【R18】花喰らいの乙女は吸血お兄様の執愛に溺れる

べらる

文字の大きさ
21 / 27
本編

8-3 暗雲*

しおりを挟む
「だから……その……」

 前に言ったはずだ。服を脱ぐのは恥ずかしいから、脱ぎたくないと。
 なのに、また……。

「あ、そうだ。よかったらお兄様も一緒に、お茶しませんか」

 できるだけ滑らかに、話の話題を変えて。
 にこりと微笑んだアザリアに、お兄様は何も言わなかった。これ幸いとアザリアは歩き始めたが、厨房に入って紅茶の用意を始めた瞬間に、また距離を詰められる。今度は壁際に追い込まれてしまい、退路を失った。

「最近、おまえの食事量が減っていたのが気がかりだった」
「食事量、ですか……」
「一日五回は食べていただろう。朝昼晩の三回と間食を二回。デザートだって忘れずに食べていたな」
「成長期だったので……」
「最近は一日に二回、あるいは一回しか食べていない。人間は成長期を過ぎれば食事量を落とさないと肥満になると言っていたな。だからそのとき私は納得していた。人間はそういうものなのだろうと」
「もちろん……」
「比例するように、紅茶の飲む量が増えていった。一日五杯だったものが六杯、七杯と増え、今では十杯以上。紅茶に必ず食用の花を入れ、摂取もしていたな」
「………」
「それに近頃、体調を崩しがちだ。今日は教会で倒れ、休んでいた。でもおまえは、私に隠そうとしている。今こうやって目の前にしても、何も言ってこない」
「…………」
「肩に何か秘密を隠している、そうだろう?」

 静かな部屋に、怒りに満ちた静かな声が響いている。
 アザリアは一度目を閉じると、再び目を開き、お兄様の顔を見上げた。
 
「言えば、お兄様は私を“食べて”くれますか……?」

 そう言えば、お兄様は放心したような顔になった。
 その顔がとてもおかしくて、アザリアはつい、笑ってしまう。可愛いらしいと思ってしまった。愛おしくてたまらくなって、お兄様の顔に手を添える。

「《花喰らい》って呼ばれる病なんですよ、これ」

 首元をゆるめ、ほら……、と、お兄様の手をとって、己の肩に触れさせる。自分から触れさせる、なんていつもなら恥ずかしくてできないだろう。言い逃れできないと思い、吹っ切れてしまった。

「花を食べる病なんです」
「花を……」
「花を食べて、食べて、食べて……お腹が膨らんでも食べ続けて、やがて自分も花になる。それが《花喰らい》です」

 ずっと、見せるのがイヤだった。
 《花喰らい》は美しい花を食い荒らす害虫のような存在で、食べた分だけ花びらが痣となって増えていく。気持ち悪い痣。

 もし痣がなくて、肩を露出した服装をできていたのなら、お兄様が食べてくれたのではないか、と思ったこともある。いつもきっちりとした服を着ていたから、お兄様の興味が削がれてしまったのではないか。獲物ごはんとしての魅力が足りていなかったのではないか、と。

 もんもんと日々を過ごして、少しでもお兄様から美味しそうに見えるように、見た目に気を遣った。もう食べたくなかったごはんを精一杯たべ、よく眠りよく働いた。程よい肉感をつけ、健康的な身体を手に入れた。それもこれも全部、お兄様に食べてもらうため。

「初めてお兄様に会った時から、自分は死ぬんだからお兄様に食べられたいと思ってました。気付きませんでしたか?」

 あぁほら、この表情。
 全く気付いていなかったと言わんばかりに、目を見開いてくれる。

 あんなに無表情だった美しい吸血鬼が、ちっぽけな小娘を”妹”と見立てて暮らし始めて、こんなに感情が豊かになった。前よりも流暢に喋るようになった。

(昔の私は、……いつかお腹を空かせたお兄様に食べられる……食べてもらえるって信じてたのに……)

 だから《花喰らい》の病に罹患していることを言わなかった。
 言う必要もないと思っていた。
 どうせ食べられるのだったら、言う必要がない。

 お兄様は吸血鬼で、自分はただの獲物ごはんで。

 美しい彼に食べられて、彼の血肉となれたらいいと思っていた。
 そしてアザリアは、今でも彼に食べられたいと思っている。
 だが彼と古城で暮らすうちに、別の感情も生まれていた。

 ただその感情は伝えず、胸の奥にある自分だけの宝箱にしまって、大事に大事にしてきた。

「ほら、ちゃんと伝えましたよ。これで約束は果たしました」
「…………」
「私のこと、食べてくれますよね。……あぁでも、食べるのはニコラスさんが帰った後にしてほしいです。ニコラスさんにとって私って好きな人だそうですから、好きな人が目の前で兄に食べられるのは、ちょっとトラウマになりそうじゃないですか。それは可哀想です」

 食べるのならニコラスを家に帰してから。
 そう言って、アザリアは壁伝いにお兄様から離れようとしたが、できなかった。
 
「言いたいことはソレだけか?」

 苛烈な怒気を押し殺した声──
 顔をあげれば、さきほどよりも激しい感情を宿した真紅の瞳と目が合う。とっさに目を背けようとしたが、顎を掴まれて物理的に阻止される。鼻と鼻がぶつかりそうな距離まで、美しい顔が迫った。

「あの夜、私はおまえを殺さず生かした。おまえは私の妹になった。未来永劫私のモノになったはずだ」

 ひゅ……っ、と喉から息がもれる。
 圧倒的な気迫を前に、何も言えなくなる。
 もっと妖艶に誘えば食べてくれるかもしれない。もっと大胆に肌を露出して、艶めかしい声を出せば、吸血鬼の本能を刺激できるかもしれない、と、考えていたのに。

 アザリアは何も出来ず、目の前にいる美しい吸血鬼から目を離せないでいた。
 
「花になるだの私に食べられたいだの、ふざけるのも大概にしろ」
「あの、だから……」
「勝手に死ぬことは許さない」
「《花喰らい》には、治療法がなくて……」
「アザリア」
「お兄様に食べられたら、きっととても幸せで……」
「私から逃げるな」

 反射的に距離をとろうとしていたアザリアの体を、お兄様が追い詰める。長いスカートをめくりあげ、お兄様の指がアザリアの太ももの内側に滑り込み、すでに蜜に溢れた部分を直に触れた。ひくひくと刺激を欲しがる秘芽を親指で潰すと、アザリアの背中がわずかに反る。

「あ……っ、ぁあ……っ」
「どうして生きたいと言わない?」
「それは……っ、あぁ……やっ、……ぁっ」
「どうして一緒にいたいと言わない?」

 秘芽を親指と人差し指でぎゅっと摘ままれ、アザリアの体から力が抜ける。お兄様はアザリアの反応を見るために手の動きを止めたが、アザリアはふるふると首を横に振っていた。

「今は、待って……ください。ニコラスさんが、います……」
「今は私とおまえの話をしている。あの男の事などどうでもいい」
「い、や……ッニコラス、さんが、います、から……──ぁあッ」

 一気に二本の指を膣内ナカに挿しこまれて、アザリアは苦悶に喘いだ。ぐっ、ぐっ、と奥に捻じ込まれる度に視界の端で白い星が飛ぶ。痛みの強さは包まれる官能の炎で緩和され、しだいに抜け出せなくなっていく。

「や、ぁッ、──お、兄様、抜いて……っ!」

 お兄様の服を掴むアザリアの手に力がこもる。小刻みに震える膣内ナカに刺激を送り続けながら、お兄様が低く唸った。嫉妬のような黒い渦が、声に宿っている。

「腹立たしい…………」
「あ……っ、ぅん……ぁっっ、ぁ、あぁ……っ」
「我慢するな、アザリア」
「ん、んんぅ……っ!!」

 逃げる意思すら許さないといった風に、がっしりと頭を押さえこまれて、口付けを深くされる。と同時に、蜜壺の奥で蠢いていた指がお腹側に折り曲げられ、叩かれて、一気に快楽の頂点まで持っていかれた。
 
「っはぁ……、ぁあ……っ」

 達してしまった倦怠感と、酸欠気味になったせいで、頭がうまく回らない。
 ぐったりとするアザリアを、お兄様が軽々と持ち上げた。

「お、兄様……っ?」

 上じゃない。
 お兄様は階段を下っている。
 ここは一階だ。一階なのに、階段を下っている……?

 古城に地下があるなんて、そんなの知らない。

「え…………っ?」
 
 やがて辿り着いたのは、窓のない、格子状の檻が張り巡らされている場所だった。牢屋にも思われる場所だが、中央に置かれた寝台はとても大きく、全体的に豪奢な作りとなっていた。貴賓用の軟禁部屋、という表現がしっくりくる。

 燭台に火を点け、部屋はお兄様の魔法で一瞬で綺麗になったが、薄気味悪さは変わらない。躊躇なく檻の中に入っていくお兄様は、寝台の上にアザリアを下ろした。アザリアは呆然とお兄様を見上げる。

「しばらくここにいなさい」

 がちゃり、と、鍵のかかる音がして──
 お兄様はそのまま檻の外に行ってしまった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

専属秘書は極上CEOに囚われる

有允ひろみ
恋愛
手痛い失恋をきっかけに勤めていた会社を辞めた佳乃。彼女は、すべてをリセットするために訪れた南国の島で、名も知らぬ相手と熱く濃密な一夜を経験する。しかし、どれほど強く惹かれ合っていても、行きずりの恋に未来などない――。佳乃は翌朝、黙って彼の前から姿を消した。それから五年、新たな会社で社長秘書として働く佳乃の前に、代表取締役CEOとしてあの夜の彼・敦彦が現れて!? 「今度こそ、絶対に逃さない」戸惑い距離を取ろうとする佳乃を色気たっぷりに追い詰め、彼は忘れたはずの恋心を強引に暴き出し……。執着系イケメンと生真面目OLの、過去からはじまる怒涛の溺愛ラブストーリー!

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...