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プロローグ*side颯人
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朝、目を覚ましたら隣にいるはずの温もりがなくなっているような気がして、颯人はベッドから飛び起きた。
慌てて隣を見ると案の定、誰もいなかった。
恋人がいたはずの場所に触れると冷たくて、だいぶ前からいなくなっていたらしい。
周りを見ても、耳をすませても、人の気配はない。
颯人は悟った。この家から、出ていったのだと。
……自分から、離れてしまったのだ、と。
(ちょっと前まで一緒だったのにな……)
一人の気配しかないこの部屋は、一人になることが久しぶりな俺にはとても寂しいものに思えた。
あいつに初めてあった時は、自分が一人の人間にこんなにも強く執着するなんて思わなかった。
今までどんな人間にも執着なんてしなかった俺だから。
だけど、いつの間にかあいつの存在は俺の唯一、もっと言えば俺の存在意義ともいえるほどに大切になっていたんだ。
今はもう、いなくなってしまったあいつとの思い出に浸っていて、気がついたら自分の頬に雫がこぼれ落ちていた。
「っ、は、何で……」
(気づけなかった)
あいつが何か悩んでいたことは、わかっていたのに。
それでもいつか話してくれる、なんて、ただの自惚れだ。
でも、こんなことになるなら、あいつが出ていってしまうくらいなら、強引にでも悩んでいた理由を聞いておけばよかった。
あいつと、離れる羽目になるなんて、思わなかったから。
あいつはもうここには戻ってこないつもりだと思う。
二度と、俺に会わないつもりでいるんだ。
ぐしゃ、と前髪を掴んで自嘲した。
結局、俺はあいつのことを何もわかってやれなかったんだ。
顔を俯けると、無駄に長い髪がさらりと肩から落ちる。
この髪だってあいつに会った頃は短かった。
あいつが俺の髪を好きだって言うから、伸ばした。
髪だけじゃなくて、今いるこの部屋だって、置いてある家具だって。
全部全部、あいつの好みで。
なのに、あいつはもう、いない。
なら、この部屋にあるものはもうぜんぶいらない。
……そう、思ったのに。
あいつと過ごした思い出が多すぎて、楽しかったことしかなくて、捨てられるものなんてなかった。
あいつと過ごした一年は、俺が生きてきた年月の中で一番濃い一年だったから。
あいつほど、執着する人間なんていなかった。
今まで、いや、多分これからもずっと。
だから忘れられるわけなんて、ないんだ。
颯人はひとつ、違えることのない決意を決めた。
その時、自分の手元にひとつの小さな紙切れを見つけた。
これは、自分への言葉。
恋人らしい短い言葉。
いつでも、短い言葉には、颯人への想いが溢れてる。
一見すれば、ただの謝罪の言葉。
でも、そんなに軽いものではない。
恋人の少し右上がりの文字は、何かを耐えるように震えているように見えた。
それに、紙の所々が濡れてかわいたあとのようにカサカサになっていた。
それだけで、この家を出て行ったのが自分自身の意思ではないことが颯人には伝わった。
その短い手紙を見た颯人は決意を確固たるものにするため、俯いていた顔を上げた。
その顔にはもう、悲しみや後悔の色はなかった。
ただ、自分のすべきことを決めた者の顔でしかなかった。
「お前が、もう会わないって辛そうに言うなら俺はお前を探す。探し出して、理由を聞かなきゃ気が済まない。その結果、二度と会えなくなるかもしれないが……絶対、そんなことにはさせないから」
俺はお前をいつまでもずっと、探し続けるよ。
……いくと。
颯人side*END*
慌てて隣を見ると案の定、誰もいなかった。
恋人がいたはずの場所に触れると冷たくて、だいぶ前からいなくなっていたらしい。
周りを見ても、耳をすませても、人の気配はない。
颯人は悟った。この家から、出ていったのだと。
……自分から、離れてしまったのだ、と。
(ちょっと前まで一緒だったのにな……)
一人の気配しかないこの部屋は、一人になることが久しぶりな俺にはとても寂しいものに思えた。
あいつに初めてあった時は、自分が一人の人間にこんなにも強く執着するなんて思わなかった。
今までどんな人間にも執着なんてしなかった俺だから。
だけど、いつの間にかあいつの存在は俺の唯一、もっと言えば俺の存在意義ともいえるほどに大切になっていたんだ。
今はもう、いなくなってしまったあいつとの思い出に浸っていて、気がついたら自分の頬に雫がこぼれ落ちていた。
「っ、は、何で……」
(気づけなかった)
あいつが何か悩んでいたことは、わかっていたのに。
それでもいつか話してくれる、なんて、ただの自惚れだ。
でも、こんなことになるなら、あいつが出ていってしまうくらいなら、強引にでも悩んでいた理由を聞いておけばよかった。
あいつと、離れる羽目になるなんて、思わなかったから。
あいつはもうここには戻ってこないつもりだと思う。
二度と、俺に会わないつもりでいるんだ。
ぐしゃ、と前髪を掴んで自嘲した。
結局、俺はあいつのことを何もわかってやれなかったんだ。
顔を俯けると、無駄に長い髪がさらりと肩から落ちる。
この髪だってあいつに会った頃は短かった。
あいつが俺の髪を好きだって言うから、伸ばした。
髪だけじゃなくて、今いるこの部屋だって、置いてある家具だって。
全部全部、あいつの好みで。
なのに、あいつはもう、いない。
なら、この部屋にあるものはもうぜんぶいらない。
……そう、思ったのに。
あいつと過ごした思い出が多すぎて、楽しかったことしかなくて、捨てられるものなんてなかった。
あいつと過ごした一年は、俺が生きてきた年月の中で一番濃い一年だったから。
あいつほど、執着する人間なんていなかった。
今まで、いや、多分これからもずっと。
だから忘れられるわけなんて、ないんだ。
颯人はひとつ、違えることのない決意を決めた。
その時、自分の手元にひとつの小さな紙切れを見つけた。
これは、自分への言葉。
恋人らしい短い言葉。
いつでも、短い言葉には、颯人への想いが溢れてる。
一見すれば、ただの謝罪の言葉。
でも、そんなに軽いものではない。
恋人の少し右上がりの文字は、何かを耐えるように震えているように見えた。
それに、紙の所々が濡れてかわいたあとのようにカサカサになっていた。
それだけで、この家を出て行ったのが自分自身の意思ではないことが颯人には伝わった。
その短い手紙を見た颯人は決意を確固たるものにするため、俯いていた顔を上げた。
その顔にはもう、悲しみや後悔の色はなかった。
ただ、自分のすべきことを決めた者の顔でしかなかった。
「お前が、もう会わないって辛そうに言うなら俺はお前を探す。探し出して、理由を聞かなきゃ気が済まない。その結果、二度と会えなくなるかもしれないが……絶対、そんなことにはさせないから」
俺はお前をいつまでもずっと、探し続けるよ。
……いくと。
颯人side*END*
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