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IFストーリー
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しおりを挟む──結局、その日のうちに家に帰ることは出来なかった。
それどころか、自由にベッドから離れられなかった。ランブルト様に喉が渇いたと言えば水を口移しされ、お腹が空いたと言えば丸くて赤い果実を食べさせられた。体がベタベタだからシャワーを浴びたいといえば、お姫様抱っこで浴室に運ばれ、敏感な部分を大量の泡で優しく洗われ、何度か達した。
ベッドに戻ってもランブルト様がわたしの傍から離れることはなかった。お互いの境目が分からなくなるくらい肌を重ね続けた。
濃厚な魔力の匂いに体が疼き、誘われるままに唇を重ね、舌を絡め合い、下半身でも淫らな律動を感じて、……ただひたすらに甘くて、甘ったるくて、気が狂いそうなほどに気持ちよくて、頭が痺れて、溶けてしまいそうだった。
常に耳もとで何かしら囁かれていた。
『貴女を気持ちよくさせているのは誰でしょう?』
まるで、存在を刻み付けるように。
わたしが彼を常に意識するように。
『膣内に……、ね。感じるでしょう?』
『今晩はずっとこうしていようね』
『貴女の体は本当に綺麗だ。……綺麗で、美しくて、可愛くてやらしい』
『もっと見せて』
ランブルト様は、あらゆる手段でわたしを縛り付けるようになった。
一つは、彼自身の体で。
一つは、巧みな話術で。
一つは、玩具で。
そうやって過ごしている内に、夜が明け……朝が来た。
部屋がほんわりと明るくなっている。遮光カーテンの隙間から、薄い光が差し込んでいた。……夢を見た気がする。
わたしが……あるお祭りに参加している夢だ。
小さい時から、わたしはお祭りが好きだった。
特に毎年参加するのを楽しみにしていたのは、<仮面舞踏祭>と呼ばれる一大イベント。
平民や貴族を問わずみんなドレスコードを着用し、夜の街を練り歩く。劇団や音楽隊を呼び、仮面をつけて夜通し踊り明かすことで、幽霊などといった悪い存在を街から追い出そうっていう……とても伝統あるお祭り。
たくさんの露店が軒を連ねて、美味しい食べ物がたくさん並んで、楽団の人たちが音楽を奏でてくれて、みんなは楽しそうにダンスを踊っている……そんなフェスティバルだ。
まだ虚弱じゃなかった子どもの頃は、姉や仲のいい友だちを連れて、<仮面舞踏祭>に参加していた。
アゼル様も一緒にと誘ったこともあるのだけれど、「気が向いたらね」とだけ言われて、結局一度も参加したことがない。……でもそれは、仕方ない。だって義兄は人が多い場所と騒がしい場所が嫌いだから。ちょっぴり寂しかったけれど、わたしもそこまで子どもじゃないから、我慢した。
実は、ランブルト様とは二度も<仮面舞踏祭>に参加したことがある。一度目は初夏、二度目は冬──それもつい一か月前の話だ。
初夏はランブルト様と数年ぶりの再会をした時期でもあるのだけれど、倒れてしまって、お祭りを楽しむことが出来なかった。
二度目の冬は、ランブルト様がわたしのために薬を作ってくれたこともあって、その薬を飲んで、露店を見て回ることが出来た。ドレスコードを着て、街の広場でランブルト様とダンスを踊った。
そこまでは、記憶通りの夢だった。
ここで終われば、あぁ楽しい記憶を思い出したなって思って、終わることが出来たのだけれど。
でも夢は、そこで終わらなかった。
その場にアゼル様がやってきて、わたしの手を取ってくれて、手の甲にキスしてくれて、続けざまにアゼル様ともダンスを踊った。
不思議な感覚だった。
騒がしい場所が嫌いで、特に<仮面舞踏祭>を毛嫌いしているように見えた義兄に、ダンスをリードされる。腰に手を添えられる感覚は妙にリアルで、夢の中なのにドキッとした。
…………たぶんこんな夢を見たのは、アゼル様になにも言わず、無断で家を空けてしまった申し訳なさからきているんだと思う。
「ぁ……っ、あぁ、ぁっ」
下半身から絶えず送られる刺激に、わたしの喉が反りあがる。
わたしの膣内でヴゥッと小刻みに震えているのは、性的なオモチャ。名前は確か、ラティアの杭というらしい。「女性を傷つけないように細やかな部分まで配慮されて、実用性もあって装飾も可愛らしいから」という理由でチョイスされたものらしい。頭がぼーっとして説明が頭に入ってこなかったけれど、棒状のオモチャがわたしの膣内に入っている。
「……っ、ぁ……っ」
朝方、出かける間際のランブルト様に、このオモチャを仕込んで過ごすように言われた。
『イイ子で待っててね』
そう言われて、かれこれ五時間以上はこのオモチャによって断続的な快楽を与えられている。気持ちいいのに、ほんの少し刺激が足りなくて、イケない。手を後ろに回された状態で、束縛魔法をかけられたため、自分を慰めることも出来ない。
体が熱い。
涙が出る。
欲しい……欲しい……欲しい……。
熱く滾る硬いモノをいれて、力いっぱいかき混ぜて、ぐちゃぐちゃにしてほしい。奥にこすりつけてくれて、頭を真っ白にしてくれる……わたしが、何にも考えずに……何にも悩まずに済んで、現実から逃げることのできるアレが、欲しい。
欲しい……魔力が、欲しくてたまらない。
甘くて健康的な男の精を、いますぐに。
「わ、たし……いま…………なにを考えて……」
わたしに精液をくれる男性は、二人いる。
そのうちの一人から、精液を貰っている光景を、妄想した。
───くぁあ。
その時、外で鴉の鳴き声が聞こえた。どうして、鴉の鳴き声なんか聞こえるんだろう。ここは寝室で、窓も閉め切っているはずなのに……。
────冷たい風が、わたしの頬を撫でた。
窓がなぜか開いていて、遮光カーテンがヒラヒラと揺れている。
「ら……んぶると、さま…………?」
帰ってきてくれた?
そんなはずないのに、早くこの疼いた体を何とかしたくて、とっさに彼の名前を呼んでしまった。
「────これは、いったいどういう状況?」
どうやったかは分からないけれど、窓から中に侵入した背の高い男性は、カツカツと靴音を響かせてわたしのいるベッドの近くにまでやって来る。
冷たい風を纏った彼は、その肩に鴉を乗せていた。
瞳は、血のような深紅の色に変化している。
「あ、ぜるさま……ど、うやってここに……っ」
「力を使った」
アゼル様の声は、とても静かで、淡々としていて。
氷のように、冷たく鋭かった。
「鴉の目を借りたよ」
アゼル様が肩に乗せていた鴉の頭をちょんちょんと叩くと、鴉は大きな翼を広げ、窓から外へ飛び出していった。
鴉は──吸血鬼の使い魔的な存在。
目の色が青から赤に変わっているのは、吸血鬼の力を使ったからだろうけれど……。
「や……っ、来ないで……っ」
アゼル様は無遠慮にベッドに、よじのぼってきた。わたしは逃げようと思ったけれど、後ろで手を縛られているし、ずっとベッドに座りこんでいたから、足がしびれて上手く動けなかった。そうこうしている内にアゼル様が肩を掴んできて、強い力で思い切り押し倒された。
「痛……っ」
わたしの荒い息が、静かな部屋でこだましている。
恐怖を覚えるほどに美しく整った顔が、近づいてきて。
「ねえユフィ。これ、どういう状況か説明して?」
どろっとした昏い光を宿した赤い瞳が、わたしを見下ろしていた。
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