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第三章 謎の男
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トシは客間を少しだけ開けて、中の様子をうかがった。客間にはウォルフがいるはずだが、ベッドの上に姿はない。あわてて扉を全開にすると、部屋の隅で丸くなって眠っているウォルフの姿を見つけた。
よほど疲れていたのだろう。トシの気配に全く気付くことなく、ぐっすり眠っていた。トシはベッドの上から毛布を取ると、ウォルフの身体にそっと掛けた。
不思議な男だ、とトシは思った。不死身の身体を持ち、もう何百年も生きてきたのに、寝顔は子供のようにあどけなく無垢だった。
トシは音を立てないようにそっと客間を出て、自分の部屋に向かった。
ついさっきユアンから、ハクトとシュウと共に聖剣の使い手と闇の炎を探すように言われたトシだった。
真っ先に頭に浮かんだのはサラのことだ。ユアンに呼ばれる前にサラと話していたトシは、行商を辞めるのであれば、村で子供たちに学問を教えないかと誘われたところだった。
サラがこのことを知ったら…息子たちが揃って、二度と国には戻れないかもしれない旅に出ることを知ったら、どう思うだろうか。
サラの心情を思うと、トシの心は張り裂けそうになるのだった。
*************
リンビルは、ふうむと唸った。目の前には、シュウが連れてきた不死身の男が横たわっていた。
「もうよいぞ、起き上がっても」
とリンビルが言うと、ウォルフは上半身を起こし、脱いでいた服を着た。
「先生、どう思われますか?」
とシュウが尋ねた。
「にわかには信じがたいが、不死身であることは本当らしいのう。影の身体を血に混ぜた……か。とんでもないことじゃ」
リンビルはため息をついてシュウに向き直った。
「わしは構わん。お前が戻ってくるまで、くたばりはせんじゃろう」
「戻ってこられるかどうか……」
「お前たちは必ず戻ってくる。あのユアン殿が、不可能なことを人任せになどするはずがなかろう」
と、リンビルはにこりと笑った。
「先生」
部屋の隅でじっと話を聞いていたルイがリンビルの側に寄ってきて言った。
「私もシュウ先生について行きたいです」
リンビルが答える前に、シュウが「駄目だよ」と慌てて言った。
「困難な旅になるんだよ、ルイちゃん。どんな危険な目に合うかわからないんだ」
「私は、か弱い女ではないわ。剣術だって習っているし」
「ルイちゃんまでいなくなったら、リンビル先生がお困りになってしまうし」
「わしは困らんよ。以前から、宮殿や軍から医師たちを研修に寄越したいと言われておったからな。その者たちに来てもらえばよいだけのこと」
「先生」
と、シュウが困惑した様子で言うと、リンビルはホッホッと笑った。
「お前たちだけで行ったら、お前とハクトの喧嘩の仲裁でトシが疲弊するわい」
「だからと言って、ルイちゃんを危険な目に合わせるなど……」
「ずっと不機嫌なルイをなだめなければならないなんぞ、ぞっとするわい。連れて行ってあげなさい」
そう言うと、リンビルはまたホッホッと笑った。
よほど疲れていたのだろう。トシの気配に全く気付くことなく、ぐっすり眠っていた。トシはベッドの上から毛布を取ると、ウォルフの身体にそっと掛けた。
不思議な男だ、とトシは思った。不死身の身体を持ち、もう何百年も生きてきたのに、寝顔は子供のようにあどけなく無垢だった。
トシは音を立てないようにそっと客間を出て、自分の部屋に向かった。
ついさっきユアンから、ハクトとシュウと共に聖剣の使い手と闇の炎を探すように言われたトシだった。
真っ先に頭に浮かんだのはサラのことだ。ユアンに呼ばれる前にサラと話していたトシは、行商を辞めるのであれば、村で子供たちに学問を教えないかと誘われたところだった。
サラがこのことを知ったら…息子たちが揃って、二度と国には戻れないかもしれない旅に出ることを知ったら、どう思うだろうか。
サラの心情を思うと、トシの心は張り裂けそうになるのだった。
*************
リンビルは、ふうむと唸った。目の前には、シュウが連れてきた不死身の男が横たわっていた。
「もうよいぞ、起き上がっても」
とリンビルが言うと、ウォルフは上半身を起こし、脱いでいた服を着た。
「先生、どう思われますか?」
とシュウが尋ねた。
「にわかには信じがたいが、不死身であることは本当らしいのう。影の身体を血に混ぜた……か。とんでもないことじゃ」
リンビルはため息をついてシュウに向き直った。
「わしは構わん。お前が戻ってくるまで、くたばりはせんじゃろう」
「戻ってこられるかどうか……」
「お前たちは必ず戻ってくる。あのユアン殿が、不可能なことを人任せになどするはずがなかろう」
と、リンビルはにこりと笑った。
「先生」
部屋の隅でじっと話を聞いていたルイがリンビルの側に寄ってきて言った。
「私もシュウ先生について行きたいです」
リンビルが答える前に、シュウが「駄目だよ」と慌てて言った。
「困難な旅になるんだよ、ルイちゃん。どんな危険な目に合うかわからないんだ」
「私は、か弱い女ではないわ。剣術だって習っているし」
「ルイちゃんまでいなくなったら、リンビル先生がお困りになってしまうし」
「わしは困らんよ。以前から、宮殿や軍から医師たちを研修に寄越したいと言われておったからな。その者たちに来てもらえばよいだけのこと」
「先生」
と、シュウが困惑した様子で言うと、リンビルはホッホッと笑った。
「お前たちだけで行ったら、お前とハクトの喧嘩の仲裁でトシが疲弊するわい」
「だからと言って、ルイちゃんを危険な目に合わせるなど……」
「ずっと不機嫌なルイをなだめなければならないなんぞ、ぞっとするわい。連れて行ってあげなさい」
そう言うと、リンビルはまたホッホッと笑った。
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