではあるまい? 是非とも、今度は我が拳を受けてもらいたいものですな」
「ええ、喜んで」
アルパが頷くと「ではお言葉にあまえて!」とカルマンがおもむろに拳を振り上げた。
それをアルパは避けずに、まともに腹に受けた。
「アルパ!」
思わずモモが飛び出しそうになるが、それをスノゥが後ろから抱きしめて留める。「大丈夫だ」となだめる。
その言葉通り、アルパは岩をも砕くと言われるカルマンの拳を受けて、微動だにしなかった。その上体はまったくぐらつくことなく「お見事」とカルマンの拳が離れるときに告げる。カルマンもまた「さすがですな……」と、拳を向けた側というのに表情が冴えない。額に汗さえ浮かべている。
「流石だな。腹筋を締めて防御しやがった。あのカルマンの拳だからな。多少は痛かったかもしれねぇが、びくともしねぇとは」
スノゥがつぶやく。アルパは無事だと、ホッと息をついたモモが、スノゥに抱きしめられたまま、後ろを見て。
「アルパの腹筋バキバキだもんね。モモが触ると柔らかいけど。お爺様もそうなの?」
「宰相様なんていわれて机に座っちゃいるが、今でも鍛錬は欠かしていないからな。あいつは俺が触ってもバッキバッキ……」
そこでスノゥは言葉を濁した。ほんのり赤くなった祖母の雪のような頬に、孫息子は「あ……」とこちらも赤くなる。
モモが触れた初めは柔らかいけど、カチカチになります……なんて言わずに。
「は、はしたないことを口にしました」
「いや、こちらこそ……だな。孫とする会話じゃねぇ」
お互い旦那? 持ちの人妻? だからして、まあ、そこらへんはお察しだ。
「では、今度は私ですな」
そしてアルパが拳を振り上げる。そして、カルマンの腹にそれがめり込んだ。赤狼の副団長のたくましい身体がぐらりとぐらつき、見ていた観衆がざわりとざわめいた。
しかし、カルマンはグッと奥歯を食いしばり、よろめきながらも、その場に留まった。
「あいつ、吹っ飛ばされずによくふんばったな」
スノゥが褒めるが「しかし……」と続ける。
「まあ、これが限界だな」
「え?」とモモが訊く声と「お、おみごと……」とカルマンがようやく言い、そして……後ろにどさりとひっくり返る音が重なった。
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