猫被り令嬢と夢みがちな若き伯爵の幸せな結婚

夏八木アオ

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第八話

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 言葉を発することを許されないまま、ミシュリーは屋敷に到着した。口付けをしすぎて少しヒリヒリする唇をおさえる。ロイドは馬車から降りるとミシュリーを横抱きにして、そのまま彼女を夫婦の寝室に連れ込んだ。

「待っ……」

 鈍い音を立てて、ミシュリーはベッドに仰向けになる。
 いつものように夫が上から覆い被さってくると、ミシュリーは手をつっかえ棒のようにして抵抗した。

「ちょ、ちょっと……何するつもりですか」
「言葉以外でも愛し合いたいと思って」

 ミシュリーは思い切り顔を歪めた。

 ロイドはミシュリーの反応を気にした様子はなく、ジャケットとタイ、ベストを脱いで白いシャツ姿になる。
 ミシュリーの戸惑った顔を愛おしむように、彼女の唇を撫でた。

「ベッドの上でも演技していたの?」
「えっ」

 ミシュリーの声は裏返っていた。口を開いては閉じて、やっとのことで「多少は」と絞り出す。

「なるほど」

 ロイドはぽつりと呟くと、ミシュリーの耳を唇でぱくりと挟んでから、舌を出してそこを舐めた。

「あっ……」

 ミシュリーの身体は、馬車の口付けで官能的な気持ちを呼び起こされていて、すぐに甘い反応を返す。

「どんな演技?」
「んんっ」

 ロイドがドレスの上から胸を弄ると、彼の体温を感じて心音が速くなった。ロイドは耳や首元を舐めながらミシュリーのドレスの紐を解いていく。
 素早くドレスが脱がされて、シュミーズとコルセットの姿になると、ひんやりとした風がミシュリーの肌を撫でた。
 彼の手は、ミシュリーの胸の中心部で止まった。

「心臓の音が速くなってる。これは意図して変えられないよね?」
「あっ」

 彼の手が胸を揉みしだき、コルセットからはみ出た先端をつまむ。指がくにくにと片側をいじり、同時に彼は少し身体を起こして首元から口を離すと、立ち上がってきた場所を舌で弾いた。

「あんっ!」
「ここが硬くなるのも演技じゃないだろう? 訓練したらできるのかな」

 舌先が何度も乳首を擦る。ミシュリーはその度に甘い声をあげた。

「あっ、あぁ……やっ……できないですっ、できない……! ひゃんっ」

 先端を甘く噛まれて、ミシュリーは痺れるような刺激で震えた。強い快感で足の間が暖かく濡れてくることを感じる。

「じゃあどんな嘘をついたの?」

 ロイドは舌でミシュリーの胸をいじりながら、彼女にまた質問をした。ロイドの手が胸からだんだんお腹のほうに下がっていき、シュミーズを捲り上げて白い足をゆっくり撫でる。その場所が鼠蹊部に近づくと、ミシュリーの心音はさらに速くなった。

 彼の指が、ドロワーズの中に入ってくる。
 指先があわいを軽くとんとんと撫でるが、表面的な刺激はミシュリーの欲しいものではない。
 いつも身体から溢れた愛液をすくいとって、頭が真っ白になるほどの快感を与えてくれる指先は、ミシュリーを焦らすように気持ちいい場所の周りをいたずらに撫でる。

「ん、嘘はついてな……あっ」

 彼の歯が、ミシュリーの胸の先端に軽く触れた。歯の硬さと、濡れた舌のぬるぬるした感触が、交互にミシュリーの身体を刺激する。

「あっ、あぁ……ロイド様……やっ」

 ミシュリーの口から切ない声が漏れた。もっと決定的な刺激を求めて、ねだるように身体をくねらせる。
 乳首を吸われると、限界を迎えてのけぞった。

「ああんっ!」

 びくんと跳ねた身体が、シーツに沈む。彼の指はまだミシュリーの秘部には触れず、うずく場所を満たしてくれない。

「ミシュリー、可愛い」

 ロイドはうっとりと呟いて、ミシュリーの頬にキスした。
 ミシュリーは罪悪感と彼の与える快感の間で訳がわからない気持ちになっているのに、ロイドはこの状況を楽しんでいるようにすら見える。

「……る」
「ん?」

 ミシュリーはロイドのことを睨んだ。
 首を傾げた彼のことをうらめしげに見つめる。浅い呼吸を整え、やっとまともに言葉を発することができた。

「意地悪だわ」

 ミシュリーのつぶやきに対して、ロイドは言われた意味がわからないという顔をしていた。
 ふっと笑って彼女にキスする。

「意地悪? 僕が?」

 ロイドがキスを繰り返すので、ミシュリーは喋ることができない。
 
「んっ、んむ……ぁ……」
「ミシュリー、怒った顔も可愛い。初めて睨まれたのがこんな状況じゃ、これから君に睨まれるたびに今日のことを思い出してしまうよ」
「なっ……あッ!」

 彼の長い指が、蕩けたミシュリーの秘部の中に触れ、ゆっくり沈む。何度も彼に愛された身体は抵抗なくロイドの指を受け入れた。お腹側をこすりながら指が抜けていき、もう一度中に入ってくる。身体の奥からじわじわと強い快感が押し寄せて、ミシュリーの口からか細い嬌声が漏れた。

「君はこんなに感じやすくて、喋る余裕もないように見えるけど、どんな演技をしていたのか気になるな。どちらかといえばいつもノリ気じゃなさそうな……」

 ロイドはそこで一度口をつぐんだ。
 身体を起こしてミシュリーの反応を見ながら、先ほどと同じように指を動かし、じれったい抽送を繰り返す。ミシュリーの身体が小さく震えるのを見逃さないように、熱い視線が彼女に注がれている。

「気持ちいいのを我慢するほうの”演技”か。いつも声も出さないように抑えていたの?」

 ミシュリーは彼の言葉を肯定も否定もせずに、うらめしげにロイドを見つめた。彼に抱かれるのが気持ちよくて、積極的に応えそうになるのを一生懸命堪えていたなんて、絶対に言いたくない。

「遠慮して優しく触れていたけれど、物足りなかった?」

 ロイドの顔つきは楽しそうで、ミシュリーの答えをすでに知っているかのようだ。
 ミシュリーは悪態を絞り出した。

「ばか」

 ロイドが息を呑む。

「その“ばか”は嬉しいだけかな……ミシュリー、今まで遠慮してたことしてもいい?」
「え?」

 ロイドはミシュリーの返事を聞く前に、指を中に入れたまま、彼女の足の間に顔を埋めた。彼女がぎょっとして固まっている間に、生暖かいものが彼女の一番敏感な場所を舐めた。

「きゃっ!」
「ん……」
「やっ、やだ……!」

 拒絶の言葉を無視して、彼の唾液に濡れた舌が、何度もそこを往復する。指がぐっと膣壁を押して、中からも彼女を刺激した。

「あっあっあっ……あんっ、やぁ……」

 言葉にならない嬌声がミシュリーの口から漏れる。羞恥と強すぎる快感から逃げるために頭を横に振るが、ロイドの動きは遠慮なく続いた。彼女が腰を引こうとすると、それを咎めるように、唇が彼女の花芯を吸った。

「――ッ!」

 ミシュリーの目の前で星が瞬く。
 ロイドが指を引き抜くと、ミシュリーの身体はそれを惜しむようにきゅんと収縮した。
 彼は指についたべとつきを舌で舐め取って、ミシュリーがその光景を信じられないという気持ちでじっと見ていることに気づくと、恥ずかしそうに笑った。

「本当は前からしたかったんだけど、君が恥ずかしがるかなと思って……他にも試したいことがあるんだ」

 ロイドがミシュリーに覆い被さる。汗でしっとりした肌が密着し、彼の熱杭が硬く膨張していることが見るまでもなく伝わってくる。ミシュリーは思わず身体を震わせた。

 ロイドはもうミシュリーを焦らすことなく、濡れたところに自身をあてがうと、彼女の手を上から押さえつけた。ミシュリーが逃げられないようにしてから、彼女の最奥を貫いて、そのままゆっくりと腰を軽く揺らす。

「あっ……んぅ!」

 ロイドのものをぐりぐりと押し付けられ、奥に感じる圧迫感がじわじわとした快感に変わっていく。先ほど絶頂したばかりの身体は驚くほど敏感で、ミシュリーはまた自分の身体が昂っていくのを感じた。

「はっ、あっ、ロイド様……もうっ……!」

 彼の手に両手を抑えられて、快楽から逃げることができない。
 大きな波が引いて、押し寄せる前のような、少し怖いとすら思う感覚がある。つながったまま彼が腰を押し付けると、溢れた愛液がかき混ぜられ卑猥な音がする。

「そこ、だめっ、だめなの、怖い……っ」
「気持ちいい? 大丈夫だよ。ミシュリー、舌出して」

 ミシュリーはそれどころではない。
 ロイドが彼女の口を塞いで、奥に引っ込んだままの舌を搦め捕った。舌が絡む音が部屋に響くと、それをかき消すように彼の腰の動きが速くなり、つながったところが水音を立てる。
 呼吸が浅くなって、頭がくらくらしてくる。彼に与えられる刺激以外、ほかのことを何も考えられない。

「ミシュリー、ミシュリー……可愛い。愛してるよ」

 何度も彼に言われた言葉が、ミシュリーの耳に入ってくる。 
 激しくなった呼吸の合間に囁かれる愛の言葉に、いつもミシュリーは「私もです」と返していた。
 今日は言葉が出てこなくて、代わりに彼の背中を強く抱きしめた。
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