「俺、殿下は女だと思うんだ」

夏八木アオ

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5. 謝罪と告白 - ①

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同じベッドに寝るのも辛くてしょうがないのだが、エリーゼが朝や日中にスキンシップを取ってくるのもきつい。

指を絡ませたり、頬や手にキスをしたり、腕に触れたりする。朝起きた時、ちょっとした会話中や寝る前など、顔を合わせると俺に微笑みかけて、軽く触れる。

嬉しいけどきつい。ちょっとでも触ると続きがしたくなる。横に座って太ももに手を添えてきた時は流石にキレそうになった。

こっちはエリーゼのために我慢してるのに、俺を試すようなことばかりするなと思った。でもその怒りは理不尽だなと気付いて気持ちを鎮めた。

エリーゼは多分俺が触りたいと言ったら触らせてくれるはずだ。それを、気持ちがないと嫌だから触らないと決めたのは俺の方だ。

「もう!早く好きになってくれよ!」

どうやって好きになってもらえばいいか分からないし、それを確かめる術も無い。俺にはエリーゼが義務感で俺に触れているのか、俺のことが好きで触れてくれるのか全然分からない。

「よし、本人に聞こう」

分からないなら聞くしかない。
一回フラれても、結婚してるから何回でも方法を変えてアプローチできる。フラれて終わりの関係じゃなくてよかった。

次の休日に、一緒に出かけることにした。当日俺はエリーゼの支度を待ち、ソファでそわそわ落ち着かない気持ちでいた。

「チャールズ、お待たせ」

ドアノックの音からほとんど時間をおかずに扉が開き、エリーゼが中に入ってくる。

以前よりまた少し伸びた髪を一つにくくって、明るい色のスラックスと、深いグリーンのジャケットを着ている。
俺が贈った服だ。

「かっこいいな!似合うよ」

今日は二人で遠乗りをしようと思って、乗馬ができる服を贈った。

結婚してから、エリーゼはずっとスカートかドレス姿でいる。そろそろ周りの人にエリーゼとルイは別人という印象も強くついてきたから、エリーゼが男みたいな服装をしていても問題なさそうだと思った。
男装していた時は遠乗りが好きだったのに、俺と結婚してからは一度も馬に乗っていないはずだ。

「こんな男みたいな格好して大丈夫かな」
「うん。もう男には見えないよ」

胸も潰してないし、ジャケットの肩も柔らかく丸みを帯びたものだ。後ろから見ても男には見えない。

「心配だったら、魔法で目眩しもして行けばいいだろ?久しぶりに一緒に遠乗りしよう。好きだろ。ルイ……じゃない、エリーゼと出かけるの楽しいから、俺もまた一緒に行きたいと思って」
「うん、好きだよ。ありがとう」

意図せず『好き』という言葉を引き出してしまい、心臓が高鳴った。緊張と、期待と、よく分からない感情が混ざっている。

俺はエリーゼに好かれたいと思って、色々とやろうとした。
まずは名前を頻繁に呼んで、笑いかける。いつも以上にたくさん名前を呼んだ。相手の話によく耳を傾け、うなずき、肯定して、困っていたら手を差し伸べる。

ただ、好かれようと思ってやらなくても、その程度なら元々たくさん名前も呼ぶし、一緒にいると自然と笑ってしまう。話をするのも楽しくて、気付くと俺がたくさんしゃべっている。
困っていそうだったらすぐ助けようと思ったけど、エリーゼは基本自分でさっさと解決してしまう。どちらかというと助けてもらうのは俺の方だ。

他にできることと言えば、贈り物をすること。ルイによるアドバイスでは、あまり仲良くない相手から物をもらっても困るから、最初は消耗品、身に付けるものは好みがあるから恋人になっても注意すること、と、恋人がいない状態でも忠告を受けていた。

俺とエリーゼはすでに仲は良いから、贈り物をするのは構わないだろうということにした。
菓子や花、文具や小型の魔導具からスタートして、今日の服をプレゼントするまで少し展開が早すぎたかもしれない。でも他にできることも思いつかなかった。

エリーゼはいつも制服か、参加する茶会や夜会で一番近付きたい夫人に合わせてドレスを選ぶ。だからエリーゼ自身の女性用の服の好みは全く分からなかった。
エリーゼの養夫婦である伯爵夫人に手紙を書いて意見を聞いてみたり、身支度を手伝っているメイドに話を聞いてみたりして、そしてやっぱりよく分からなくて結局エリーゼ本人に聞いた。

理想を言えばサプライズにしたかった。ただ、以前ルイには「サプライズをしたいという自己満足のために反応しづらい物を押しつけない方がいい。サプライズしたいのか、喜んで欲しいのかどっち?」と言われたことがあった。
俺は喜んで欲しかったので、本人に好みを聞くという手段を取った。
気に入ってくれているように見える。

「あと、もう一つ渡したいものがあって」
「何?」

サプライズはサプライズをした時点で用済み。贈ったものにはさほど価値がない。ルイにはそれも言われたが、どうしてもサプライズもしたかった。

俺が唯一、エリーゼの好みについて自信を持ってこれだと言えるものがあって、それはエリーゼに何も言わずに準備した。

俺は一旦別室に行った。荷物を取って戻ってくると、エリーゼの目が丸くなる。俺が武器を持っているから驚いたのだろう。

「武具なら好みが分かるから、こっちはサプライズにした。びっくりしたか?」

軽くて細身。工房もルイの好きなところにしたし、意匠もほとんど任せた。俺のセンスが入ってないからエリーゼも気に入るはずだ。

唯一俺が指定したのは、柄の装飾に目立たないように俺の瞳の色を入れてもらうこと。そこは趣味と違うかもしれないけど、それくらいは許して欲しい。

「ちゃんと使用許可も申請して降りてるから、街中を佩刀して歩いて大丈夫だよ」

エリーゼは目を見開いた。

俺はこれをどこかに大切に飾って欲しくて用意したわけじゃない。エリーゼは剣より魔法の方が得意だけど、ちゃんと訓練を受けている。
長年一緒に努力してきた物をなかったことのように扱っているのが寂しくて、また剣を握って欲しいと思ったのは俺のエゴでもある。

「……ありがとう」

エリーゼはあまり嬉しそうではなくて、下を向いている。

でもこの顔は、本当は最上級に嬉しい時のはずだ。嬉しいけど感動してなんて言っていいか分からない時の顔のはず。
殿下から勲章を贈られた時に同じ顔をしていた。

「エリーゼ……?喜んでるよな?」

一応喜んでもらえている自信はあったけれど、あまりにも固まっているのでちょっと不安になってきた。
エリーゼははっと顔をあげた。

「うん。すごく嬉しい。嬉しくてどう反応していいか分からなかったんだ。本当にありがとう」
「よかった」

エリーゼは俺の手に触れようとして、少し躊躇った様子だった。俺から手を取ると、軽く目を見開いてから握り返してくれた。

「ありがとう、チャールズ」
「うん。また手合わせもしよう」
「そうだな。お手柔らかに頼むよ」

エリーゼはふっと笑った。ようやく笑顔を見ることができて安心した。
幸先は良さそうだ。

(できることはやったよな)

やることをやり切ったら、あとは本人に気持ちを聞いてみるだけ。
気合が入って手を強く握りすぎてしまい、エリーゼが眉を顰めたので慌てて手を離した。
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