ヒメゴト―秘め事もしくは、姫事?―

遠堂瑠璃

文字の大きさ
12 / 29

12.欲望のブレーキは……

しおりを挟む
「だからね、今……、すっごく嬉しいんだよ」


 ……ラオン、暗くしてからのその一言、反則だろ……。


 ドクドクドクドク

 仰向けになった俺の心臓が、寝床から跳ね上がる勢いで速さを増していく。


 俺、自分を抑えつけようって、努力してんだぜ。お前の事、傷つけないように。

 けど……。
 その会いたかった、嬉しかったって、どっちの意味だ?

 友達として、なのか? それとも……。


 ヤバイ、ヤバイぜ、俺……。期待、し始めてる……。夜の魔力に、呑まれちまう……。

 やべぇ……俺……。



 好きって……云っちまっていいのか、ラオン……?

 お前の事好きな気持ちが、暴走してる。


 喉がカラカラだ。心臓の鼓動が速過ぎて、唾を呑み込むのも上手くいかない。
 吐き出しかけた言葉が、俺の乾いた舌の上で暴れてる。



「……ラオン、俺は……」


 ようやく洩らした俺の掠れた声に、心地好いリズムのラオンの寝息が重なった。

 ラオンは、すでに寝ていた。


 ……そうだよな、そういうオチだ……。そんな、うまい事いく筈ねえよな。

 俺は、盛り上がるだけ盛り上がってそのまま行き場をなくした期待を静めるすべを、一人虚しく夜の中で模索した。


 ――ずーっとね、ソモルに会いたかったの、もう一度


 ――だからね、今……、すっごく嬉しいんだよ


 俺の鼓動の中に疼くような余韻を残したまま、ラオンの声が絡みついて離れない。眼を瞑って落ち着こうとすればする程、気分がどんどん高揚していく。
 カフェイン取りすぎちまった夜みたいに、頭もキンキンに冴えていく。
 俺だけが、眠りから完全においてけぼり食らっちまってた。

 ラオンの奏でる優しいリズムの寝息だけが、俺の悶々とした夜の空間に聞こえていた。その寝息を聞いてるうちに、不意にラオンの寝顔が見たいという欲求が俺の中にもたげ上がった。

 11歳の頃の、ラオンの寝顔を思い出す。
 あの頃よりもほんの少し大人びて綺麗になった、ラオンの寝顔を見てみたい。

 思春期男子としての、健康な欲求。
 寝顔、見るだけ。せめて、そんくらいなら許される筈。

 俺はなるべく、気配と音を殺して起き上がった。
 無意識に鼻息が荒くなってる事に気づき、一旦息を止める。

 手のひらに、べったり汗を握っていた。別に、やましい事しようとしてるわけじゃねぇだろっ!
 ……寝顔、ちらっと見るだけじゃん! 好きなの寝顔見てみたいとか、男としてフツーだろ!

 云いわけでも、正当化でもねぇぞ、これは……。


 ひとしきり自分に云いわけしてから、ベッドの上で眠るラオンを覗き込む。

 暗がりの中に、仄かに浮かび上がる白い素肌。枕に少し乱れて広がる、長い髪。
 閉じた瞼を、綺麗な長い睫毛が飾っている。

 ラオンは、俺の葛藤など何も知らずに眠っていた。ぷっくりとした唇から、静かな寝息をこぼしながら。
 眼を閉じたその様子が、別のシーンを連想させる。

 いわゆる、キスの……瞬間、とか……。


 俺は、ごくりと唾を呑み込んだ。脇の下まで、汗でびっしょりになっていた。

 ドクドクドクドク

 心臓の鼓動に合わせて、欲望が俺を内側から操るように支配していく。


 ほんのちょっと、ちょっとだけ、触れてみたい。
 その柔らかそうな頬っぺたに、指先だけでも触れてみたい。

 けど……。

 今触れてみたら、ブレーキって……何処まで利くんだ?


 どうかしちまったみたいに、ラオンの寝顔から眼が離せなくなっていた。
 俺が、俺でなくなっていくみたいに……。
 俺の意識と体が、欲望に乗っ取られていく感じ……。

 ラオンに、触れたい。けど触れちまったら、きっともう止まらない。
 触れてお前の感触を知っちまったら、きっと俺……、止まらなくなる。

 止まらなくなって、そして……。


 俺はきっと、お前にキスしちまう。

 これって間違いなく、いけない欲望だよな。
 眠ってる女の子に手ぇ出しちまうなんて、すげぇ卑怯だ。だからそうなっちまわないように、一緒に寝ようって云い出したラオンを説得して、わざわざ別々に寝たんじゃんか。それなのに手ぇ出しちまったら、本末転倒だろ。

 判ってるんだ……、判ってるくせに……止められねえ……。


 俺の眼は吸い寄せられるように、ラオンの唇に釘付けられていた。
 触れたその先に続くのは、ほぼ必然的な衝動。

 衝動を止められる自信なんてない。卑怯な事だって、頭では判ってる。

 なのに……。


 俺の指先が、ふわり宙を舞う。
 罪の意識に震え、ためらうように、それでもゆっくりと、ラオンの頬に伸びていく。


 後寸分で触れるという瞬間、ラオンがぴくんと動いた。

 やましい程やまし過ぎる俺は、弾かれたように触れようとしていた指を遠ざけた。


 まるで俺の欲望を見透かしたみたいに、ラオンは何か聞き取れない寝言を呟きながら、寝返りを打ってそのまま俺に背を向けた。


 あれだけ高まった欲望が急に萎えて、俺はなんだかフラれたような気分になった。

 俺って、結局ただの馬鹿か……?


 ……さっさと、寝よ。

 やっぱ俺、完全にラオンの指先で転がされてんのかもな……。



                   to be continue 

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜 あやめ
恋愛
✨ 第6回comicoお題チャレンジ『空』受賞作 阿須加家のお嬢様である結月は、親に虐げられていた。裕福でありながら自由はなく、まるで人形のように生きる日々… だが、そんな結月の元に、新しく執事がやってくる。背が高く整った顔立ちをした彼は、まさに非の打ち所のない完璧な執事。 だが、その執事の正体は、なんと結月の『恋人』だった。レオが執事になって戻ってきたのは、結月を救うため。だけど、そんなレオの記憶を、結月は全て失っていた。 これは、記憶をなくしたお嬢様と、恋人に忘れられてしまった執事が、二度目の恋を始める話。 「お嬢様、私を愛してください」 「……え?」 好きだとバレたら即刻解雇の屋敷の中、レオの愛は、再び、結月に届くのか? 一度結ばれたはずの二人が、今度は立場を変えて恋をする。溺愛執事×箱入りお嬢様の甘く切ない純愛ストーリー。 ✣✣✣ カクヨムにて完結済みです。 この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※第6回comicoお題チャレンジ『空』の受賞作ですが、著作などの権利は全て戻ってきております。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...