2 / 21
第2話 僕は女の子になった
しおりを挟むとりあえず目印もないため、まっすぐに草原を突き進む。これで草原を抜けたいところだ。
とはいえ、現在地が……。
「あ、ナビどうなってるんだろう?」
車に搭載しているナビを見る。そこには音楽のタイトルが表示されており、車内では大好きな○坂の新曲が流れ続けている。
ナビをぽちぽちして地図を表示させた。
僕はそれを見て、ここが日本ではないことを強く認識する。いや、元から日本ではありえないような……それこそものすごいど田舎に行かないとないような場所だ。
……あれ? 日本のど田舎は山だから、見渡す限りの草原はないのかな?
なんにしろ、この草原の広さは異常だ。
地図で確認して見て初めてわかった。
「縮尺が間違えてるとか……じゃないんだよね」
5kmを1cmで表す倍率に調整してようやく、草原の終わりがあったのだ。
一番近くの市街地まで、約38km。
僕の家からコンビニよりは近いくらいかな。
「えーっと……ナダル草原? そんなの聞いたことないんだけど……ゲームの世界か何かなの?? 市街地は~……え? ピスパニア市国?」
なんだそりゃ。
寝ぼけているのだろうか。
ゲームの世界だと、こういうのあるのかなぁ。まるでバチカン市国みたいだ。国土はバチカンよりも広いようだけど。
「まぁ、国って言うくらいだし、行けば何かしらわかるよね」
そうと決まれば、行き先をそれに設定する。軽自動車とナビに関しては特に故障とかはなくて、本当によかった。
もし車がなかったら、ナビがなかったら。
僕は草原で飢え死にしていただろう。
それから10分ほど車を走らせていて、思った。
こんなにしっかりした、それこそ舗装された道みたいに走れるなら、先ほどまでの日本の法定速度50kmなんて、守らなくてもいいんじゃないだろうか? あの通学路とは違い、交通量なんて皆無なのだ。
「……うん。誰も見ていないし、いいよね」
そう思い、アクセルを踏み込む。まっすぐ東に向かって時速70kmまで速度を上げるも、まだ車は安定している。揺れも少なく、あるといえばときおり吹く横風くらいだろう。
それに気をつければ、たぶん何も問題ない。
車内で好きな曲を流して歌いながら、まっすぐに進んで、速度を上げてから5分ほど経った頃……。
僕の目の前に、なにやらおかしなものが映った。
「なに、あれ?」
どう見ても生き物だ。動いている。だけど、日本じゃあれは、土の中にいたりするミミズ。
「いやいや、大きすぎない??」
巨大すぎた。軽自動車よりも太く、新幹線よりも長そうだ。新幹線をミミズにしたような感じかな。
ただの化け物だよ、こんなの。
「え?」
目が合った。
ミミズに目はないけれど、たしかに目があった気がした。そして、凄まじい悪寒が走る。
「――っ!?」
一刻も早くこの場から去らなければならない。
そんな気がしてならなかった。
僕はハンドルを切り、ひとまずUターンする。戻ることになるけれど、仕方ない。
今はとにかく、命大事に、慎重に、だ。
巨大ミミズから2kmほど離れたところで、ようやく僕は車を止める。
地図を見ても巨大ミミズは表示されないし、あれは建物とかじゃなくて、生き物なのだ。
さすがの車のナビでも、生き物が表示される、なんてことはない。
「はぁ~、迂回して行くしかないかなぁ」
まだピスパニア市国まで40分はかかる。迂回するとなれば、ここまできた分の時間、さらに上乗せされる。
今日中にはたどり着きたいところだ。暗くなってしまってからあんなのに遭遇しないように。
でも、とりあえず、一度車から降りたい。
疲れたのだ。
コンビニでもあればいいのに……と思って地図を見ても、そんなものはなかった。
「周りになにもいない、よね」
じゅうぶん周囲を確認してから、僕はシートベルトを外す。
女性ホルモン注射によって膨らんだ胸は、Bカップほど……なはずなのに、おかしいな。
ブラジャーがさっきまでよりきつくなっている。どう考えても、大きくなったのだ。もう、豊胸手術でしか大きくなることはないと思っていたのに。
「ん~でもあってCカップ?」
今のところは、少しきついけれどこのままにしておくほうがいい。そう判断して、車の鍵を解除する。
ドアを開けて、外に出た。車を降りるとき、股間に若干の違和感があった。
……変な感じがする。
「ない? ……嘘、ない! やった!!」
感覚が違う。手で触って見ても、奴はいない。思わず服を脱ぎそうになる。
すんでのところで踏みとどまり、僕は現状を確認するため、カバンの中にあるポーチから手鏡を取り出す。
「お、おお……女の子だ……。女の子になってる! 肩幅小さくなってるし、髪の毛もさらさらに……」
手鏡に映っていたのは、セミロングで艶々な黒髪を持ち、少し膨らんだ胸。狭い肩幅。小さな鼻にぷりっとした唇。目元は以前より気持ちタレ目になったかもしれない。背丈も10cmほど縮み、およそ150cmくらい。
そんな感じの女の子がいた。
僕は思わず笑みをこぼす。
可愛くなってしまった。
以前でも並みの女性くらいだったのに、今じゃ女の子より女の子だ。
いや、僕も女の子の一員になれたのだろう。だって、手術をしていないのに、体が女の子になっている。
「もしかして、妊娠もできる?」
さすがにそれは実践して見なければわからないけれど、おそらくできる。
手術して性転換した場合は、妊娠できないというのに。
不完全な性転換ではなく、完全なる性転換。
これだ、これを待っていたのだ。
だけど、どうして? とも思う。
神様が、僕の努力を認めてくれた。
今はそうしておこう。どうせ考えても答えなんて出やしない。
どこか吹っ切れた気持ちになり、青空の下、緑広がる原っぱで、愛用の軽自動車の隣で伸びをした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる