我、水産す。

初夏終冬

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なんちゅうこっちゃ!

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 夕暮れの中、うちはトボトボと家に帰る。その足取りは重く、こっから先に待ってる未来に絶望中や。
 なんでこんな絶望してるかってーと、うちの親は超厳しくてなぁ。今日返却されたテストの結果次第で小遣いが決まってまうんや。
 で、そのテストの結果ってのが……見事にあかんかった。
 国語?13点や。
 数学?0点や。
 歴史?24点や。
 でもな、実習とか専門系のテストはほぼ満点や。
 しっかしオカンは頭固いわ。実習をとっとけばどうとでもなるってこれまでで証明されたやろうに。
 うちはこれまでもこの点数やったけど、専門系の点数はええから、普通科目のテストが悪うても再試験なんかない。ただ面倒な教科書写す作業が待っとるだけでな。
 それやのに、なんで小遣い減らされなあかんのや。
 これでわかったやろ?うちが帰りたくない理由と絶望してる理由が。
 まぁ、言うてうちは高3の最後のテストやから教科書写す作業もせんでええはずやけどな。
 進路?もちろん進学や。大学でパラダイスして、働かんでええようにええ男取っ捕まえるんが目的やな。
 就職とかほんまアホらしい。働きたくないんや、うちは。

「あ~ほんま人生もっと薔薇色がよかったわ」

 誰もが思っとるやろうけど、人生薔薇色とか、ありえへん世界じゃあるまいし。
 なーんて思いながら自宅前に到着してもうたなぁ。嫌や嫌や。気ぃ滅入るわぁ。
 それでもインターホン押して「ただいまぁ」とか言わなあかんのやで?ほんまに地獄かいなここは。

「お?」

 なんやなんや!インターホン押そう思たら地面光り出したで!?これが噂の異世界召喚っちゅーやつか!?
 なんやおもろなってきたやん。うちの人生。
 あー、どんな世界に連れて行ってもらえんのか楽しみやわぁ。
 うわっ!眩しっ!!一際強ぉ光りよったで!
 ほんで目ぇ開けたらお決まりかいな。目の前で跪く人がよぉさんおるわ。
 うちなんかに頭下げてもなんも出やんのにな。意味ないと思うで。

「お、おぉ……神よ……とうとう我らに天使を与えたもうたのですね」

 は?なんや天使って。
 ……って!よぉ見たらなんやここ神社か!?異世界にも神社かあるんかいな!
 しかもうち仏壇に立ってへん?立ってるよな。いやぁ、ホトケさんスンマセンなぁ。いやほんま、邪魔してもうたわ。
 あら?後ろ向いてもホトケさんおらんやないか。てーことはや。ここ、もしかして神社ちゃうんか?建物は木造やし、神社に酷似しとるんやけど……寺の可能性もあるんか?
 いやそれよりやることあるやないの。うち、神の使いの天使なわけないやろ。

「ほんまスマン!うち天使とちゃうんやわ!」

 いい切ったったわ!はー、なんかスカッとしたな。
 あ、そういやこの人らの顔見てへんな。異世界人の顔気になるし見てみるか。
 ……!?なんやこの美形!凄いやん!こんなん実際におるんか!?
 緑の逆立った短髪につり目でキツイ印象与えとる若いやつ!カッコええなぁ。にしても、そいつ以外全員じじばばやんけ。どないなっとんねん。

「天使ではない?」

 カッコええ奴が表情変えよった!これはこれでええな!これにも別のかっこよさがある!

「あんたのこと気に入ったわ!うちと結婚してーな!」

 指さしながら1番奥に座っとるそいつに向けて言うたら、痛いほどシーンってなってもうたわ。もうどないなっとんねん。
 うちの人生初めての告白、それもプロポーズやで?あんた、受け取ってくれるやんな?

「申し訳ない。俺には婚約者がいる」

 がびーん!
 婚約者やてぇ!?誰や出てこんかい!うちが叩きのめしたる!!絶対、うちがあんたを貰うんやから、覚悟しときや!
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