【完結】極道聖女

志麻友紀

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【5】銀シャリとシャケは鉄板だ!

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 白百合のおジョウ様。
 忌まわしくも呪わしい、ジョウの裏の二つ名だ。
 もちろん、目の前で言おうもんなら、そいつの腐った口は永遠に開けないようにしてやったが。
 あ、一人だけ、口も閉じないで呼び続けた奴がいたっけ? 

『おジョウ』
『だから“お”を付けて呼ぶな! 』

 “最期”の時もそんな会話を交わした。
 “最期”? 
 “最期”ってなんだっけ? 



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



「ふが……」

 目を覚ますと見知らぬ天井ならぬ、天蓋。
 そうだ。自分は死んで、生き返って異世界に呼ばれて、聖女とやらで、今、見あげているのは大神殿の聖女の寝室。そのぴらぴらレースの薔薇色アラベスク模様の天蓋だ。
 瞬時に状況把握終わり。
 常に生き死にと隣り合わせの極道家業、寝ぼけている時間などない。
 身を起こせば、天蓋のカーテンが開いて世話係の神官見習いの少年エフィが顔を覗かせた。

「おはようございます」
「ん、おはよう」

 挨拶には挨拶で返すのは基本だ。最近の半グレあがりのスマホばっかり覗いている新人の舎弟は、これが出来ない奴ばかりだ。挨拶出来ない半端もんは、腹に一発蹴りをいれれば、すぐに躾は完了するが。

 朝はおはよう。
 昼はこんにちは。
 夜はこんばんは。

 基本だろう? 

 敵対する組の奴らと出くわしたときだって、ジョウは片手をあげて「よお!」とまず挨拶。
 次の瞬間には相手の顔面に拳か蹴りをたたき込んでいたが。

「お手水のご用意をいたしますね」
「ああ」

 手水って、ああ、顔を洗うことかとジョウは頷く。エフィはいったん寝台を離れて、次に銀のたらいを載せたワゴンと腕にタオルを掛けて持って来た。

「ご朝食はこちらに運びますか? それとも朝の食堂でとられますか?」
「ん、食堂に行く」

 朝の食堂ってなんだ? と思ったら、この聖者宮には朝用と昼用と夕餉用の食堂があるんだそうだ。うちの組のデカい日本庭園がある本宅だって、食堂は一つだったぞ。分ける必要あんのか? と思ったが。
 聖者宮っていうのは、ジョウが呼び出された天井の高いドームの大神殿。その大神殿の東側にある建物だ。その名のとおり聖者と聖女が暮らす建物だ。
 あのいきなりチューしてきたケダモノ聖者と、一つ屋根の下ってのは、気に入らねぇが。
 で、朝食の食堂らしく白を基調とする部屋に、糸目のスインとシグアンがいた。
 朝から嫌な顔見ちまったと思ったが、東の壁面に大きく窓を取った白い朝日が照らし出す、テーブルに並べられた食事に目を見張る。
 ホカホカの銀シャリに同じく湯気の立つみそ汁。皮もバリッとしてそうな焼き目のシャケ。逆に焦げ目一つなく、優しい黄色のだし巻き卵の横にはちょこんと添えられた大根おろし。

「和食じゃねぇか!?」

 昨日のスーパーショートケーキも感激だったが、ここで、THE日本の朝ご飯が食べられると思わなかった。

「おや、聖女様のお国にはヒィンモトのお食事がおありで?」

 スインが問いかける。ヒィンモトというのは東西に分かれた大陸のさらに東にある島国の名だそうだ。どこかで聞いたような名前だが、そこの料理だという。

「初代の聖者様がヒィンモトの料理を好まれたそうで、それから聖者宮の朝食はこちらとなっております」
「ふ~ん」

 確かに朝は米の飯に限る。たまにはパンもいいけどな。どうにも腹にたまらねぇ。そりゃ、朝までどんちゃん騒ぎして、昼近くに起きた日にはパンケーキか、フレンチトーストのブランチなんてのもいいけどな。あ? ヤクザがエッグベネディクト食べて悪いか! 生ハム乗っけたのも、スモークサーモン乗っけたのもどっちもうまいだろうが! 
 今は目の前の朝定食だ。まずはみそ汁に箸をつけて一口。豆腐にお揚げにネギの具は定番だよな。なめこも好きなんだよな。リクエスト可能ならしてみようか。
 そして銀シャリを一口。うん、自分好みの少し固めの絶妙な炊き加減だ。焼き鮭は思ったとおり、皮がパリパリで身はほどよく脂がのっている。
 だし巻き卵はふかふかで、あとからじんわりと出汁が出てくる。横に添えられた大根おろしには醤油をちょんと小さな山形のてっぺんにひとしずく。ここでどばっ! なんてかける奴はイキじゃねぇ。
 二つの小鉢には青菜のゴマ和えにひじきと豆の煮物。さらにその横の小皿には、たくあんに野沢菜漬け梅干しが綺麗に盛られていた。
 ここまで完璧な和定食とは、涙がちょちょ切れてくる。極道の漢たるもの人前では涙を見せねぇけどな。
 デカいテーブル挟んで反対側の、クソ聖者を見ると大口開けてどんぶり三杯飯を食らっていた。自分は普通の茶碗で二杯食った。




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