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 アルクガードの恥ずかしい? 過去の暴露とともに、いつのまにやら着ていたシャツの前をはだけられて、ベッドに組み敷かれていた。
 ちなみに二人の背の高さはアルクガードが指三本分ほど低いぐらいだが、横幅には大分差がある。ソルフォードが太っているわけではない。アルクガードが細いのだ。いかにも肉体労働なんて知りませんというもやしみたいな身体と、文字通りの文武両道の鍛えられた肉体。

 自ら志願した軍への一月の体験入隊も、なにも知らない貴族のお坊ちゃまを扱いてやろうという、鬼軍曹の訓練に食らいつくどころか、余裕でこなし、体験が終わる一月後には、酒盛りし肩を組んで歌いあうまでなったという。ただの貴族の子息という触れ込みで、最後にソルフォードの大公殿下という身分を知った鬼軍曹は、腰を抜かしたらしいが彼はそれを笑って許したという。 
 貴公子が泥まみれになって兵隊ごっこなど……とこれも頭の固い方々からの、評判はよくなかったというが、それはともかく。

「や、あ……どこを撫でているっ!」
「新雪のような肌だな。月光の光沢をもち滑らかだ……」
「そういうのは“雌花”の小柄な相手にいえ……ひんっ!」

 妙な声が出たのは乳首を摘ままれたからだ。いや、ここで感じるのは受けだって! と思うが、コロコロ指先で両方の先をいじられると、胸になにか切ないものが湧き上がってくる。
「し、正気に戻れ! ソ、ソル! お前が抱こうとしているのは、可愛げもなんにもない悪徳の黒薔薇、アルクガード・ダークローズだぞ!」

「ようやくソルと呼んでくれたか、アルク。やはりお前は悪ぶっているだけで、可愛らしい、俺のアルクだ」
「誰が誰のものだ! ぎゃあ! どこを握りしめているんだ!」
「色気もなにもない叫びだが、俺が触れての反応だと思うと、少しも気持ちが萎えないな。むしろそそる」
「お、お前、それで昂ぶるなんて、どう考えてヘンタイだぞ……あ!」

 胸をいじられるのがいやで、身体をよじってうつ伏せになったら、今度は後ろからのしかかられた。尻に固いものがあたってギョッとしたが、身体の中心を握られていては、どうにも逃げようがない。
 まして、それをやわやわと揉まれて扱かれてしまえば……男というものは悲しいもので、当然反応する。男の指だって固くなる。というか、後ろから包まれるように抱きしめられて、香るムスクの香水にくらくらして、尾てい骨からゾクゾクとなにか……は、這い上がっていてなんていない! いや、やっぱり冷たいのか、熱いのかわからないのがあがってきてる。頭がぼうっ……とする。

「濡れてきている」

 後ろから抱きしめられてささやかれた言葉にぎょっ……とする。下肢をおおう布はすっかりずらされて、片手で前を握りしめられたまま、もう片方の指が尻の狭間を探っていた。たしかに、湿った感触があることにアルクガードは愕然とする。
 雄華の身体は濡れることはない。濡れるのは雌華の身体だ。自分は公爵家の跡継ぎとして雄華に生まれたはずだ。それがこんな簡単に受け身の身体にされてしまうなど。

「アルク、君ははじめから雌華だったのだ。いや、この俺が、ずっと前に君を雌華にしてしまったというべきか」
「どういうことだ! あ……!」

 驚きの声をあげたのは、濡れたそこに指を差し入れられたからではない。今までどうして気付かなかったのか、うかつだった。
 広いベッドの枕元、その壁に飾られていたのは、一振りの枝の先にある丸い卵のような白い蕾。
 これは御子の華だ。夫夫となったものがこの華を枕元に飾り、身体を重ねることで華に命が宿る。華開くとき子供が産まれる。

「このっ! 騙したな! ああああっ!」

 叫んだ瞬間、後ろから抱きしめられたまま、貫かれた。濡れて指でならされたそこは、すんなりと男のたくましいものを受け入れていた。痛みはないのに、涙が白い頬を伝った。

「このままでは……あ、あぁ……」

 アルクガードは枕元の壁に向かって手を伸ばす。そこに揺れる蕾の膨らみを命が宿る前に、握りつぶしてしまわないと。
 指先が蕾に触れる。そのとたん指先にドクンと鼓動のような震動が響いて、思わず手を引いた。
 この蕾はすでに生きている? 馬鹿な。ただ挿入しただけでは、華は生らない。雌華の胎に雄華がその子胤を注がなければ。
 なのにどうしてこの蕾にはすでに命が宿っている? これでは蕾を潰せない。命を奪えない……という気持ちだけでなく、蕾に触れたとたんにアルクガードの胸に、なにか理由もなく切ない気持ちが湧き上がってきた。ほおにハラハラと涙が伝う。

「アルク、アルク、思い出したのか? この華はずっと前から俺達の蕾だ。俺達の子はずっと待っていた」

 後ろから抱きしめられてうなじに口づけられて、揺さぶられてながら「あ、ああ……」と声を漏らす。そして「知らな…い……」とうわごとのように言う。「そうか、無理に思い出すことはない」と、また優しく背に唇が押し当てられる。敏感になった肌は震えて、アルクガードは「んぁ……」と自然に声をあげる。

「頭は覚えていなくとも、この身体は知っている。君はもうずっと前から、俺だけの雌花だ。俺のアルクガード、愛してる」

 “愛してる”とささやかれたとたん、ドクンと身体の奥でなにかが変わるのがわかった。胎内がざわざわと穿たれた男のたくましいものに絡みつく。まるで強請るように絞ろうとするのが。「は……」と男の熱い吐息が背にかかる。

「君の心と身体は俺を受け入れてくれるのか? ここに注ぎこむぞ」
「そ、それは……まっ…て……ひぁっ……あ、熱い……」

 薄い腹の下腹部に手を押し当てられて、ぐっと突き上げられる。そこにどくどくと注ぎこまれるものを、まざまざと感じる。

「あ、あ、あ……」

 身体が作り替えられていくような気がした。うねり収縮する身のうちは、与えられた男の精に歓喜して、その欲望にむしゃぶりつく。がくがくと身体が絶頂に震える。
 歓喜の涙に潤む視界の向こうで、白い蕾がぽうっと輝くのが見えた。ああ、本当に生ったのだなと思う。
 もう蕾を握りつぶす気はなかった。むしろ、そこに命があることに愛おしさが募る。これは自分と、自分を背後から貫く男との子だ。

「ひゃあっ!」

 悲鳴をあげたのは、いきなり引き抜かれたからだ。表にくるりと返されて、大きく足を開かされて男の身体が割り込んでくる。だけでなく、再び欲望が入りこんでくる。濡れているのと吐き出された精で、最初から深くずぶずぶと沼に沈むように。

「あ、そん…な……おく…まで……うぁ……」

 太くて長い欲望の先に、腹の奥の奥、入りこんでいけない場所まで押し広げられるような気がした。かすかな痛みと未知の感覚の恐怖に、涙目となる。

「すまない。俺も焦っている。君を一晩で俺の雌華へと塗り替えてしまいたい。俺からもう二度と、引き離されないように」

 ひたいやまなじりに浮かんだ涙を吸い取る唇は優しいというのに、胎の奥を蹂躙する動きは凶悪で残酷だ。ついに先が突破したのを感じて、目を見開き「あ、あ、あ」と声をあげる。
 怖い、痛みもある。なのに、先でゆっくりこねられる度に、先に穿たれた以上の甘いしびれが全身に走る。脳髄まで溶けてしまいそうな。

「アルク、俺は待った。ずっと待っていたんだ。これ以上はもう待てない」
「……言ってる意味がわからない……ああっ!」

 それは自分がソルフォードを待たせた覚えもないのと、蜜の様な快楽でうまく考えられないのと両方の意味だ。最後にあがった嬌声は、入りこんだたくましい欲望から、どくりと再び精が吐き出されたからだ。
 たっぷりとそれが注がれるのと、己の身体に染みこんでいくのがわかる。一番最初にも感じた、身体が作り替えられていく感覚は……これで完成したと告げていた。雄華から、雌華へ。たったひとりを受け入れる華へと。
 もう恐さはない。潤む瞳で目の前の男を見上げれば、近づいてくる顔に目を閉じた。唇が重なる。最初から舌が絡まる淫らなキスだ。慣れないそれにうまく出来ずに、とろりと口の端から、まざりあった互いの唾液をこぼし、アルクガードは赤い唇ではあ……と息をする。

「初めて……」
「ん?」
「口づけた」
「ああ、そうだな。唇も重ねないでいたか。俺としたことが」

 本当にそうだ。キスもなしにいきなり貫くなんて……と思ったが、それを埋め合わせするかのように、顔中に唇がふって、また唇が重なった。
 そして、いまだくわえこんだままの男のたくましい腰に足を絡めて、もっと精をくれと自らねだったのだった。




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