【完結】極道聖女

志麻友紀

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【6】世界の中心と聖者の背中

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 朝食のあと、スインが大神殿を案内してくれた。大神殿を取り囲むように四つある塔の一つ。その螺旋階段をえっちらおっちら昇った、てっぺんから見た絶景にジョウは思わず息を呑んだ。
 白波が立つ海峡の左右に果ての見えない大地が広がる。二つの大地をつなげる細い陸橋いっぱいに広がる白い砂岩で出来た大小様々な建物の市街。
 街を貫く東西南北の大通りはすべてこの大神殿へと向かっていた。高い塔の上からは様々な物品をうずたかく積んだ荷車や米粒のような人々が賑やかに行き交う人々が見えた。
 その服装は様々だった。砂漠風に南国風の民族色豊かな東洋風の衣をまとった人々。また、ヨーロッパのお貴族様の肖像画でみたような、衿元にも袖口にもレースぴらっぴらな、男達の姿もあった。

「大神殿は世界の中心ともいわれています」

 スインの言葉に、ジョウはうなずく。
 海峡を挟んで東と西の大陸が広がり、この細い陸橋にて繋がっているのだという。だから世界から様々な物資に人々が集まってくるのだと。
 たしかにこの光景を見れば、この神殿が世界の中心だと、人々は思うだろう。

「ヒィンモトの国ってのはどこにあるんだ?」
「東の大陸の彼方、砂漠の国々を通り、さらには人さえ住めない死の大砂漠を越えた先にある東の大国シュウ、さらにその先の島国ですね」

 そこが東の果てといれているという。ちなみに西にも島国があり、そちらも西の大陸の果てと言われているそうだ。

「じゃあ、味噌とか醤油とかは、はるばる砂漠を越えてやってくるのか?」
「いいえ、大神殿への寄進物は転送によって一瞬です」
「ああ、俺をあのケダモノ聖者のところに送った魔法か」

 たしかに遠くの荒野へと瞬時に自分は送られたのだ。人間を送るぐらいだから、味噌や醤油や米だって送れるだろう。

「この大神殿には世界中にある神殿より、寄進の品が送られてきます。各地の特産品に珍しい品々。それを加工する職人に取引する商人達が集まり、これだけの都となったのです」

 もちろん一生に一度は大神殿へ参りたいと、巡礼者達もまた世界中からやってくるという。

「なるほど、そういう意味でもたしかに世界の中心だな」

 左右から迫る起伏ある地形に広がる青い海、細い陸橋一杯にひしめく市街。白い大神殿のドーム型の屋根を見おろして、ジョウはうなずいた。



 次に案内されたのは創世神話が壁面に描かれた回廊。ざっと要約すればこの世界は荒ぶる鬼神オルテガと慈愛あふれる女神オルテナが創ったって話だ。
 そういえば召喚されたときに見たキンキラ観音様そっくりの女神の後ろに真っ赤な炎背負った仁王みたいな彫像が横にあったな……と思い出す。あれがオルテガか。
 そして聖者は男神オルテガの、聖女は女神オルテナの化身なんだという。いや、だから“聖女”なのになんで三十路の男を選んだんだよ! と女神様に膝詰め談判したいところだが。

「聖者様は代々同じ魂を持って生まれて来ると言われています」

 なるほどいわゆる輪廻転生って奴かとジョウはうなずく。

「聖女もそうなのか?」

 ジョウは壁画の浮き彫りを眺めながら訊ねる。観音様じゃねぇ、百合の花を背負った女神オルタナは優美な笑みを浮かべている。乳白色の大理石に彫られたそれは、ふっくらしたその頬に触れれば暖かみがあるのではないか? と思わせる、さぞや腕のある名工の作にちがいない。

「いえ、歴代の聖女様はすべて違う魂です」
「そうだろうな」

 じゃなきゃ、こんな極道が異世界から召喚されないだろう。

「ただ」
「ただ?」
「聖者様は歴代の聖女様に初めて会うと必ず『違う……』とつぶやかれたと言います」

 聖女じゃないってか? いや歴代の聖女というから、彼女達はたしかに聖女だったんだろう。
 なのに『違う? 』とは謎だ。
 さらに謎なのは。

「俺のときは言わなかったぞ」
「はい、たしかにおジョウ様と」
「だから“お”を付けるんじゃねぇ!」

 『違う』よりも最悪じゃねぇか! 

「一番肝心の質問を忘れていたな」

 ジョウは訊ねた。

「俺は元の世界に戻れるのか?」
「いえ、残念ながら私達は知りません」

 女神からの啓示で呼び出す方法は教えられたが、戻す方法は知らないという。

「一方通行かよ」

 ジョウは苦笑した。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



「夕餉の前にハマムはいかがですか?」

 大神殿の案内から、あてがわれた聖女の私室に戻り寛いでいると、エフィに提案された。

「ハマム?」
「はい、こちらのお部屋にも浴室はありますが、ハマムには広い浴槽に蒸し風呂もございます」
「サウナもあるのか? 一汗流すか」

 たしかに寝室には続きの浴室があった。猫足のバスタブは優雅だが、やはり広い浴槽に手足をのびのび伸ばして入れるのなら最高だ。それに大好きなサウナ付きとあればだ。
 ちなみに浴室はひねればすぐにでるお湯に、シャワーも完備していた。中世よりは見たところ近世ぐらいに文化的に進んでいるとはいえ、異世界とは思えない発展ぶりだが、魔法を使ってのカラクリなのだと教えられれば納得する。
 ジョウのやってきた現代世界だって、人や物を一瞬で飛ばせる技術は未だない。
 魔法、絵空事の世界のことだと思っていたが、まったく便利だぜ。 

 で、ハマムだ。

 エフィが差し出した、レースぴらぴらの明らかに女物の薄い着物型の湯着とやらは断った。男はタオル一つありゃいいとばかり、腰に巻いて中へ入る。
 そこはちょっとした旅館の大浴場ぐらいの大きさはあった。うす灰色の大理石の壁に天井には鬼神の炎と女神の白百合の文様のモザイクガラスがはめ込まれていて、薄緑のタイル床に反射して綺麗だ。
 ざっと湯で身体を流してから、蒸し風呂へと入った。こちらは大理石作りではなく、壁も床も木で覆われていた。その森林の香りが心地よい。
 どっかりとベンチに腰掛けて、腕組みをして目を軽く閉じる。
 やっぱりサウナはいい……としみじみ思ったとたん、ギィと扉が開く音が響いた。のそりとクマみたいに入ってきた男を、ぎろりと流し目……もとい切れ長の瞳でガンを跳ばす。

「なんで、てめぇがここにいるんだ?」
「ここは聖者宮だ。私がそのハマムに入って悪いか?」
「……悪くねぇな」

 聖者宮は聖者と聖女が暮らす建物。こいつだって共同の浴場を利用する権利はある。
 奴はジョウの座るベンチの横へと、どっかりと腰掛けた。反対側のベンチもあるだろう? と思ったが、ちらりとみた奴の背中に目を留める。

「それが、聖者の証か?」

 彼の背中には燃えあがる炎をそのまま写したような火傷の跡が広がっていた。




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