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魔王は勇者に甘い!
【46】あの子が欲しい! あの子はどちら?
しおりを挟む「どうして、大叔父上はダメなのですか? 大叔父上は僕にとっては家族同然の大切な方です」
あくまで真っ直ぐにアルトルトは述べる。これは言外に、他には自分には家族などいないととられかねない言葉ではあるが。
「王太子殿下。病気ご療養中のあいだ、それはそれは大公殿と親しく過ごされたのでしょう。しかし、王族といえど大公殿はあくまで外戚、王の臣下なのです。我ら王族一家とは区別為ねばなりません」
しかし、そんな深読みなど浅はかな女はせず、ただ子供の戯言とばかり鼻で笑った。さらにはまた病気ご療養中ときた。
小さな勇者と巨人ギガントスとの戦いは、国民どころか大陸中の知るところなのだ。どんなにこの女が自分の思いこみたい幻想をわめこうと、無駄だというのに。
それが分からないからこその、愚かさというべきか。
「では、大叔父上は王宮に留まることは出来ないと?」
「ええ、大公殿には王都にお屋敷がありますから」
「では、僕もそちらに行きます」
アルトルトの簡潔な言葉にザビアが「なんで!?」と思わず叫ぶ。デュロワの太い眉が動いたが、今度は彼は咎めることはなかった。この王妃の不作法をいちいち注意していたら、会話が進まない。
『思い通りにならない子供ね!』とばかり、ザビアはアルトルトを睨みつけて、レースの袖の広がりに隠れて、横にいる夫であるパレンスの脇腹を肘で突いた。『あなたなんとかしなさい!』というわけだ。
そこでギクシャクとパレンスが口を開く。
「王太子であるそなたがどうして、王宮に滞在せずに、大公邸に行くというのだ?」
「臣下である大叔父上が宮殿に泊まるのはよくないというのならば、王太子である僕が大伯父上の館に泊まるのならば良いのでしょう?」
「た、確かにそうだな」
「あなた!」
アルトルトにうなずいてしまったパレンスに、ザビアが『なんでそうなのよ!』とばかり声をあげる。
「王太子殿下、王宮というものがありながら、臣下の家に泊まるなどなりません。それではまるで……」
「まるで王宮が王太子殿下の滞在を許さず、王都にいながら臣下の家で過ごすことになったと、世間は見ると?」
デュロワの言葉にザビアは「よくおわかりではないですか!」と続ける。
「とにかく、王太子が王都にいながら臣下の家で過ごすなど、王家としての面目があります」
まったく、二言目には面目だの体面だの言い出す。そのわりには己のアルトルトへの継子イジメは丸分かりの浅はかさだというのにだ。
「我が大公邸に王太子殿下が滞在するのが、王家の不名誉だとおっしゃるならば、間をとって王宮でも私の館でもない。誰もが納得する場所にいたしましょう」
「あら、そのようなご滞在場所などありましたっけ? この王国はすべて王のものだというのに」
ザビアが嫌みたらしく告げる。たしかに王国のは王のもの。荒れ地の草木一本までも王のものだという言葉さえある。この王都にそんな場所などあるかと言いたいのだろうが。
「ええ、王都の神殿です」
「神殿ですって!? あちらは王家の管轄外、いくら陛下の口利きがあろうとも、王太子の滞在など……」
意外な言葉にザビアが驚愕の声をあげる。
神殿は、王やどんな権力も手を出せない治外法権である。
だからこその切り札なのだが。
「猊下のご許可はすでに頂いております。当代勇者とそれの供達は、全ての神殿にいくらでも好きに滞在してよいと」
猊下とは四大陸の中心にあるダーナ大神殿。その大神官長の権威は、全ての王侯諸侯の頂点に立つ。
そのダーナ大神殿の大進館長の紋章入りの封書をデュロワが掲げる。
「では、殿下。神殿にむかいましょうか?」
「うん、大叔父上」
「お、お待ちなさい! 大公の滞在を許します!」
ザビアが慌てて口を開く。デュロワはそのザビアではなくパレンスを見る。
「私の滞在をお許しくださいますかな? 陛下」
「う、うん、他ならぬ叔父上だ。か、かまわない」
そう、王宮の滞在許可を出せるのは、王妃ではない。この宮殿の主たる王だ。自分をまったく見ないパレンスに、ザビアはつり上がっていた目をさらにつり上げる。まったく、この女の目尻はどこまであがるのやら。
「では、大公殿のお部屋をご用意……」
そう言いかけたザビアに「かまいません」とデュロワは遮る。
「私は今回殿下の従者として参りましたからな。殿下のお休みになる前室に寝椅子でも置いて眠るとしましょう」
「大公閣下をそのような扱いは出来ませぬわ。ぜひ、お部屋の用意を」
当然ザビアはアルトルトとデュロワの部屋を別に。つまり同じ宮殿内でも、部屋を遠く離すつもりだろう。
それこそ、寝室に不寝の番なんて困るとばかり。
明日は闘技会だ。アルトルトも出るようにと“王命”が出ている。そのアルトルトの寝室の隣で物音でも立てて、一睡もさせないとか、それぐらいの姑息な嫌がらせでもするつもりだったのだろうが。
その部屋に大公殿が寝ていては、そんなことは出来ないだろう。さすがに。
「僕の部屋も叔父上の部屋も用意する必要はありません。今宵は離宮に滞在いたします」
アルトルトがそう口を開いた。これも王都へと乗り込むときに、打ち合わせしたことだ。
神殿の名を出せば、王妃もしぶしぶ大公やその回りの者達の滞在を許すだろう。しかし、広い王宮内でアルトルトと物理的に引き離されては意味がない。
ならば、滞在先はアルトルトも執事ゼバスもよく知る場所となったのだ。
これにはもう一つ、仕掛があるのだが。
「え? 離宮? 離宮、ええ、それはよろしゅうございますわね」
ザビアがとっさに開いた香木の扇で口許を隠した。その赤い唇が嫌らしく歪んだのは、隠していても魔王ゼバスティアの千里眼にはお見通しだったが。
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