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19 センチメンタル
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「おおおーっ! ラオン! お前は今、一体何処に居るのだあああ!」
広いジュピターの城に、王アルスオンの大絶叫がこだました。
すぐ近くを娘が宇宙飛行している事も知らず、王妃ミアムは今にも気を失いそうな顔色でソファーに凭れかかっている。
「……もう三日になりますわ。こんなに長い時間ラオンの顔を見なかった事なんて、一度もなかったのに……」
もはや、夫婦ゲンカどころではない。王妃ミアムは、すでにそんな気力すら残っていない。
「ミアム様、アルスオン様、捜索の者から連絡が入りました。どうやら姫様は、すでにマーズにはいらっしゃらず、別の星へ移動されてしまった模様です」
使者が、冷静に状況を告げた。
ここジュピターでは、王位継承権は純粋な血筋を引く者にある。なので、前王の血を引く王妃ミアムこそが正統な後継者なのだ。だから使者は、王妃ミアムの名を最初に呼ぶ。当の本人たちは、そんな些細な事など全く気にしていないのだが。
ちなみに王と王妃には、ラオンが極悪な誘拐犯と居る事は伝えられていない。もちろん、二人の心労を気づかっての事である。
「おおおお!」
アルスオンが悲痛な声を洩らす。
これ程の大捜索にもかかわらず、いまだ最愛の娘が何処に居るのか、その手がかりすらつかめずにいる。
「ラオンが出ていってしまった原因は、やっぱり私たちのケンカよね……」
まぶたを半分落として、ミアムが呟く。
「ああ、そうだ! 君が私の書いた詩をけなしたりしなければ、こんな事にはならなかった!」
肩を震わせ、アルスオンが大袈裟に嘆く。
「そんなっ! 私はただ、文章が臭すぎるって云っただけでしょう!」
「それがけなしているというのだ! 私の、私の精魂込めて君に書いた詩をっ!」
「正直に云ってくれって云ったのは、アルスオンの方でしょっ!」
お互い八つ当たり同然で、再びケンカが始まってしまった。その時。
「大変です! ミアム様、アルスオン様!」
使者が扉を開け、飛び込んできた。
「何事?」
その剣幕に、二人のケンカが中断される。
「突然、失礼いたしました。あ、それより大変です! ラオン姫様の行方が判りました!」
「本当!」「本当かっ!」
夫婦二人が声を揃える。
「はい、ただいま連絡が入りまして、姫様は土星付近にいらっしゃると……」
「探せ! ただちに探すのだ!」
使者の言葉が終わらぬうちに、アルスオンが指令を下した。
「わあ、あれが天王星だね! 本当に縦に輪っかがある!」
カジノ店の通報により、カメラの映像から素性がばれてしまい大捜査網にかけられている事などつゆ知らず、ラオンは初めて直に眼にする天王星にはしゃいでいた。
「ところでラオン、この後どうするんだ」
外を通り過ぎていく天王星の輪を見送りながら、ソモルが尋ねた。
「うん、まず、ホワイティアが云っていた条件に合う星の並びと磁場が絡み合う空間を探し出そうと思う」
「どうやって」
「恒星と衛星の位置を計算して、その周囲に発生する重力と磁力から、ブラックホールとホワイトホールの有無も調べて……」
「はあ……」
ソモルが、難しい天文学に頭をねじらせる。
「その前に、この宇宙船の機能を少し知っておかないとね」
ラオンが手近なボタンをひとつずつ押していく。宇宙船の速度が落ちる。
「これが、減速か……」
みっつ目のボタンを押した時、前方のガラス窓と操縦桿の間に、機体を表した図面の映像が現れた。
「当たり! ナビガイドだ」
ラオンが指を鳴らす。
「へえー、凄いや! ワープ機能まで搭載されてるんだ」
ラオンが感心する。さすが最先端の小型宇宙船は素晴らしく多才だ。
なおもガイド画面を見ながらあれこれ試しているラオンを尻目に、ソモルは窓の外の眩い銀河を眺めていた。
こうして星の海を眼にしていると、ようやく自分が宇宙に居る実感が沸いてきた。
ソモルは、宇宙空間に出るのは初めてだった。密航の貨物船では窓がなかったので宇宙に出たという感覚に乏しかったし、故郷のルニア星からマーズへ逃がされたのは物心もつかないうちだったので全く記憶にない。
だからこうして自分の眼でそれを確かめた今の旅立ちが、初めての宇宙なのだと思う。
何故だか、妙にセンチメンタルな気分だった。この続く宇宙の先に、ソモルの生まれた星がある。
不用意にこのままそんな事を考え続けたら、泣いてしまうかもしれない。それは、絶対に駄目だ。
宇宙船のガラス窓に映ったソモルの顔は、酷いしかめっ面をしていた。ソモルは涙を堪えている時、つい怖い顔になってしまう。
強がりなソモルは、気持ちを切り替える事にした。
「しっかしやっぱ、星の数ハンパねえよな」
どうでも良い事をわざわざ言葉にしてみる。ラオンは聞いていない。
いいんだ……、どうせ独り言だから……。
窓の外に顔を向けていたソモルは、何か不審な光が後方に浮かんでいるのに気づいた。
「なんだ」
更に窓に顔を近づけ、眼を凝らす。それは、凄いスピードでこちらに向かってくる。
「おいラオン、何かこっちにくるぜ」
ラオンはガイド画面に夢中で、それどころではない。ラオンは熱中すると、何も耳に入らないようだ。仕方なくソモルはラオンの代わりに不審な物体の様子をうかがう事にした。じわじわと、物体は距離を詰めてくる。
はっきりと姿が確認できる距離まで近づいてきたそれは、宇宙船のようだった。
「おい、あれ宇宙船だぜ」
しかも、かなり巨大な。
「えー」
ソモルの呼び掛けにようやく気づいたラオンが、窓の外に眼をやる。
「げっ! あれは!」
ソモルより倍も視力の良いラオンには、はっきりと見えた。船体に全宇宙共通文字で書かれた、ジュピターという文字。
「大変だっ! ジイやたちだっ!」
広いジュピターの城に、王アルスオンの大絶叫がこだました。
すぐ近くを娘が宇宙飛行している事も知らず、王妃ミアムは今にも気を失いそうな顔色でソファーに凭れかかっている。
「……もう三日になりますわ。こんなに長い時間ラオンの顔を見なかった事なんて、一度もなかったのに……」
もはや、夫婦ゲンカどころではない。王妃ミアムは、すでにそんな気力すら残っていない。
「ミアム様、アルスオン様、捜索の者から連絡が入りました。どうやら姫様は、すでにマーズにはいらっしゃらず、別の星へ移動されてしまった模様です」
使者が、冷静に状況を告げた。
ここジュピターでは、王位継承権は純粋な血筋を引く者にある。なので、前王の血を引く王妃ミアムこそが正統な後継者なのだ。だから使者は、王妃ミアムの名を最初に呼ぶ。当の本人たちは、そんな些細な事など全く気にしていないのだが。
ちなみに王と王妃には、ラオンが極悪な誘拐犯と居る事は伝えられていない。もちろん、二人の心労を気づかっての事である。
「おおおお!」
アルスオンが悲痛な声を洩らす。
これ程の大捜索にもかかわらず、いまだ最愛の娘が何処に居るのか、その手がかりすらつかめずにいる。
「ラオンが出ていってしまった原因は、やっぱり私たちのケンカよね……」
まぶたを半分落として、ミアムが呟く。
「ああ、そうだ! 君が私の書いた詩をけなしたりしなければ、こんな事にはならなかった!」
肩を震わせ、アルスオンが大袈裟に嘆く。
「そんなっ! 私はただ、文章が臭すぎるって云っただけでしょう!」
「それがけなしているというのだ! 私の、私の精魂込めて君に書いた詩をっ!」
「正直に云ってくれって云ったのは、アルスオンの方でしょっ!」
お互い八つ当たり同然で、再びケンカが始まってしまった。その時。
「大変です! ミアム様、アルスオン様!」
使者が扉を開け、飛び込んできた。
「何事?」
その剣幕に、二人のケンカが中断される。
「突然、失礼いたしました。あ、それより大変です! ラオン姫様の行方が判りました!」
「本当!」「本当かっ!」
夫婦二人が声を揃える。
「はい、ただいま連絡が入りまして、姫様は土星付近にいらっしゃると……」
「探せ! ただちに探すのだ!」
使者の言葉が終わらぬうちに、アルスオンが指令を下した。
「わあ、あれが天王星だね! 本当に縦に輪っかがある!」
カジノ店の通報により、カメラの映像から素性がばれてしまい大捜査網にかけられている事などつゆ知らず、ラオンは初めて直に眼にする天王星にはしゃいでいた。
「ところでラオン、この後どうするんだ」
外を通り過ぎていく天王星の輪を見送りながら、ソモルが尋ねた。
「うん、まず、ホワイティアが云っていた条件に合う星の並びと磁場が絡み合う空間を探し出そうと思う」
「どうやって」
「恒星と衛星の位置を計算して、その周囲に発生する重力と磁力から、ブラックホールとホワイトホールの有無も調べて……」
「はあ……」
ソモルが、難しい天文学に頭をねじらせる。
「その前に、この宇宙船の機能を少し知っておかないとね」
ラオンが手近なボタンをひとつずつ押していく。宇宙船の速度が落ちる。
「これが、減速か……」
みっつ目のボタンを押した時、前方のガラス窓と操縦桿の間に、機体を表した図面の映像が現れた。
「当たり! ナビガイドだ」
ラオンが指を鳴らす。
「へえー、凄いや! ワープ機能まで搭載されてるんだ」
ラオンが感心する。さすが最先端の小型宇宙船は素晴らしく多才だ。
なおもガイド画面を見ながらあれこれ試しているラオンを尻目に、ソモルは窓の外の眩い銀河を眺めていた。
こうして星の海を眼にしていると、ようやく自分が宇宙に居る実感が沸いてきた。
ソモルは、宇宙空間に出るのは初めてだった。密航の貨物船では窓がなかったので宇宙に出たという感覚に乏しかったし、故郷のルニア星からマーズへ逃がされたのは物心もつかないうちだったので全く記憶にない。
だからこうして自分の眼でそれを確かめた今の旅立ちが、初めての宇宙なのだと思う。
何故だか、妙にセンチメンタルな気分だった。この続く宇宙の先に、ソモルの生まれた星がある。
不用意にこのままそんな事を考え続けたら、泣いてしまうかもしれない。それは、絶対に駄目だ。
宇宙船のガラス窓に映ったソモルの顔は、酷いしかめっ面をしていた。ソモルは涙を堪えている時、つい怖い顔になってしまう。
強がりなソモルは、気持ちを切り替える事にした。
「しっかしやっぱ、星の数ハンパねえよな」
どうでも良い事をわざわざ言葉にしてみる。ラオンは聞いていない。
いいんだ……、どうせ独り言だから……。
窓の外に顔を向けていたソモルは、何か不審な光が後方に浮かんでいるのに気づいた。
「なんだ」
更に窓に顔を近づけ、眼を凝らす。それは、凄いスピードでこちらに向かってくる。
「おいラオン、何かこっちにくるぜ」
ラオンはガイド画面に夢中で、それどころではない。ラオンは熱中すると、何も耳に入らないようだ。仕方なくソモルはラオンの代わりに不審な物体の様子をうかがう事にした。じわじわと、物体は距離を詰めてくる。
はっきりと姿が確認できる距離まで近づいてきたそれは、宇宙船のようだった。
「おい、あれ宇宙船だぜ」
しかも、かなり巨大な。
「えー」
ソモルの呼び掛けにようやく気づいたラオンが、窓の外に眼をやる。
「げっ! あれは!」
ソモルより倍も視力の良いラオンには、はっきりと見えた。船体に全宇宙共通文字で書かれた、ジュピターという文字。
「大変だっ! ジイやたちだっ!」
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