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【15】そこで見学してろって? 冗談じゃねぇ!!
しおりを挟む結界のトンネルをくぐり抜ければ、背後の穴はすぐに閉まった。
巨大な渦の中はまったくの無風だ。台風の目の中にはいったのと同じ。
その渦の中心にはなるほど【獣】がいた。
巨大な四つ足の巨体。頭にはねじくれた角が無数に生えている。顔の上半分は赤に黄色に青と瞳孔のない光る目が無数にある。下半分はぱっくり割れた真っ赤な口とあきらかな異形。
これが蝕の獣なのだと、言われなくてもわかったのは、聖女としての本能? って奴なのか。
「俺がこの世界にきて一番最初に見たのは、真っ黒な靄みたいな奴だったな」
「蝕は力が強くなれば具体的な形を取るようになる」
「なるほど」
ジョウが疑問を口にすれば、シグアンが答えるのに頷く。つまり、今回のは前回よりも大物ってことか。
「あれをぶっ倒せばいいのか?」
「いや、お前はそこで見てればいい」
「はぁ?」
シグアンの言葉にジョウはその形の良い眉を跳ね上げた。
「ここまで付き合わせておいて、俺に見学してろだと?」
「戦うのは聖者の役目だ。聖女は聖人の傷を癒す」
「なんだよ? 擦り傷に手を当てて『痛いの痛いの飛んでけ~』とでも言うのか?」
白衣の天使なんて自分のガラじゃねぇと、ジョウは思う。
「傷を癒すだけではない。聖女の一番大切な役目は、荒神となった聖者を鎮めることだ」
「…………」
そういえばそれがあったと、ジョウは苦い顔になる。
またこのケダモノとチュウしないといけないのか?
そしてそんな二人の存在に気づき、渦の中心に座していた獣が咆哮をあげる。黒い固まりの口がぱっくりと開いて真っ赤な断面に、銀色に光る乱杭歯。
「そこにいろ! お前は危険にさらさない!」
そう言い残して、シグアンが跳んだ。
それこそ、四つ足の獣の頭上高く。通常の人間の跳躍力ではない。
その足に風の力をまとっていると、ジョウの目は見えない緑の魔力を見た。
────ここで大人しくしていろねぇ。気に入らねぇが……。
だったら、お手並み見せてもらおうか? とばかりにジョウは地面にあぐらを掻いて座りこんだ。
高く跳躍した黒衣の姿に向かい、獣はその無数の目から、真っ赤な血の色の火球を放った。
火球はこっちにも飛んできたが、地面にどっかりあぐらを掻いた、ジョウは頬杖をついた姿勢のまま微動だにしない。身体の横すれすれに着弾してもだ。さすがに当たりそうになりゃ、ちょっと身体を傾けて避けるつもりではあるが。
こんなもの銃弾と一緒だ。当たるか当たらないかはそいつの悪運次第。
至近距離で互いの顔に銃口を向け合ったこともある。ジョウは死ななかった。が、相手は死んだ。そんなもんだ。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
最期の時も互いに銃口を向け合っていた。
胸に走る衝撃と見おろした視界のなか真っ赤に染まる自分の白いスーツ。
相手の黒いシャツも目立たないが胸にじわじわとより深い黒のにじみが広がっていくのが見えた。
いつも黒ずくめの奴だったな。
名前は何だったっけ?
顔も覚えてねぇや……。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
そこまで考えて回想から現実に引き戻されたのは、自分の視界いっぱいに黒い背中が広がったからだ。
初めはバラバラに放たれていた火球は、黒衣の長身を覆い尽くすような一つの固まりとなってこちらに迫ってきていた。ちょいと身体を横にして避けられるもんではない。
それにシグアンが退けば、後ろのジョウに直撃する。
「おい!」
ジョウは思わず立ち上がった。
シグアンは動かない。迫る巨大な火の球にその黒い木剣を大上段に構えて。
振り下ろした。
真っ赤な岩石みたいなそれは、粉々に砕け散った。ジョウはその衝撃の爆風と飛び散る火の粉にも、顔を背けることも目を閉じることもなく、その光景を見つめ続けていた。
ただ、不動の壁のように立つ、男の黒衣の背中を。頭に巻いた黒いターバンの端が風に激しくはためいている。
────こいつ、俺を庇いやがった!
その感謝よりも怒りが勝った。
見ていろと言われたが、自分は己の身を守れないような、か弱いお姫様じゃない!
「冗談じゃねぇぞ!」
「おい! なにを!?」
シグアンの野郎が叫んでいるが、それを無視して前へと飛び出す。白い長衣のふところに手を入れる。
この世界に来ていた血染めのスーツはもはや使いものにならなかったが、その懐に入れていた銃は、常に持っていた。
あっちで一度死んだときに弾は使い尽くしていた。だからこれはただの鉄の塊だ。
だが飛んでくる火球にむかって、ジョウは銃を構えた。
その視界にまた黒い背中が壁の様に立ちはだかった。また自分を庇おうとしてるのだ。この馬鹿! とその聖者様っぷりに腹が立つ。
駆け出して、その長身を追い越して前へと出た。
銃を構える。
「奇跡も魔法もあるんなら、タマ無しでも根性でぶっ放せよ! 相棒!」
引き金を引けば、とたん立て続けに銃声が鳴り響いた。
宙にある全ての火球がないはずの弾に打ち砕かれた瞬間だった。
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