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【32】壁と穴
しおりを挟む門はいきなり全開となって魔王が現れるものではないという。
初めに薄く開いて魔力量の少ない、つまりは弱い魔族から現れて、段々にその瘴気によって開いていくという。
門が出来たのは、二代目勇者にして後に慈悲王と呼ばれたテイオの時代。彼は聖女と力をあわせて魔界へと繋がる大穴を封鎖する、このヤキニゾゾの門を築いたという。
実際、門が出来たのは魔王が倒されたあとだから、仮面を被った王はテイオではなく、その影武者となった従兄弟だったのだが。
彼が慈悲王と呼ばれたのは、おそらくは自分が成り代わらざるをえなかった、本物の勇者テイオに対する贖罪だったのか。
タルテルオの門の前の荒野には、第三騎兵隊の隊員達がそれぞれの配置についていた。従軍神官の一人が「聞きます」と声をあげた瞬間に、大きな岩の門がホンの少し薄く開き、そこから子供ほどの背丈の槍を持ったゴブリン達がわらわらと出てきた。
やはり最初は低級の魔物からのようだ。そこにブリッタ率いる四番魔法部隊が、隊長自ら鉄扇で起こした竜巻でゴブラン達の小柄な身体を宙にまきあげる。さらに猫族の獣人達が次々にそこにかまいたちをたたき込んで彼らを切り裂く。
先鋒のゴブリン達は潰されたが、その消える死体を乗り越えて、槍を持った残りのゴブラン達がわらわらと四番部隊へと押し寄せ、魔法使い達が苦手な接近戦に持ち込もうとする。
が、その前にヴィッゴが率いる、熊族の盾部隊が立ちふさがり、大きな土壁を短い詠唱で出現させてその動きを止める。
またあとからあとから押し寄せるゴブリン達が密集したところで、横からロッフェの狼族率いる軽騎兵隊が突撃。その氷の槍で突き刺され、群は大きな杭でえぐられるがごとく消滅する。
ゴブリン達が門から出てくるのはそれでピタリと止んだが、これで終わりではないことは、門から漂う強い闇の気配で、ダンダレスのとなりに、馬を並べて鞍の上に立つアルファードにもわかっていた。
かすかに開いていた門がさらにほんのわずか、また間を広げて現れたのは。
「ホブゴブリンだ!」
声があがる。ホブゴブリンはゴブリンの上位種で子供ほどの背丈のゴブリンに対して、大人ほどの体格を持つ。彼らは皆、裸同然だったゴブリン達に対して、革の鎧をまとい赤く目を光らせた魔猪にまたがっていた。
「二番隊、魔猪の突進を低い壁で止めろ。一番隊、出るぞ! 四番は後方支援、三番は攪乱せよ!」
ダンダレイスの指令は、その絶大な魔力により声を張り上げずとも、部下達の頭に響く。魔猪の突進は、盾部隊がまたつくりあげた土壁で止められ、そこに四番魔法隊が風魔法を打ち込む。
一番隊はダンダレイスとツイロの馬が、軽々とその土の壁を跳んで越えて、他の者達もあとに続く。もちろんアルファードも鞍に立ったまま、見事に馬を操り、ホブゴブリンの右目をその銀のレイピアで、ひと突きして葬り去る。ツイロや一番隊の隊員達も炎の剣で、ホブゴブリン達を葬りさっていた。
そしてダンダレイスはその剣の一閃で、ホブゴブリンどころか、乗っていた魔猪まで真っ二つにしていた。それも魔法など使っていない純粋な剣技でなのだから、すごい膂力だ。
大きく迂回した、三番軽騎兵も後方からホブゴブリン達の部隊を攪乱する。馬と違って、突進する力は強いが小回りが聞かない、魔猪達は怒りに興奮してますます制御が効かなくなり、ホブゴブリン達の騎兵は総崩れとなる。
しかし、そこに新手が現れた。
ホブゴブリン達がまたがる魔猪よりも、数倍大きい巨体の猪三頭に引かせた戰車に乗る、巨体のホブゴブリン。ゴブリンキングと言うべきか。
「ロッフェ、回避しろ!」
後方で攪乱していたロッフェにダンダレイスが指示を飛ばす。三番隊は身軽さが売りの軽騎兵だ。重機のような猪戰車では確実に、力負けする。
ダンダレイスの言葉にしたがいロッフェ達軽騎兵はすみやかに引いた。そこを巨猪にひかれたゴブリンキングの戰車が走る。まだ生き残っているホブゴブリンやゴブリン達もいるのに、その彼らにも構わずに戰車の轍で踏み潰していく。
「二番隊! 土壁を幾重にも作れ! 四番隊は遠隔攻撃を!」
ダンダレイスが次々に指示を出す。巨大戰車の前に次々と出現する土壁。しかし、その土壁は巨大魔猪たちに体当たりに砕け踏み潰され、四番隊の猫族達が放つかまいたちもまた、魔猪の硬い皮膚や、戰車の装甲、ゴブリンキングの全身鎧が弾き飛ばす。
さすがゴブリンでもキングだけあって、よい装備を身につけている。下手な攻撃は通らないか。
そんな魔物に対しても聖女の光と勇者の力があればたやすく倒せるが。
これを狙ってあの狐と狸の宰相夫婦は、死地にダンダレイス達、第三騎兵隊を送り込んだのだ。
勇者と聖女が魔王軍本体と戦う前の捨て駒として。
だが、彼らは知らない。
ここに“もう一人の勇者”と“聖人”がいることを。
調子に乗って次々に土壁を壊し、また地面に横たわる生き残りの仲間達を跳ね飛ばして、ゴブリンキングを乗せた戰車は進む。
しかし、ダンダレイス達に到達する直前に、大きな戰車はガクンと沈み込んだ。「ひっかかったな!」とツイロが声をあげる。
「壁を連続でつくれ」と声で命じたあとに、ダンダレイスは念話で別の指示を出していたのだ。
壁を作ったそのあとで、最後に大穴を仕掛けろと。
調子に乗って壁を突き破り突進した戰車は、見事にその“穴”にはまり込んだのだ。
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