【完結】死刑執行されたら、勇者として生き返って即魔王を倒してました~さらに蘇った奴の愛人になってました。なんでだ?~

志麻友紀

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“元”魔王が他のヤツとの結婚を許してくれません!……いや、勇者もしたくないけど

第8話 日替わり異端審問官 おかわり!  その一

   



「罪など、女神の正義の使者である異端審問官たる、私になんたる暴言を!」

 そう、正義、信仰。その名の下に人はいくらだって残酷になれるのだ。なぜなら、自分は正しいのだからと、己さえだまして。

「私が孤児だと知らずに、偽りの罪状をいまあげつらねたあなたが? これまであなたは何人、いや何十人を火刑台に送り込んできたのか? そのうちに、本当の罪人など幾人いたのか? 
 いや、誰もいない。それが答えでしょう?」

 いったんは激怒に赤くなっていた異端審問官の顔は、逆にみるみると色を失った。ヴァンダリスの蒼天の瞳にひたりと見すえられていたが、彼がいま覗きこんでいるのは、おそらくは己の中の闇だ。

 自分が罪のない人々を間接的に殺してきたという事実に、ようやく彼は気付いたのだ。いや、目を背けてきたのだろう。神の正義をよすがにして。
 ぶるぶると震えて「冒涜だ、冒涜だ」とつぶやく。

「いい加減、馬鹿な茶番はよしましょう。あなたはわかっていて、気付かないふりをしてきた。異端なんてものは教会の都合に過ぎない。
 あなたは異端の烙印を押した、なんの罪のない人々を殺したんですよ」

 語るヴァンダリスの顔を異端審問官は見ていなかった。彼が見ていたのはその背後にいる黒い甲胄に身を包んだ死神のような騎士だ。かぶとの目のあたりにあけられた細い隙間から、本来、瞳は見えないはずだった。

 だが、異端審問官の目にはその紫がくっきりと映っていたのだ。彼はヴァンダリスの言葉が終わると同時に絶叫をあげて席を立ち、そして部屋を飛び出して行った。
 護衛の聖堂騎士二人があわてて追い掛けていった。

「なんかしたのか?」

 ヴァンダリスが後ろを振り返り、黒い鎧の騎士に聞く。

「ただ、己の罪を見せてやっただけだ。奴が罪人でなければ、今夜なんの悪夢も見ないだろう」
「そりゃ気の毒だ」

 実際のところ、その異端審問官は、翌日には別の人物に変わっていた。
 あとで聞いたところでは、一晩の悪夢ですっかり“改心”し、異端審問官を辞して法王国を出て、遠い山奥の修道院へと入ったという。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 次の日やってきたのは、前日の司祭よりは前髪がふさふさした……ごほん。若い神父だった。やる気満々を顔にみなぎらせて、異端者を断罪しようとはりきっている。
 若い頃は理想に燃えているもんだもんなと、年齢はさして変わらない。いや、むしろ彼よりたぶん若いヴァンダリスは思う。

 ちなみに護衛の若い騎士二人も、前日とは変わっている。当番制らしい。……というか、異端審問なんて取り調べに連日付き合うのは苦痛だろう。ずっと後ろで立っているのは、騎士としての当たり前の鍛錬であるが、精神的な苦痛がだ。

 さらに言うなら「異端審問をはじめます」「いや、審問じゃなくて質問でしょう?」というやりとりも、昨日と同じで、またこの繰り返しかとヴァンダリスはうんざりした。
 実際、昨日と同じく審問を質問と言い直しながら、昨日の審問官と変わらない文言を、若き異端審問官はそらんじ始めた。

 たぶん途中でぶち切っても、そこから言いはじめるんだろう。いや、この長い文言を完全に記憶するって、異端審問官も無駄にお疲れだなと思いながら、ヴァンダリスは今日はあくびをせずに、魔術倉庫から湯気の立つポットを出して、茶を配り始めた。

 本日の茶菓子はこのあいだアスタロークから分けてもらった、魔界は南国港街ハーフェン名物の干しメロンだ。茶もメロンの香りに合わせて、薬草園の特製の花茶だ。
 全員に配り終わり、若い神父を見れば彼はきっぱりと言う。

「私は異端者からの穢れた食べ物など受け取りません」

 そして己の正義に燃える瞳でヴァンダリスをにらみつける。
 “定型”の説法が終わり、さて異端者としての個人的な罪を読み上げ始めたところで、ヴァンダリスの形の良い眉がぴくとりはねた。

「今、なんと言った?」
「あなたの孤児院時代の男女問わずの聞くのも穢らわしい悪徳を……」
「それは誰の告白だ? 名をすべて言ってもらおう」
「ですから、数々の証言があるのです」
「だから名を言えと俺は言っている」

 礼儀正しい勇者としての私としての一人称をヴァンダリスは使わなかった。彼の顔つきは怒りというより、大変けわしい。

「もし、俺と同じ孤児院にいたというだけで、彼らが教会に囚われ拷問にかけられているとしたら、ゴース王国の名で保護させていただく。彼らを引き渡してもらいたい」

 ヴァンダリスの頭には、ハンスの顔が浮かんでいた。自分と入れ替わったネヴィルという少年の存在は消えて、いまはハンスという自由都市で家具職人として生きる青年の姿だ。
 それだけでなく、パンを分け与えてやった幼い子供達の姿もだ。もし、彼らが自分と同じ孤児院出身だった、それだけで教会に囚われて拷問を受け、根も葉もない証言をさせられていたとしたら、これは全力で救わねばならない。

「……か、彼らはあなたに無理矢理、穢されたと言っていました。ひ、被害者である彼らをどうして教会が捕らえることがあるでしょう」

 ヴァンダリスの迫力に青ざめてつっかえつっかえ答える若い異端審問官の姿に、ヴァンダリスは内心で胸をなで下ろす。どうやら、孤児院の者達に教会の手は伸びていない。

 というより、そんな証言など取らずとも、異端の罪などいくらでもでっち上げられるという考えなのだろう。まったくお粗末なことだが、そのお粗末さが今回は助かったと思う。
 ヴァンダリスの孤児院出身の者達の消息を追う手間をかけるような、無能な働き者達ではなくてだ。

「では、孤児院の私の兄弟姉妹達は、教会に捕らえられてないのですね?」
「そう、言ったはずです」

 念押しだとばかりヴァンダリスが「よかった」と息をつく。

「では、私は武装して魔界の“友人達”とともに、法王国に攻め込むような真似をしなくてすむ」

 このヴァンダリスの言葉には、若い異端審問官のみならず、後ろの聖堂騎士達もギョッとする。法王国に敵が攻め込めば、真っ先に守るのは彼らだからだ。

「法王国に攻め込むなど、あげく魔族を率いてなど、ぶ、無礼な!」

 いや無礼どころの話ではなく、まさしく異端者の所業なのだから、あまりの衝撃にそれしか出なかったのだろう、若き異端審問官の言葉尻をヴァンダリスはとらえる。

「無礼なのはそちらでしょう? あなたは私の家族同然の兄弟姉妹を侮辱しけがした。ありもしない罪をでっちあげて、あげく彼らが信者達から迫害を受けるようなことを言いだしたんです」

 ヴァンダリスは元の俺から一転、礼儀ただしい勇者の口調に戻る。それに若い異端審問官はさらに焦ったように視線をうろうろとさまよわせた。

「あ、ありもしないなどと……」
「それはあなたこそがよくご存じでしょう? 異端者ならば初めから罪を犯している。だから、どんな罪をあげつらっても、奴らを地獄に落としてもいいのだと、そうあなたは教えられて、それを信じてきた。
 ところで質問ですが、あなたは私の他に異端審問をなされたことは?」

 突然の質問に年若い異端審問官は「こ、これが初めてだ」と正直に答えた。
 この物慣れない態度から、もしかしてと思ったが、初日の頭髪が寂しい異端審問官のあれが、よほど効いたらしい。
 効いたどころか、悪夢に絶叫してガタガタと震える歴戦のはずだった異端審問官の姿に、他の者達が怯えて押しつけ合った結果、正義に燃え、成果にはやるこの新人が「私が行きます!」とやってきたのだが。

「そうですか、ならばあなたはまだ罪を犯していないということになる」
「私が罪ですと?」
「このまま異端審問官を続けていればそうなると、わかったはずですよ。今のいい加減な、でっちあげでね。
 あなたは前日の異端審問官のように、無実の人々をただ火刑台に送るだけの、地獄の獄卒になるつもりですか?」

 そのとき、新人の異端審問官はヴァンダリスではなく。不意になにかに引かれるように後ろの黒い騎士を見た。そのかぶとに隠れて見えないはずの紫の瞳をだ。

 そして、彼は白昼夢を見た。

 自分が無実の人々に異端者の烙印をおして、火刑台に登らせ、その彼らの断末魔の悲鳴をききながら、正義を成したと悪魔のような愉悦の微笑みを浮かべるのを。
 そして、その果てに己の死したあとに堕ちる地獄、それは自らが異端審問のときに、自らが語った光景だった。なにもない虚無の世界。永遠の魂の孤独。

 それを瞬き一つのあいだに味わった彼は絶叫した。そのまま部屋を飛び出していくのかと思ったヴァンダリスは、次の若き審問官の行動にギョッとした。
 彼は椅子から転げ落ちるようにして、ヴァンダリスの前に両膝をついたのだ。そして目の前で手を組み祈る、その姿は女神エアンナに対するものだ。

 なんで、それを自分に向ける? 

「私が、私が間違っていました。聖勇者よ!」

 聖勇者!? へんな言葉生み出してないか? この男と深遠なる叡智を授けられたような表情で自分を見る、若き異端審問官をヴァンダリスは凝視した。

「あなたのおかげで私の目は覚めました。私の役目は人々の存在しない罪を裁くことでも、うえの教えをただ盲信することではない。
 ただの女神の下僕として、もう一度、やり直してまいります!」
「はい?」

 ヴァンダスリの言葉を聞かず「こうしてはおられません。私は市井に飛び出し、この法王国以外の世界を見て経験をしなければ!」と部屋を出て行った。
 その言葉どおり彼は、自ら願い出て、片田舎の教会を守るたった一人の神父となったそうだ……と、これもあとで聞いた。

 いささか、やり過ぎたかもしれない……と、ヴァンダリスは思った。






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