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【12】民政王と本の大公 その2
アントワーヌの誕生から一月後。
ローランとアンドレアスの結婚式が行われた。王宮の聖堂にて、大司教からのあらための婚姻の秘匿を授けられたあと、巡覧の大広間に現れた白と金の正装の二人は絵の様な美しさで、その後ろで乳母に抱かれて、純白の絹とレースのおくるみに包まれたアントワーヌは、人々のざわめきにも知らぬ顔ですやすやと眠り続けていた。未来の幼い王の輝くばかりの愛らしさも話題となり、三人の姿は聖家族のようだとさえ讃えられた。
「疲れた?」
宮殿内のローランとアンドレアスのいくつかある私室。寝室は共にという二人の希望もあって分けられていない。
重い正装をそれぞれの侍従の手をかりて脱いで、寝室へ。訊ねたローランにアンドレアスは答えた。
「今夜は疲れているから休ませてくださいと言ったらどうするおつもりなのですか?」
ローランは一瞬ぐっと言葉に詰まった顔をし、そして「なら、今日は眠ろう」と言うのに「嘘です」と返す。
「疲れてはいますが、私だってあなたに抱きしめられたい」
「君、アントワーヌを産んで人が悪くなってないか?」
「母は強しといいますからね」
「君は元から最強だよ」
そんな会話を交わしながら、ローランがアンドレアスを寝台へと促して、口づける。
「ん……」
もう口付けは数え切れないほど交わした。唇だけでなく、愛情の表現とばかりローランはアンドレアスの額にまなじりに頬、手の甲へと口づけた。そしてアンドレアスもまた、それにならうようにそっと返すことを覚えた。
今も唇から、頬へと口づけるローランにアンドレアスも彼の頬に返して、互いの鼻の先をくっつけ合うようにして、再びのキス。
「ふ…ぁ……」
ふわりと寝台に押し倒されて、散らばるアンドレアスの虹色の光沢の銀の髪。その髪を長い指にからませて、そこにもローランは愛おしげに口づける。
いつのまにかはだけられていた夜着の前、するりと薄い胸に触れた大きな手を、両手でアンドレアスはぎゅっとつかんで、自分を組み敷く男をにらみつける。
「なに? イヤ?」
「もう、あなたと私は結婚したのですから、嫌などありません、ただ……」
「ただ?」
「あなたはとても慣れてらっしゃる」
アンドレアスの言葉にローランはプッと吹き出して「ゴメン、ゴメン、拗ねないでくれ」とこつりとひたいをあわせてくる。
「我が身の不徳の致すところだよ。でも、それは過去のことだ。これからはずっと君だけと誓うから許してくれ」
「よく考えなくても、私は二回目なのです」
そうだ。あの香で引き起こされた発情期から数えて、こうしてローランと肌を合わせるのは二度目。
「こんなにも胸が高鳴っています」
アンドレアスが男の手をとって、自分の胸に当てる。それにローランが空いているもう片方の手をひたいにあてて。
「まったく君は存外に可愛いことをする」
「可愛げがない子だと、祖父以外にはよく言われましたけど」
「俺にとってはアントワーヌを遥かに引き離して可愛いよ」
「そこは息子が可愛いと言うべきではないですか?」
「いやいや父は美しい母を巡って、息子の前に立ちはだかる壁となるものさ」
「それにね」とローランはアンドレアスの手をとって自分の胸に当てる。そこはドクドクと大きく脈打っていて、アンドレアスは目を見開いた。
「ドキドキしてるのは君だけじゃないよ」
「あなたも……?」
「本当に愛する人と抱き合うのは、これは二回目なんだ。こうなって当たり前だろう?」
“本当に愛する人”とその言葉はすとんと胸に落ちた。自然に二人とも互いの背に手がまわり抱き合って、裸の高鳴る胸を重ねる。口付けあう。
舌を絡めて、やはりどうやってもローランの巧みさに、くらりと目眩さえする。胸の先を指で摘ままれ声をあげ、もう片方は口で吸われて「やっぱりここも気持ちイイ?」と言われて「わからない」と男の頭をぎゅっと抱きしめると「それはクセなのかな?嬉しいけどね」と心臓の上に口づけられた。
「前のとき?覚えていません」
「これからはたくさん思い出をつくればいい。あと、気持ちイイところも覚えてくれ。直接はここかな?」
「あ……」
口付けと胸の愛撫ですでに、ゆるく反応していた下肢を重ねあわされる。余裕そうにみえるローランのほうが猛々しくて「熱いです……」と言えば「愛しい人に触れればこうなるよ」と言われた。彼の唇からもれる吐息も熱いことに気がつく。
そうして、重ね合わされてローランの大きな手に導かれて、自慰も知らず、堪えることなんて当然わからないアンドレアスはあっけなくはじける。
「あなたは……まだ…で…す……」
「うん、俺は君のなかでね……ここ」
「ふぁ……あ……」
するりと最奥の蕾をなぞられる。アンドレアスの白蜜をまとった指がつぷりと中へと「発情期じゃないから、少し足りないかな?」と寝台の横の卓に腕を伸ばして、ガラスの小瓶がアンドレアスの目にちらりと見えた。ふわりと花の匂いがひろがって、さらにぬるぬるになった指がなかにはいってくる。
「痛くない?」
「痛くは……ありませ…ん……ヘンです……が……ひゃんっ!」
ある一点を長い指がかすめて思わず声をあげてしまう。「やっぱりここだね」と確認するように何度もふれられて、イヤもダメも言えずにただ甘い声が口からこぼれる。そして、気がつくと指ではなくて、男の熱い楔がゆっくり入ってきていた。
奥まで。
はじめはゆるゆると、最後には激しく、アンドレアスも無意識だけど腰を揺らしていた。そうして一番高く大きな波に二人さらわれる。キツく抱き合って、はあはあと息を整えて、男の広い背中に自分が爪を立ててしまったことに気づいて、そのあとにそっと手をあてて、そして気づいた。
「あなた、まだ?」
そう二人とも解放したはずなのに、ローランは力を失っていない。
「うん、まだ君が欲しい」
「あ……っ!」
また力強く動きを再開されて、アンドレアスは思わず口走った。
「つ、次の発情期がきたら身籠もってしまいそうです!」
「いいね、子供は何人いてもうれしいよ」
実際、二人は三人の王子と二人の王女に恵まれることとなる。
そして、ローランは生涯愛妾を持つことをなかった王として最愛王の名で知られ、また議会を招集し、革命を起こさずにフランレーヌを立憲君主制へと導いたとして、民政王とも呼ばれた。
アンドレアスはそれまで特権階級だけで独占していた本を民衆へと解放する図書館を開いた。あちこちの都市に建てられた図書館は数多くの学者や著名人、国を支える人材を生み出すことになる。
王配となった彼にはシャントール大公の爵位が与えられ、彼は本の大公様と呼ばれた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
さて、病気療養のためと離宮に送られた廃皇太子
フィリップは、ローランとアンドレアスのあいだにアントワーヌが生まれたあとも、王都に帰ることは許されず、逆にさらに遠く気候の良い南の小島に移されて、そこで不平不満を漏らしながらも、なに不自由のない“結構なお暮らし”をされたということだ。
END
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