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第三章 謎の男
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「父上、お呼びですか?」
と、シュウはユアンの部屋の前で尋ねた。
聖剣の使い手と闇の炎を誰が探しに行くのか、その結論が出ないまま、ユアンは息子たちとウォルフを連れて自宅へ戻ったのだった。
「入れ」
シュウが部屋に入ると、ユアンは棚の扉の鍵を閉めているところだった。
「七年前の独立記念日を覚えているか?」
と、ユアンは鍵を机の引き出しに片付けながらシュウに尋ねた。
かつてフオグ国は、広大なミチルバ国の一都市であったが、ミチルバ国内各地で権力者が乱立した結果、約二百年前に分断されて独立国となった。
「覚えています」
「私が上着の着方を間違えてしまって、お前がそれに気づいてくれた」
と、ユアンが笑った。
「サラに見つかったら怒られるし、出発の時間は迫っているし、あたふたしている私の着替えをお前は手伝ってくれたな」
「はい」
「着替えている間、私は聖剣をお前に預けた。この部屋だ」
シュウは返事をしなかった。ユアンはシュウの目をじっと見つめながら言った。
「聖剣は、持つべき者が近くにいると心に囁きかけてくる。我を手にもて。我を抜き、影を討つのだと。あの時、お前も聖剣の声を聞いたはずだ」
シュウは息を止め、ユアンの視線から逃れるように下を向いた。
「お前が聖剣をほんの少しだけ鞘から抜いたのがわかった。私はお前に背を向けていたが、あの光は隠せない。すぐに振り向いたが、それよりも先に剣を鞘に戻したお前は、それを私に返すと逃げるように部屋から出て行ってしまった。そして次の日、医者になるために家を出ると言ったんだ」
シュウは俯いたまま、何も言うことができなかった。
「お前が決めたことだ。後悔はない。聖剣を持つ重責を強要したくはないしな」
シュウは片膝をつき首を垂れた。言うべき言葉を探したが、見つからなかった。ただ、「申し訳ありませんでした」と、消え入りそうな声を絞り出した。
「責めているわけではない。昔も今も、お前は私の自慢の息子の一人だ」
ユアンは笑顔でシュウの頭に手を当てた。シュウが幼い頃に、よくそうやって褒めていたように。ユアンの大きな手の温もりに触れ、シュウの目から涙がこぼれた。
「しかし聖剣は手厳しいな。お前がこの七年間、剣術の修行をさぼっていたことなど、すべてお見通しだ。戦えば私でも勝てない相手だというのに」
「何をおっしゃいます」
シュウは涙を手で拭いながら言った。
「本当のことだと思うがな……まあ、いい。お前の心が変わらないのは知っている。頑固だからな、サラに似て」
「母上に聞かれたら叱られます」
「そうだな」
とユアンは笑った。
「サラに叱られる。三人の息子たちを国から出せば」
「それは、どういう意味ですか?」
「お前たち三人に行ってほしい。聖剣の使い手と闇の炎を探し出し、ナバルを討ち取る、その困難な未来を、お前たちに託したい」
「何をおっしゃって……」
「シュウ、お前かあるいはハクトか、そのどちらかだ、聖剣の使い手となるのは。私はそう確信している。ただ、二人とも今のままでは聖剣には認められないだろう」
「私は、聖剣の使い手になるつもりはありません」
「国が滅ぼされても、愛する人が殺されても、お前は同じことが言えるか?」
「それは……」
「ハクトは……あの子は強くなることしか頭にない。いや、お前を超えることしか頭にないと言った方が正しいな。ハクトには剣術以外の修行が必要なのだ」
「しかし、なぜトシも行かせようとなさるのですか?トシは病気です。身体を酷使すれば、失明を早めてしまいます」
「お前とハクトが行くのに、自分は国に残るとトシが言うと思うか?禁じても、勝手に国を抜け出すだろう。トシは自分のことよりも他者のために生きている男だ。私たち家族のために、そしてこの国のために自らを犠牲にしてしまう…秘密裏にお前たちの後をつけて、誰も知らないうちに病に倒れたりでもされたら、私はトシの父親にあの世で顔向ができない」
と、シュウはユアンの部屋の前で尋ねた。
聖剣の使い手と闇の炎を誰が探しに行くのか、その結論が出ないまま、ユアンは息子たちとウォルフを連れて自宅へ戻ったのだった。
「入れ」
シュウが部屋に入ると、ユアンは棚の扉の鍵を閉めているところだった。
「七年前の独立記念日を覚えているか?」
と、ユアンは鍵を机の引き出しに片付けながらシュウに尋ねた。
かつてフオグ国は、広大なミチルバ国の一都市であったが、ミチルバ国内各地で権力者が乱立した結果、約二百年前に分断されて独立国となった。
「覚えています」
「私が上着の着方を間違えてしまって、お前がそれに気づいてくれた」
と、ユアンが笑った。
「サラに見つかったら怒られるし、出発の時間は迫っているし、あたふたしている私の着替えをお前は手伝ってくれたな」
「はい」
「着替えている間、私は聖剣をお前に預けた。この部屋だ」
シュウは返事をしなかった。ユアンはシュウの目をじっと見つめながら言った。
「聖剣は、持つべき者が近くにいると心に囁きかけてくる。我を手にもて。我を抜き、影を討つのだと。あの時、お前も聖剣の声を聞いたはずだ」
シュウは息を止め、ユアンの視線から逃れるように下を向いた。
「お前が聖剣をほんの少しだけ鞘から抜いたのがわかった。私はお前に背を向けていたが、あの光は隠せない。すぐに振り向いたが、それよりも先に剣を鞘に戻したお前は、それを私に返すと逃げるように部屋から出て行ってしまった。そして次の日、医者になるために家を出ると言ったんだ」
シュウは俯いたまま、何も言うことができなかった。
「お前が決めたことだ。後悔はない。聖剣を持つ重責を強要したくはないしな」
シュウは片膝をつき首を垂れた。言うべき言葉を探したが、見つからなかった。ただ、「申し訳ありませんでした」と、消え入りそうな声を絞り出した。
「責めているわけではない。昔も今も、お前は私の自慢の息子の一人だ」
ユアンは笑顔でシュウの頭に手を当てた。シュウが幼い頃に、よくそうやって褒めていたように。ユアンの大きな手の温もりに触れ、シュウの目から涙がこぼれた。
「しかし聖剣は手厳しいな。お前がこの七年間、剣術の修行をさぼっていたことなど、すべてお見通しだ。戦えば私でも勝てない相手だというのに」
「何をおっしゃいます」
シュウは涙を手で拭いながら言った。
「本当のことだと思うがな……まあ、いい。お前の心が変わらないのは知っている。頑固だからな、サラに似て」
「母上に聞かれたら叱られます」
「そうだな」
とユアンは笑った。
「サラに叱られる。三人の息子たちを国から出せば」
「それは、どういう意味ですか?」
「お前たち三人に行ってほしい。聖剣の使い手と闇の炎を探し出し、ナバルを討ち取る、その困難な未来を、お前たちに託したい」
「何をおっしゃって……」
「シュウ、お前かあるいはハクトか、そのどちらかだ、聖剣の使い手となるのは。私はそう確信している。ただ、二人とも今のままでは聖剣には認められないだろう」
「私は、聖剣の使い手になるつもりはありません」
「国が滅ぼされても、愛する人が殺されても、お前は同じことが言えるか?」
「それは……」
「ハクトは……あの子は強くなることしか頭にない。いや、お前を超えることしか頭にないと言った方が正しいな。ハクトには剣術以外の修行が必要なのだ」
「しかし、なぜトシも行かせようとなさるのですか?トシは病気です。身体を酷使すれば、失明を早めてしまいます」
「お前とハクトが行くのに、自分は国に残るとトシが言うと思うか?禁じても、勝手に国を抜け出すだろう。トシは自分のことよりも他者のために生きている男だ。私たち家族のために、そしてこの国のために自らを犠牲にしてしまう…秘密裏にお前たちの後をつけて、誰も知らないうちに病に倒れたりでもされたら、私はトシの父親にあの世で顔向ができない」
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