【完結】極道聖女

志麻友紀

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【20】労働のあとの酒はうまい! 

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 一仕事したあとの酒は格別だ。
 それがうまい酒ならばなおさら。
 オアシスの井戸でキリリと冷やされた葡萄酒。
 何の飾りもない銅のゴブレットををジョウは傾けた。ごくごくとうごく白い喉仏。そこに伝う一筋の汗。思わず見とれた青年が思わず頬を染めて、そっと目を反らした。
 ……のは、目の端に捕らえていたが知らないフリをジョウはした。若いモンの血の迷いなんてよくあることだ。自分で望んで女顔? 悪女顔? に生まれた訳じゃないが、こんな視線には慣れっこのジョウだ。
 ただし、自分に伸びてきた手は容赦なく振り払うどころか、迷い無くへし折ってきたが。
 一気に飲み干せば「いい飲みっぷりだね! 聖女様!」と、ブッカーの街の顔役の親父が、お代わりの酒を井戸水で冷やした壺から注ぐ。
 隣にどっかりあぐらをかいた座ったシグアンもまた、呑み干したゴブレットにこちらも市長から酒を注がれていた。
 オアシスのブッカーの街。集会所には長机が並べられて、蝕の嵐を祓った聖者と聖女のための宴が開かれていた。周辺の小さなオアシスの村々からも村人達が宴に使う食材を手に集まってきていた。
 この土地の名物は点在する地下水脈をカナート(地下水路)で結んで作られた葡萄畑。そこから作られる葡萄酒だ。このときとばかりにタルが次々と開けられて、人々は厄災が祓われた喜びに笑顔を浮かべて、聖人と聖女に感謝の言葉を述べる。
 人々の素直な「ありがとうございます」との言葉にジョウとしてもわるい気分はしない。笑顔で応じる。
 ワインはうまいし、出された料理も素朴だからこそ美味しい。香辛料をまぶして焼かれた羊に鶏の串焼き。その臓物の煮込みのスープ。ただ茹でた芋もほんのり塩味がついていて、そこに水牛のチーズをのせて食べれば最高だ。
 この村では晴れの日のごちそうだというぱらりと炊かれた干しぶどうの入ったバターピラフに、臓物のスープを浸して食べながら、ちらりと横のシグアンを見れば、羊の串焼きを豪快に食い、スープを器に口をつけて呑んでいた。
 相変わらずの無表情だったが、奴には絶対味が薄い。いや味など全く感じないだろう。肉に付けられた香辛料もスープにつけられた塩味も全然足りない。
 だが、シグアンは出された料理を無言で平らげていく。いつものながらの食いっぷりに、回りもニコニコと見ている。

「お味はいかがですか? 聖女様」
「ああ、酒も料理もすごくうまい」

 ジョウは市長に尋ねられてにこやかに答えた。
 
 最後に最上級の贅沢品だという、焼き菓子が出てきた。干しぶどうとナツメヤシと蜂蜜でかなり甘かったが、特産だという茶の渋さと合わせると調度よかった。といっても、さすがに一切れだったが。シグァンのほうはジョウの二倍の大きさに切られたそれを、無表情に大口開けて食っていた。

────極端に濃い辛みと塩味はともかく、甘みはまったくわからないって言っていたクセに。

 喜ぶ人々の前で、それを言葉にするほどジョウも野暮ではない。
 なにより住民達の心づくしだ。
 ただ渋い茶を一気に呑み干すシグアンを、少し複雑な気持ちでチラリと見て、横から茶を注がれるのにジョウもまた笑顔で応じた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 転送で大神殿へは一瞬に着くが。
 宴で夜も更けたということで、今夜はブッカの街の神殿に一泊することになった。
 シグアンとジョウが泊まるのは神殿の貴賓室。
 聖者と聖女なのだから貴賓室は当然であるが、本来は男女であれば、部屋は別々にすべきなのだろう。
 だが、聖女であるジョウも男だ。
 それでも貴人である二人を同室にするなどと、市長の館の一室を提供するという案もあったが。

「同じ部屋で構わねえよ」

 ジョウは断った。野郎同士なにも遠慮することなどないと、そのつもりだった。
 が、そう答えたとたんにスインはともかく他の神官達が、なんとも言えない表情となった。

「本当に一緒のお部屋でよろしいのですか?」

 とブッカの神官長が確認するのに、ジョウは「あ!」と思いつく。
 神官ならば【荒神】となった聖者を鎮めるのに、聖女がナニをするか知っていて当然だ。
 さらには黄金の結界が消滅したあと、駆けつけた神官達には、上半身まっぱだったジョウの首筋に、シグアンがちゅうちゅう吸い付いた……キスマークじゃない! とにかく痕が見られていたわけで。
 こりゃ、少しは別室にすることを考えたほうがいいのか? 
 とジョウが一瞬、考えたところで。

「私も聖女と同室で構わない」

 ぐいとシグアンに腰を抱かれて、貴賓室に案内されてしまった。
 いや、だから、なんでこの聖者、俺の腰を抱くんだよ! 
 と心の中で思った。




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