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第三章 謎の男
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牢の中は静寂に包まれていた。しばらくの間、誰も言葉を発しようとしなかった。
クスラ国王ナバルが不死身の身体を手に入れた、その恐ろしい事態に誰もが息をのんだ。
「ナバルはなぜ、君の父親の存在を知ったんだろう」
と、シュウが静寂を破った。
「それはわからない」
ウォルフは首を横に振りながら答えた。
「しかし、困ったな……」
と、ユアンが牢に来てから初めて口を開いた。それは、ため息混じりの声だった。
「それで君は聖剣を盗もうとしたのか。影を斬ることができる剣だから」
「そうです」
と、ウォルフは頷いた。
「でも、その剣だけでは足りません。僕は、一人になってから自分を殺すにはどうすれば良いか、その方法をずっと探していました。その答えは、百年ほど前に出会ったソルアが教えてくれました。聖剣で斬り、弱ったところに闇の炎の矢を突けば、微塵も残さず身体を消すことができるだろうと」
「闇の炎……そんな伝説、実際に存在するのか?」
と、トシが呟いた。
「世界の創世記に影の世界を半分焼き払って光の世界を作ったという、古い書物に出てくる伝説の炎だろ?」
と、ハクトが顔をしかめた。
「ただのおとぎ話じゃないか」
「いや……それなら聖剣も、もはやおとぎ話だ」
ユアンはそう言うと、聖剣を腰から外して皆の前にかざした。
「何をおっしゃっているのですか?」
シュウが驚いた様子で言うと、ユアンは寂しそうに笑った。
「お前たちは産まれる前だったから、聖剣の本当の姿を知らないのだ。力と技と精神、すべてを兼ね備えた者だけが聖剣に認められ、その力を操ることができる。認められない者が聖剣を持ったところで、他の剣と何も変わらない。影を斬ることはできない」
「では、父上以外の人が聖剣を使うことはできないのですね?たとえ手に入れることができたとしても」
と、トシが言うと、ユアンは首を横に振った。
「聖剣は持つべき者が持つと青く光るのだ」
ユアンは持っている聖剣を鞘から抜いた。聖剣は青い光を放つことはなく、ただそこには金属のきらめきがあるだけだった。
皆、その事実に驚愕して言葉が出てこなかった。
「つまり、私はもう聖剣の使い手ではないのだ」
ユアンは聖剣をハクトに差し出した。
「持ってみなさい」
ハクトは戸惑いながらも聖剣を手にした。手の中に聖剣の重みが沈み込み、身体は緊張で硬くなった。
聖剣は青い光を発することはなく、ハクトは奥歯を噛み締めた。自分は、父の後継者となるために日々の鍛錬を怠ったことはない。それなのに聖剣は、自分を持つべき者とは認めてくれない。その現実を前に、ハクトには悔しさしかなかった。
聖剣は次にトシの手に渡った。そこでも光ることはなく、トシは当然だという表情で頷きながら聖剣をユアンに返した。
「シュウとウォルフは、もう持ったからわかっているだろう。ここに、聖剣に選ばれる者は存在しないということだ」
「父上は、いつから気づいていらっしゃったのですか?」
とシュウが尋ねると、ユアンはどかっとその場に胡座を組んで座った。
「何年前だっただろうか、歳には勝てないものだな……体力の衰えを感じ始めた頃だ。聖剣を抜いても光らなくなった。
いずれそうなることは分かっていた。悲嘆することはない。時が来た、ただそれだけのことだ。
しかし、私が聖剣の使い手であるということは、国を守るには必要なことだ。こんな最強な抑止力は他にはないだろう?
だからずっと、あたかも聖剣の使い手であるかのような顔をして、総帥の座に鎮座していたというわけだ」
ユアンの表情が、どこか安堵しているようにシュウには見えた。長い時間、聖剣の使い手としてひとり戦ってきた父が、その戦いを終えようとしているのだとシュウは思った。
「聖剣が光らないとしても、父上は今でも誰にも負けない剣豪です。総帥たるべきお人です」
トシの言葉に、ユアンは口角を上げた。
「ありがとう、トシ。しかし、聖剣が必要な事態となってしまった以上、聖剣の使い手を探す以外に道はないだろう」
「どのようにして探すのですか?」
「こちらから探しに行かねばなるまい。クスラ国へと向かいながら、聖剣の使い手と闇の炎を探しナバルを討つ、それ以外に方法はないだろう」
「見つからなかったら、どうするのですか?」
と、シュウが言った。
「不死身のナバルに誰が?」
「聖剣がなくとも、私は戦う。大切な人々を守る心は、年老いても変わりない」
「僕に、聖剣をお預けいただけませんか?」
と、ウォルフが言った。
「不死身の僕なら、いつの日か聖剣の使い手を探し当てることができるかもしれません」
ウォルフの言葉に、ハクトが眉をひそめ、シュウとトシは顔を見合わせた。ユアンは腕を前に組むと、ため息まじりに「さて、どうするか」と呟いた。
クスラ国王ナバルが不死身の身体を手に入れた、その恐ろしい事態に誰もが息をのんだ。
「ナバルはなぜ、君の父親の存在を知ったんだろう」
と、シュウが静寂を破った。
「それはわからない」
ウォルフは首を横に振りながら答えた。
「しかし、困ったな……」
と、ユアンが牢に来てから初めて口を開いた。それは、ため息混じりの声だった。
「それで君は聖剣を盗もうとしたのか。影を斬ることができる剣だから」
「そうです」
と、ウォルフは頷いた。
「でも、その剣だけでは足りません。僕は、一人になってから自分を殺すにはどうすれば良いか、その方法をずっと探していました。その答えは、百年ほど前に出会ったソルアが教えてくれました。聖剣で斬り、弱ったところに闇の炎の矢を突けば、微塵も残さず身体を消すことができるだろうと」
「闇の炎……そんな伝説、実際に存在するのか?」
と、トシが呟いた。
「世界の創世記に影の世界を半分焼き払って光の世界を作ったという、古い書物に出てくる伝説の炎だろ?」
と、ハクトが顔をしかめた。
「ただのおとぎ話じゃないか」
「いや……それなら聖剣も、もはやおとぎ話だ」
ユアンはそう言うと、聖剣を腰から外して皆の前にかざした。
「何をおっしゃっているのですか?」
シュウが驚いた様子で言うと、ユアンは寂しそうに笑った。
「お前たちは産まれる前だったから、聖剣の本当の姿を知らないのだ。力と技と精神、すべてを兼ね備えた者だけが聖剣に認められ、その力を操ることができる。認められない者が聖剣を持ったところで、他の剣と何も変わらない。影を斬ることはできない」
「では、父上以外の人が聖剣を使うことはできないのですね?たとえ手に入れることができたとしても」
と、トシが言うと、ユアンは首を横に振った。
「聖剣は持つべき者が持つと青く光るのだ」
ユアンは持っている聖剣を鞘から抜いた。聖剣は青い光を放つことはなく、ただそこには金属のきらめきがあるだけだった。
皆、その事実に驚愕して言葉が出てこなかった。
「つまり、私はもう聖剣の使い手ではないのだ」
ユアンは聖剣をハクトに差し出した。
「持ってみなさい」
ハクトは戸惑いながらも聖剣を手にした。手の中に聖剣の重みが沈み込み、身体は緊張で硬くなった。
聖剣は青い光を発することはなく、ハクトは奥歯を噛み締めた。自分は、父の後継者となるために日々の鍛錬を怠ったことはない。それなのに聖剣は、自分を持つべき者とは認めてくれない。その現実を前に、ハクトには悔しさしかなかった。
聖剣は次にトシの手に渡った。そこでも光ることはなく、トシは当然だという表情で頷きながら聖剣をユアンに返した。
「シュウとウォルフは、もう持ったからわかっているだろう。ここに、聖剣に選ばれる者は存在しないということだ」
「父上は、いつから気づいていらっしゃったのですか?」
とシュウが尋ねると、ユアンはどかっとその場に胡座を組んで座った。
「何年前だっただろうか、歳には勝てないものだな……体力の衰えを感じ始めた頃だ。聖剣を抜いても光らなくなった。
いずれそうなることは分かっていた。悲嘆することはない。時が来た、ただそれだけのことだ。
しかし、私が聖剣の使い手であるということは、国を守るには必要なことだ。こんな最強な抑止力は他にはないだろう?
だからずっと、あたかも聖剣の使い手であるかのような顔をして、総帥の座に鎮座していたというわけだ」
ユアンの表情が、どこか安堵しているようにシュウには見えた。長い時間、聖剣の使い手としてひとり戦ってきた父が、その戦いを終えようとしているのだとシュウは思った。
「聖剣が光らないとしても、父上は今でも誰にも負けない剣豪です。総帥たるべきお人です」
トシの言葉に、ユアンは口角を上げた。
「ありがとう、トシ。しかし、聖剣が必要な事態となってしまった以上、聖剣の使い手を探す以外に道はないだろう」
「どのようにして探すのですか?」
「こちらから探しに行かねばなるまい。クスラ国へと向かいながら、聖剣の使い手と闇の炎を探しナバルを討つ、それ以外に方法はないだろう」
「見つからなかったら、どうするのですか?」
と、シュウが言った。
「不死身のナバルに誰が?」
「聖剣がなくとも、私は戦う。大切な人々を守る心は、年老いても変わりない」
「僕に、聖剣をお預けいただけませんか?」
と、ウォルフが言った。
「不死身の僕なら、いつの日か聖剣の使い手を探し当てることができるかもしれません」
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