7 / 62
【7】神様の言う通り……なんて気に入らねぇ
しおりを挟む聖女の背中に白百合の印があるように、聖者の背中には鬼神が背負う炎がある。
ジョウはスインにそう聞いてはいた。
だが、背中の“印”はどう見ても、火傷のあとだった。
炎を巨大な焼きごてで押したような、鮮血のような紅い跡が背中いっぱいに広がっている。
それは命に関わるほどの大怪我だったことがうかがえる。
「八歳のときに家が火事になった。家族全員が焼け死んで、俺だけが奇跡的に助かったそうだ」
シグアンの口調はどこかよそ事のようだった。実際、八歳までの記憶は、家族のことも含めて綺麗さっぱりないと本人は続けた。
「私はその地の神殿の施療院で一週間ほど高熱を出して寝込んだ。目覚めたときには背中の火傷は炎のあとを残したように治癒し、目の色も髪の色も変わっていた」
シグアンははそのまま大神殿に迎え入れられたという。
「じゃあ、歴代の聖者も背中に火傷のあとを負っていたのか?」
「いや、私ほどに激しい“聖痕”のあとは最初の聖者と私だけだそうだ」
他の聖者はそもそも背中の大半ではなく、一部に炎の様な形の痣がでる程度だったという。聖者としての力が“覚醒”すれば赤みがかった瞳になるのは変わらないにしろ。
さらには初代聖者もまた、老人のような白い髪としていたという。
「私の場合は生死を彷徨うほどの火傷を負った精神の負荷のせいだろうと医者に言われた」
最初の聖者がどこから現れたのか、彼がどこの生まれなのか、いまだ謎のままだ……とシグアンは語った。
ただ、彼だけが蝕と呼ばれる存在を倒す力を持っていたこと。
背中に炎のような火傷の跡を背負い、この世界の人々にはない赤みがかった瞳に老人のようなまっ白な髪の毛をしていたと。
「それで聖女も黒髪黒目か?」
そんなもの日本人じゃなくても、自分の世界にはごまんといると思うが。
「いや、歴代の聖女は背中に白百合の形の痣が浮かびあがるだけだ。西方にしろ東方にしろ、黒髪はいるが、瞳の色はいくら濃くとも緑や青の色だ」
つまり聖者様の赤目と同じように、黒髪黒目はこの世界でジョウひとりってことか。だが“聖女”を呼ぶのに、なんで異世界からヤクザの男を呼んだのか、そこらへんオルテナ女神様とやらに直接会えたならば、やはり膝詰め談判したいところだ。
「美しいな」
言われてなんのことか一瞬わからなかった。シグアンの視線の先が自分の背に向いていることに気付く。
白百合に囲まれた微笑む観音を。
「そりゃどうも。これは火傷でも自然な痣でもねえ、入れ墨だけどな」
「入れ墨?」
首を傾げるシグアンに、この世界にはないのかと思う。最初の神官どもの反応を見れば、無いのは分かっていたが。
「肌に墨を入れるんだ。顔料だよ。つまりは人工物だ。これが聖女様の印って間違っていると思わねぇか?」
「オマケに俺は男だぜ」とジョウはわざとらしくニイッと悪い笑みを浮かべる。悪女のツラだ、なんて言った奴は蹴っ飛ばしてやったが。
この美人にだったら、騙されてケツの穴の毛まで抜かれてもイイって奴もいますぜ、なんてふざけたこと言った舎弟がいたが、そりゃどんなヘンタイだ!
さて、偽聖女と断じられて、一番に困るのは実のところジョウだ。何も知らない世界で放り出されるどころか、ペテン師として牢屋に放り込まれる可能性だってある。
しかし、それがどうした!? という思いもある。聖女扱いはいまだ納得していないし、放り出されたところで生まれながらの極道は伊達じゃない。どこでも生き抜いてやる自信はある。
で、赤みを帯びた薄い唇の両端をつり上げて、横にいる男の顔を見あげてやる。百八十はある自分よりガタイも背丈もあるから目線が自然、上になるのがシャクに触るが。
シグアンは淡々とジョウに己の出自を語った無表情のまま、じっとこちらを見ていた。薄くもなく厚くも無い、ちょうど良い大きさの男らしい唇が開く。
「美しいな」
「は?」
今度は背中の入れ墨ではなく、己の顔を真っ直ぐ見て告げられた、低いバリトンにジョウは声をあげた。自分の声は男としては高くもなく低くもないテノールってところだ。
「お前の顔だ。初めて見たときから美しいと思った」
「女顔だって言いてぇのか?」
とたん声にドスがきいて低くなったのは、ガキの頃からのコンプレックスだからだ。母親譲りの己の顔は断じて嫌いじゃないが、その代わり自分を女と馬鹿にしてきた奴は、すべてぶちのめしてきた。
だったら、女みたいにちゃらちゃら髪を伸ばさずに切れってか? そんな風に猿みたいにキィキイほざく奴らの神経を逆なでするために【ワザ】と伸ばしているのだ。
さらさらヤマトナデシコよろしくの黒髪の生白いのに、頭を踏んづけられるのはどんな気分だ? と。
「美しいものに男も女も関係はない。私は顔立ちの美しさだけではなく、その黒い瞳に宿る強い意思の光も美しいと言っている。お前の心は真っ直ぐだな」
「……そりゃどうも」
顔は綺麗な自覚はある。しかし、極道に真っ直ぐだって? いや、こちとらの性根は捻れまくって螺旋のトルネードコースターかましているぐらいなんだが。
「それにお前は聖女だ。たしかにお前は【荒神】となった私を鎮めたのだからな」
蝕を倒したあとの聖者は鬼神の力の暴走で【荒神】と呼ばれる状態になる。
聖者のみが蝕を倒せるように、聖女のみがその【荒神】の昂ぶりを鎮めることが出来る。
ジョウはスインにそう教えられた。
「それに私は一目見て、お前が聖女であるとわかった」
そういえば歴代の聖者達は、聖女を見て『違う』とつぶやいたと伝わっていると聞いた。
こいつは自分を見ていきなり『おジョウ』と呼びかけたわけだが。
【おジョウ】それはジョウにとって忌まわしき呼び名だ。
一体誰だ!? 自分のことを【白百合のおジョウ様】なんて呼び始めた奴は!
一気に怒りと恥辱がこみ上げてきて、シグアンが自分に対しては『違う』とは言わなかった……その泡ぶくのように浮かんだ疑問はすぐに頭からすっとんだ。
代わりに「はっ」と馬鹿にするように鼻で笑い。
「それが神様の定めたことだからか? 面白くねぇな」
「面白くない?」
「だってそうだろう? 神様のお告げだからって、あんたは聖者やってるのか? 俺も異世界から突然呼ばれて聖女様だって? なんでやらなきゃなんないんだ?」
そこがジョウの気に入らないところだ。
自分は極道だ。それも死ぬ前は一つ組を率いていた。
それが神様が言ったからって、己が納得もしてないのに従うなどスジが通らない。
己の生き様は己で決める。
たとえそれが、この異世界で生きて行くための、一番楽な手段だとしてもだ。
622
あなたにおすすめの小説
裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。
みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。
愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。
「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。
あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。
最後のエンドロールまで見た後に
「裏乙女ゲームを開始しますか?」
という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。
あ。俺3日寝てなかったんだ…
そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。
次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。
「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」
何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。
え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね?
これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる