11 / 29
11.……これは、下心じゃねえ!
しおりを挟む
「もう、いいよ」
扉の向こうから小さく聞こえたラオンの声に、俺は宙でなぞっていた指をぴたりと止めた。
無駄に高揚した気持ちを落ち着かせる為、一呼吸置いてから遠慮がちに扉を開く。
自分が暮らす小屋の開け慣れた扉なのに、バカみたいに緊張しながら。
橙色の薄明かりの小屋の中、さっきと同じようにベッドに腰かけたラオンが居た。俺が貸した、真新しいグレーのTシャツと紺のスエットを着て。
俺サイズのTシャツとスエットが、ラオンのちっちゃさをこれでもかってくらいに際立たせてた。それがなんか堪らなく可愛くって、俺の体温がまた上昇した。
俺ももうすぐ15歳にしてはちっせえ方だけど、ラオンはそれに輪をかけてちっちゃいから。
ベッドに腰かけたラオンの横には、さっきまで着ていた服が丁寧にたたんで置いてあった。
何となく、それからは眼を逸らす。
ラオンと、ひとつ屋根の下で、二人っきり。
今のこの情況が、またまた俺の意識をいけない程に直撃した。
やべぇ、またドキドキしてきた。
しかもこの暗めの照明が、いい感じの雰囲気を作り出してしまってるし……。
下心とか、そんなんじゃねえ……! そんなんじゃねえけど……。
ドギマギしながら落とした俺の目線が、うっすらと柔らかな線を描くラオンの胸元に思わず止まっていた。
無理矢理、視線をひっぺがす。
嫌という程意識しちまって、心臓が喉元まではね上がった。
スケベッ! 俺のスケベッ!
黙ったままちょっと挙動不審になっている俺を、ラオンは不思議そうに見詰めていた。その仕草も、ますます俺をドキドキさせる。
落ち着け! 落ち着け俺っ! 忘れろっ! 二人っきりとかそういうの、一旦全部忘れろっ!
平常心、平常心。
「……あ~、俺床で寝るから、ラオン、ベッドで寝ろ」
いろんな事を誤魔化すように、俺は自分の頭をわしゃわしゃと掻きながら云った。
「ソモルも、ベッドで一緒に寝よう」
ラオンの口から飛び出した言葉に、俺の思考は一瞬、真っ白になった。
うぉぉぉぉぉいっ! 何云い出してんだっ! ラオンンンンン!
「んなのっ、無理に決まってんだろっ!」
「なんで?」
それを訊くかっ⁉
ラオンの眼は、全く事情を判ってない眼だった。
ラオン! お前、無防備過ぎだろ!
俺がどんだけ心の中で悶絶してるか、こいつ間違いなく自覚がねえ!
ラオンとしては、単に俺を床で寝かすのは気が引ける。ただそんだけの理由で、云い出してる事だと思う。
けどなあ、ちったあ判れよ! 年頃男子の事情をさあっ!
好きな娘と同じベッドで一晩とか、俺を悶え殺す気かっ!
「なら、僕が床で寝る」
一年半前と同じパターン。そう来たか。けど、今回は折れねえ。なにがなんでも、折れるわけにはいかねえ。
「お前が床なら、俺は外で寝るっ!」
「えーっ!」
これで、どーだっ!
ラオンはしぶしぶ、一人でベッドに寝る事を承諾した。俺は、勝った!
こいつってば、本当なんも考えてねえ。あの頃からそうだ。
あん時だって、お前と二人で同じベッドに寝るって行為がどんだけ俺をドキドキさせたか、全く気づいてねえんだ。
あの頃は、まだギリギリセーフだったんだよ。けど、今はもう無理なんだって。
……そんな事したら、俺、なんの保証もできねえよ。
眠ってるお前に、こっそり……キスとか……間違いなくしちまう自信があるし……。
俺は木製の床に毛布を敷いて、今夜の寝床をこしらえた。ラオンはベッドの毛布に足を突っ込んで、黙ったまま俺の動きを見ていた。
「電気、消すぞ」
「うん」
ラオンが、結んでいた長い髪をほどく。その仕草が妙に女の子を感じさせて、俺の脈拍はまだ飽き足らんとばかりに速度を上げた。
俺は手を伸ばし、低い天井からぶら下がった電球を切った。カチッという乾いた音が合図のように、狭い小屋の中は真っ暗になった。この丘に一本だけの外灯の光が、かろじて僅かに窓から入り込む。指に残る電球の熱の余韻が消える頃には、すっかり暗さに眼が慣れてくる。
「なんだか、このまま眠っちゃうの、もったいないね」
俺が横になろうとした時、囁くようにラオンが零した。
「えっ」
そんな意味じゃないと判りながらも、ラオンの言葉の意図に淡い期待がもたげてしまう。
惚れた男の、哀しい性。
「だって、ソモルとまだ話し足りないもん」
荒い夜の粒子の中に、俺とラオンの形がほんのりと浮かび上がっていた。
「明日は、朝っぱらから出かけんだろ? そん時、いくらでも話せるじゃん」
俺は云いながら、即席でこしらえた寝床にわざと荒っぽく横になった。
「ん」
短い、ラオンの返答。
二人っきりの俺たちは、夜の粒子に呑まれていく。
「ずーっとね、ソモルに会いたかったの、もう一度……」
数秒の無言の後、思わせ振りにラオンが呟いた。
to be continue
扉の向こうから小さく聞こえたラオンの声に、俺は宙でなぞっていた指をぴたりと止めた。
無駄に高揚した気持ちを落ち着かせる為、一呼吸置いてから遠慮がちに扉を開く。
自分が暮らす小屋の開け慣れた扉なのに、バカみたいに緊張しながら。
橙色の薄明かりの小屋の中、さっきと同じようにベッドに腰かけたラオンが居た。俺が貸した、真新しいグレーのTシャツと紺のスエットを着て。
俺サイズのTシャツとスエットが、ラオンのちっちゃさをこれでもかってくらいに際立たせてた。それがなんか堪らなく可愛くって、俺の体温がまた上昇した。
俺ももうすぐ15歳にしてはちっせえ方だけど、ラオンはそれに輪をかけてちっちゃいから。
ベッドに腰かけたラオンの横には、さっきまで着ていた服が丁寧にたたんで置いてあった。
何となく、それからは眼を逸らす。
ラオンと、ひとつ屋根の下で、二人っきり。
今のこの情況が、またまた俺の意識をいけない程に直撃した。
やべぇ、またドキドキしてきた。
しかもこの暗めの照明が、いい感じの雰囲気を作り出してしまってるし……。
下心とか、そんなんじゃねえ……! そんなんじゃねえけど……。
ドギマギしながら落とした俺の目線が、うっすらと柔らかな線を描くラオンの胸元に思わず止まっていた。
無理矢理、視線をひっぺがす。
嫌という程意識しちまって、心臓が喉元まではね上がった。
スケベッ! 俺のスケベッ!
黙ったままちょっと挙動不審になっている俺を、ラオンは不思議そうに見詰めていた。その仕草も、ますます俺をドキドキさせる。
落ち着け! 落ち着け俺っ! 忘れろっ! 二人っきりとかそういうの、一旦全部忘れろっ!
平常心、平常心。
「……あ~、俺床で寝るから、ラオン、ベッドで寝ろ」
いろんな事を誤魔化すように、俺は自分の頭をわしゃわしゃと掻きながら云った。
「ソモルも、ベッドで一緒に寝よう」
ラオンの口から飛び出した言葉に、俺の思考は一瞬、真っ白になった。
うぉぉぉぉぉいっ! 何云い出してんだっ! ラオンンンンン!
「んなのっ、無理に決まってんだろっ!」
「なんで?」
それを訊くかっ⁉
ラオンの眼は、全く事情を判ってない眼だった。
ラオン! お前、無防備過ぎだろ!
俺がどんだけ心の中で悶絶してるか、こいつ間違いなく自覚がねえ!
ラオンとしては、単に俺を床で寝かすのは気が引ける。ただそんだけの理由で、云い出してる事だと思う。
けどなあ、ちったあ判れよ! 年頃男子の事情をさあっ!
好きな娘と同じベッドで一晩とか、俺を悶え殺す気かっ!
「なら、僕が床で寝る」
一年半前と同じパターン。そう来たか。けど、今回は折れねえ。なにがなんでも、折れるわけにはいかねえ。
「お前が床なら、俺は外で寝るっ!」
「えーっ!」
これで、どーだっ!
ラオンはしぶしぶ、一人でベッドに寝る事を承諾した。俺は、勝った!
こいつってば、本当なんも考えてねえ。あの頃からそうだ。
あん時だって、お前と二人で同じベッドに寝るって行為がどんだけ俺をドキドキさせたか、全く気づいてねえんだ。
あの頃は、まだギリギリセーフだったんだよ。けど、今はもう無理なんだって。
……そんな事したら、俺、なんの保証もできねえよ。
眠ってるお前に、こっそり……キスとか……間違いなくしちまう自信があるし……。
俺は木製の床に毛布を敷いて、今夜の寝床をこしらえた。ラオンはベッドの毛布に足を突っ込んで、黙ったまま俺の動きを見ていた。
「電気、消すぞ」
「うん」
ラオンが、結んでいた長い髪をほどく。その仕草が妙に女の子を感じさせて、俺の脈拍はまだ飽き足らんとばかりに速度を上げた。
俺は手を伸ばし、低い天井からぶら下がった電球を切った。カチッという乾いた音が合図のように、狭い小屋の中は真っ暗になった。この丘に一本だけの外灯の光が、かろじて僅かに窓から入り込む。指に残る電球の熱の余韻が消える頃には、すっかり暗さに眼が慣れてくる。
「なんだか、このまま眠っちゃうの、もったいないね」
俺が横になろうとした時、囁くようにラオンが零した。
「えっ」
そんな意味じゃないと判りながらも、ラオンの言葉の意図に淡い期待がもたげてしまう。
惚れた男の、哀しい性。
「だって、ソモルとまだ話し足りないもん」
荒い夜の粒子の中に、俺とラオンの形がほんのりと浮かび上がっていた。
「明日は、朝っぱらから出かけんだろ? そん時、いくらでも話せるじゃん」
俺は云いながら、即席でこしらえた寝床にわざと荒っぽく横になった。
「ん」
短い、ラオンの返答。
二人っきりの俺たちは、夜の粒子に呑まれていく。
「ずーっとね、ソモルに会いたかったの、もう一度……」
数秒の無言の後、思わせ振りにラオンが呟いた。
to be continue
0
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。
雪桜 あやめ
恋愛
✨ 第6回comicoお題チャレンジ『空』受賞作
阿須加家のお嬢様である結月は、親に虐げられていた。裕福でありながら自由はなく、まるで人形のように生きる日々…
だが、そんな結月の元に、新しく執事がやってくる。背が高く整った顔立ちをした彼は、まさに非の打ち所のない完璧な執事。
だが、その執事の正体は、なんと結月の『恋人』だった。レオが執事になって戻ってきたのは、結月を救うため。だけど、そんなレオの記憶を、結月は全て失っていた。
これは、記憶をなくしたお嬢様と、恋人に忘れられてしまった執事が、二度目の恋を始める話。
「お嬢様、私を愛してください」
「……え?」
好きだとバレたら即刻解雇の屋敷の中、レオの愛は、再び、結月に届くのか?
一度結ばれたはずの二人が、今度は立場を変えて恋をする。溺愛執事×箱入りお嬢様の甘く切ない純愛ストーリー。
✣✣✣
カクヨムにて完結済みです。
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※第6回comicoお題チャレンジ『空』の受賞作ですが、著作などの権利は全て戻ってきております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる