ヒメゴト―秘め事もしくは、姫事?―

遠堂瑠璃

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10.星を結ぶ二人

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 夜の街を抜けて俺の小屋のある丘の上に着いた後、ラオンはひとしきり星を見ながらはしゃいでいた。
 ラオンは、星座を見つけては俺に嬉しそうに教えてくれた。

 ラオンが指差す夜空を見上げてみたけど、俺にはどの星が何座なんだか全く判んなかった。そもそも星を結んで絵を想像するってのが、良く判んねえ。俺には、そのイメージすら難しい。
 そういう繊細なのは、俺にはどうやら向かないらしい。


「小さな頃、点と点を結んで絵を描く遊びが大好きだったんだ。星座を探すのって、それに似てるね」

 ラオンは、綺麗な指で夜空をくるくるとなぞりながら云った。
 そんな遊びも、俺した事ねえから、やっぱ判んなかった。

 天の川が見えた。あの日と同じ、夜空の真ん中に淡く白い筋を伸ばして。
 11歳の頃のラオンの声と、隣で話す13歳のラオンの声が俺の内側で交差する。

「ラオンは今でも、まだ宇宙の果てを見てみたいと思ってんのか?」

 俺は不意に尋ねてみた。
 ラオンと過ごした3日間の出来事が、ふわり俺の記憶から溢れ出す。きゅっといとしいような、苦しいような心地になった。
 思えばあの時、ラオンを拐ったと誤解されたおかげ? で、一緒に居る事ができた。指名手配犯にされてなかったら、あの3日間は存在しなかった。

 ラオンに、宇宙の果てを見せてやりたい。俺が、ラオンの願いを叶えてやりたい。
 あの日俺は、天の川を見上げながら思った。
 
 まあ結局、願いを叶えてやる事はできなかったけど。

「もちろん、今でもずっと変わらないよ。いつか宇宙の果てに行くんだ」

 ラオンは星を見上げていた眼を俺の方へ向けて、云った。ラオンの眼はあの夜と同じ、たくさんの星を映し込んでキラキラ零れ落ちそうに瞬いていた。




 夜もだいぶ深まって、小屋に入り扉を閉めると、俺はいよいよ落ち着かなくなっていた。
 狭い、薄暗い小屋の中に、ラオンと俺、二人っきり。

 一瞬呼吸を止めて、そして大きく息を吐き出す。
 変な汗が出てきた。
 心臓が、ドクンドクンしてるのが判る。

 一年前と同じ、二人だけで過ごす、二度目の夜。
 あの時と同じ状況だけど、微妙に違う。

 あの時俺とラオンは、全くのガキそのもの。今だって、大人からすれば充分ガキなんだろうけど。

 俺は、閉めた扉の取っ手を握ったまま、ゆっくりと振り向いた。


 天井から吊るされた夕陽みたいな色をした電球に照らされて、ラオンは俺のベッドにちょこんと座っていた。膝下を宙ぶらりんに揺らしながら、ちょっと首を傾げるようにして俺を見ている。
 その仕草が可愛い過ぎて、取っ手を握ったままの手のひらに汗が滲んだ。

 うわっ、この感じ、ヤバイ! 雰囲気に呑まれちまいそうだ。
 なんか、話さないと……。

 別に、いけない事とか考えてるわけじゃねぇ。
 けど、夜の魔力にやられて余計な事とか云っちまったり、しちまったりすんのだけは勘弁!


「あっ……、寝間着ねまき貸してやるよ。その格好、眠りづらそうだから」


 咄嗟に口をついて出た言葉が、それだった。
 ……なんか俺、下心っぽい事云ってねえ?


 ラオンの服装は、つなぎになったズボンにシンプルな半袖という格好。一年前と同じ。ただ、あの時巻きつけてた不自然な感じのマントはしていない。
 城ではもちろん姫らしい格好してる筈だから、外に抜け出すような服はこれくらいしかなかったんだろうな。このまま寝るには、確かに窮屈そうな格好。

 ラオンの服装を見ていたつもりが、いつの間にか体の線をなぞっている自分に気がついて、慌てて眼を逸らした。
 壁の方を向いたままラオンの前を通って、俺は服がしまってあるチェストの引き出しをちょっと乱暴に引いた。


 ……ろくな服、入ってねぇ……。
 普段と仕事兼用の、汚ねぇTシャツやらタンクトップばっかだし……。

 俺は必死に引き出しをあっちこっち引っ掻き回して、ようやく唯一の新品Tシャツを探し当てた。下は……、このスエットが一番ましかな……。


「ほら、これ」

 俺はその上下二枚を、ラオンの方へ差し出した。
 なんだか照れ臭い気がして、ラオンの事、見れねえ。


「ありがと」

 ラオンは素直に、それを受けとる。
 至って、いつもと同じ調子。取り乱してんのは、やっぱ俺だけなんだ。


「ソモル」

 ラオンが、申し訳なさそうな感じで俺を呼んだ。

「ん、何だ?」

 スエットの方、やっぱ汚くて気に入らないか。そうだよな、俺の着古しだもんな。


「着替えるから、外、出てて」

 少し困ったような眼で俺を見ながら、ラオンはぼそっと云った。

 しまった! そこ肝心なとこ! 全然頭が回ってなかった!


「……おっ、おうっ! そうだよな、ごめん!」

 俺はラオンに背を向けたまま、扉の方へ小走りで直進した。


「着替え終わったら、呼んでくれ」

 一言だけ云い残すと、俺は振り向かずに外に出て、そのまま扉を閉めた。


 湿ったような夜の風が、俺の火照った頬や頭を撫で付ける。

 閉めた扉に寄りかかって、俺は夜空を見上げた。そして、なるべく余計な事を考えないように、俺自身の高ぶった気持ちを誤魔化ごまかすように、おぼつかない指で星座を辿った。



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