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【41】いきなり同棲!?
しおりを挟むスインの話によれば、元々はあちらのほうが先に聖女だったのだという。
あくまで『お飾り』であるが。
「ここ数百年【聖女】の称号は、代々帝国の皇女に名誉職として与えられるのが慣例となっていました」
だからシグアンが正式に聖者となったときに、あのゾエ皇女にも聖女の称号が与えられたのだという。
「名誉職ってことは?」とジョウが聞けば「もちろん聖女としてのお力はありません」とスインが答える。
だから、聖女の称号を与えられた皇女達は、帝国の宮殿で暮らし、この大神殿に一度も来ることさえなかったという。
本当にあくまでお飾りだったわけだ。
ところが、女神オルテナの神託によって、本物の聖女であるジョウが、異世界より召喚された。
が、すでに皇女の聖女が帝国にいる。
「それで、帝国の顔を立てるために、あの皇女様を【正聖女】。俺を【副聖女】とした訳か?」
「私の聖女はおジョウだけだ。あの皇女は聖女ではない」
シグアンが先ほど皇女本人に告げた言葉をくり返す。相変わらずの仏頂面にさらに磨きがかかっている。無表情なのは変わらないが、ジョウにも彼が大変不機嫌なのがわかった。
おそらくシグアン本人も正だの副だのという聖女の事を聞いていなかったのだろう。それに対してスインが「お話しておらず申し訳ありません」と素直に謝る。
「あくまであちらを納得させる方便のつもりだったのですが、まさか、皇女様ご本人がやってこられるとは」
「さっさと追い返せ」
シグアンが言った。奴がスインに対してこんな風に命令するのは、一度も見た事はない。そうとうにお冠らしい。
「私としてもお引き取り願いたい所ですが、名誉職とはいえ、あちらも聖女様。さらに帝国の皇女殿下となれば力尽くで追い返すわけには参りません」
たしかに護衛の兵士付きでやってきたのだから、それを無理矢理となれば、ヘタをすれば大神殿と帝国の全面戦争なんてことになりかねない。
「私の聖女はおジョウだけだ。あの娘は聖女ではない」
ありゃ、とうとう皇女ともよばず、娘になったよ……とジョウは思いながら「それじゃ、話は平行線だろう」とスインに助け船を出す。
「だいたい、その名誉聖女様とやらは、代々大神殿に居なかったんだろう? それが、どうして今さら急に押しかけて来たんだ?」
「おそらく、お二人のご活躍の評判が高まり過ぎたのが原因かと」
スイン曰く、これまでの【蝕】の祓いにはかなりの犠牲が伴ったのだという。それこそ、その地帯一帯が荒れて、街や村一つ無くなるほどの。
それが本物の聖女であるジョウが現れてからは、街にも村にも被害はなく、人死にも出ていないと。
人々の歓待は恒例のことかと思っていたジョウは、彼らのはじけるような喜びの笑顔を今さら思いだして納得した。
みんな口々に言ってなかったか?
親しい人々が無事でよかった。
愛する土地が守られた……と。
それまでは【蝕】が来たならば、たとえ聖者が祓ってくれたとしても、その地を捨てるのが当たり前であったのだという。
「さらにブッカーの前御領主の醜聞もありましたから」
「ああ、それで帝国のメンツが丸つぶれと?」
ブッカーの前領主ことバシリスクスは、領主としてのこれまでの暴政の評判もよくなった上に、聖女への無礼を働いたとして、孤島の修道院送りとなっている。
あの名誉聖女様の皇女と同じく、奴も皇帝の甥だとか聞いている。たしかに帝国の評判に少なからず傷がついただろう。
「だからって、俺を押しのけて、自分が本当の聖女になれるとあの皇女様は思っているのか?」
聖女の力もないのに? いや、あの見てくれだけの頭空っぽの雰囲気だと本気でそう思っていそうだが。
己のことを本当に知らない、知りもしない。計り知れない馬鹿というものはいるものだと、ジョウにはわかってはいる。
絶対勝てないケンカをふっかけるチンピラとかな。まあジョウはそういう奴らを、ちょっと撫でて世間の世知辛さを教えてやったりしたが。
「彼女を送り込んできた帝国側としては、私達に彼女を同行させて、それを【正聖女】の名誉とすればよいと考えているのでしょうが」
「どう考えたって、後ろで大人しく見てるだけってタマじゃないだろう? あのお皇女さんは」
最初の出会いから、聖女である自分を排除して聖者を色仕掛けで絡め取る気満々だったのだ。それがゾエ皇女の一人芝居で、シグアンにまったく相手にされていない様は、いっそ滑稽だったが。
あげく、自分を捕縛しろなんて引き連れてきた兵士達に命じたのは、それが帝国と大神殿との間にどういう事態を招くか、まったく考えていない行動だった。
────ああいうアホの相手は疲れるぜ。確かにさっさとお引き取り願うのが一番なんだろうけどな。
しかし、相手は曲がりなりにも帝国の皇女様で【名誉聖女】だ。そういう訳にもいかないだろう。
「ゾエ皇女殿下ですが、しばらくこの大神殿にご滞在のようです。しかし、困りました」
スインが本当に疲れた顔で続けたのは。
「聖女の部屋に居座っている?」
「はい。正聖女の自分が本来滞在すべき部屋だと」
つまりジョウがこれまで暮らしていた部屋に、兵士を率いて強引に乗り込んできたというのだ。
「エフィは無事なのか?」
ジョウが心配したのは自分の忠実な小姓だった。生真面目な彼ならば、ここがジョウの部屋だと主張したに違いない。
「はい、それは神官達が保護をして避難させました」
それならいいとジョウはホッと息をつく。
「俺は別に寝られるならどこでもいいぜ。空いてる部屋がありゃ……」
「ならば、私の部屋に来ればいい」
シグアンが言った。
それって、聖者の部屋ってことか?
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