4 / 62
【4】おジョウ様と呼ばないで!
しおりを挟む聖者様の名はシグアンと言った。歳は二十三。
若造じゃねぇか?と思ったし、てっきりもっと歳を食っているかと思った。老けて見えるという意味ではなく、妙に肝の据わったふてぶてしい面構えだったからだ。どう猛な虎みたいな面構えしてるからな。
まあ年齢不詳はジョウも逆の意味で一緒だ。三十過ぎても、若造と馬鹿にしてくるモノ知らずをぶっ飛ばしたことは一度や二度じゃない。
神殿までは、荒野に飛ばされたのと同様、一瞬で戻った。転移だとスインは答えた。なるほど魔法という奴か。さすが異世界。
上半身裸のままのジョウの姿に、とりあえずお召し替えをと小部屋に案内された。
そこで世話係の小姓だというエフィという少年が待っていた。神官見習いだという。
そうそう、スイン以下ぞろぞろいた野郎どもも、みんなこの大神殿に所属する神官だときいた。
エフィという利発そうな少年は、裸のジョウの背中に回って両手を組んでその刺青を拝むと、彼の肩に白い衣をかけた。神官達が着ていた裾の長い衣と同じで、着物やガウンのように前で合わせて、袖口はゆったりとした筒状だ。それにこれもゆったりとしたパンツを下に履く。足元はサンダル。
ただ彼らの衣が青や赤などの色つきに対し、こちらはまっ白で衿元や裾に青銀の糸できらびやかな刺繍が施されていた。これが聖女様とやらの衣だという。それから端に銀のフリンジがついた、青い帯を腰に巻かれて左横でリボン結びにされた。
ジョウはエフィにされるがままだった。羽織袴の和装などは年かさの組のモンに着付けてもらうのが当たり前になっていたから、世話されるのには慣れている。
長い黒髪は、左肩に流すようにして銀の紐で結ばれた。
それから「甘い物はお好きですか?」と聞かれ「ああ」と答えた。「お腹は空いておられますか?」と聞かれて「軽くな」と返す。
「では、サロンにはお茶とお菓子の他に軽食もご用意するように伝えます」
「サロン?」
「はい、そちらにて聖者様と、スイン様がお待ちにございます」
着替えた小部屋から、エフィにサロンへと案内された。あとで知ったが小部屋は着替えるための専用の仕度部屋だという。
小部屋からしてそうだったが、サロンもまた、どこぞの五つ星ホテルみたいな、豪奢な内装だった。それも東洋風のオリエンタルな雰囲気の。
ソファーに低いテーブルの調度は西洋方式だが、その素材はラタンに、細かい彫刻がされた意匠も竜や牡丹の東方風のものだった。置かれたクッションもまた唐草の柄のアジアンチックな柄の刺繍が施されている。そして壁の隅には縁に金箔がほどこされた藍色や柿色の彩色も鮮やかな飾り壺がドンと置かれていた。あれが古伊万里だとしたら幾らするやら。
大理石だろう床には組の応接間にも敷かれていたペルシア絨緞。この世界にペルシアって国はないだろうが、とにかく手作業で何年もかかる最高級の、お高い代物であることはわかった。
これが一般庶民なら落ち着かない気分にもなるだろうが、ジョウは堂々と長椅子の真ん中に足を組んで腰掛けた。こちとら生まれた頃から組一つ背負った極道の息子だ。金をかけた派手な調度には慣れてる。
出されたのは見慣れた三段重ねの銀器だった。いわゆるアフタヌーンティセット。ん?極道がヌーンティ楽しんじゃいけねぇか?こちとら、酒もいけるが甘いのもいけるんだ。
調度からしてエスニックな料理が出てくるか?と思ったが、こちらは正当派のイギリス風だった。東洋と西洋。まぜこぜだなと思ったが、好物は好物だ。ありがたく戴くことにする。
サンドイッチのローストビーフはしっとりとしてうまかった。ハムとチーズを重ねて頭にプチトマトが刺されたピンチョス。キッシュはナスとトマトのこういうのでいいんだという定番ながら、どれも一流ホテルに負けない味わいだ。
ならばこっちはどうだ?と中段のスコーンを手にとる。ぱかりと割って、クロテッドクリームとマーマレードをたっぷりと載せて一口。
口にクリームのコクとマーマレードの甘みと同時に隠れた皮のかすかな苦みと香りが広がる。これぞ大人のマーマレードという味だ。スコーンも口の中でホロホロと崩れる感じがまさしく絶品だ。
ミルクティをこくりとやって、こちらもうまいとしみじみしていたら、視線を感じた。シグアンとスインがじっとこちらを見ている。
「腹は満ちたか?」
シグアンが訊ねる。
「あんたのほうこそどうなんだよ?」
「満足だ」
そりゃ、奴の前には山盛りのサンドイッチの皿があって、瞬く間に消えちまったんだからそうだろう。しかも、さらにお代わりが出てきて、それにも手を伸ばしている。
「お前の名は?」
いきなりお前か?とムッとしたが、そういえば自分は名乗っていないことに気付いた。
「ジョウだ」
姓はいらねぇだろう。この世界では。
「おジョウか」
そのとたん男の眉間に向かいジョウは、イチゴショートのてっぺんにブッ刺そうとしていた銀のフォークを投げた。
大口開けて、肉汁たっぷりステーキサンドを食おうとしてしていた男は、顔の真正面でひょいと片手で受けとめた。給仕がすかさず持ってきた銀のフォークを受け取る。舌打ちしながら、てっぺんのイチゴに今度こそぶっさした。
「その、おジョウ様落ち着いて」
スインがなだめるように言うが、俺にはその言葉は禁句だとばかり、ギロリと睨みつけてやった。銀のフォークを投げなかったのは、フォークの先につやつや大粒のイチゴちゃんがついていたからだ。
口にほうりこんだイチゴもこれまた絶品だった。わけのわからん世界に放り込まれたが、とりあえず食事には困らなそうだ。
「なんで“お”付きなんだよ!」
「愛称だ。おジョウ」
「なんで、テメェにニックネームで呼ばれなきゃなんねぇんだよ!」
「私のことはシグと呼べ」
「人の話聞いてんのかよ!」
てっぺんのイチゴを食べたショートケーキにフォークを入れて、口に放り込んだジョウはピシリと固まった。
「い、いかがなされましたか?」
それにスインが恐る恐る聞く。
「こ、こいつは、あの伝説の……」
「伝説の?」
「ニューオ○タニのスーパーショートケーキシリーズと同じ味じゃねぇか!」
ジョウは感激のあまり叫んでしまった。この世界にあれと同じ味があるなんて! 週に一度は若いモンに買いに行かせていた愛しのスイーツ。
“おジョウ”様と呼ばれたことは、やはりこっちもそっくり同じ味のエ○メのマカロンに夢中になってるうちに、奴がしっかりステーキサンドを完食してから、退席していてごまかされた。
725
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
きっと、君は知らない
mahiro
BL
前世、というのだろうか。
俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。
大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。
皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。
あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。
次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。
次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。
それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる