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第二章 聖剣
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「惜しい男を亡くしたもんじゃ」
リンビルは窓際で後ろ手に立ち、外を眺めながら呟いた。
カインの遺体は、診療所の一番奥の部屋に安置されていた。
「カイン様は、とても強くて優しくて、兵士たちの憧れでした。私の兄も、この事を知ったらどんなに悲しむか…」
と、ルイは溢れ出てきた涙を袖で拭いた。
「そうか、ルイの兄さんも軍に入っておったのぉ」
シュウは、カインが毒矢で命を落としたということを二人に伝えたきり、一言もしゃべらなくなってしまっていた。壁に背を当てて座り込み、じっと前をみつめていた。そして、そんなシュウを包むように、トウが寄り添って座っていた。
「来られたようじゃ。ルイ、案内をして差し上げなさい」
と、外を眺めていたリンビルが言った。
程なくして、ユアンとシュウの兄ハクトが、ルイに案内され部屋に入ってきた。二人は、中央のベッドに横たわっているカインの姿を目にすると、揃って息をのんだ。
「カイン、すまない」
ユアンはカインに近づくと、冷たくなったカインの手を握った。ハクトは悔しそうに唇を噛み、両手の拳にぐっと力を入れた。
「奇妙なことじゃの、ユアン殿。クスラ国の軍服を着たカイン殿が、五十年に一度使われるかどうかという稀少な毒で命を落とすとは。モサビの毒が使われて命を落とした者を見るのは、わしが生きている中でも初めてのことじゃ。それほど、モサビの毒は貴重で量も限られている。国を揺るがす大事でも起きない限り使われることはない。現に、以前モサビの毒が使われたと噂されたのは、クスラ国の先先代の国王が、国を二分して争っていた反勢力の長を暗殺するのに使われたというものじゃった。そんな毒をなぜカイン殿に使ったんですかな」
「リンビル先生…ご迷惑をおかけしました」
「いや。シュウがカイン殿を見つけたことが、不幸中の幸いじゃよ」
ユアンは部屋の隅でじっとしているシュウに近づくと、
「シュウが、カインの最期を看取ったんだな」
と、話しかけた。七年ぶりに会う父と兄を見ようともせず、シュウは俯いた。
「カインは、何かをお前に話したか?」
「影の住人がクスラ国王ナバルに取りつき、ナバルがこの世すべてを己のものにしようとしている、と。そして、聖剣をと言って果てました」
シュウは俯いたまま淡々と答えた。
「ナバル……」
ユアンの顔が曇った。
「なぜ、カイン殿が死ななければならなかったのですか?」
シュウはそう言いながら、ゆっくり顔を上げた。そして目の前に立つ父親を見上げ、その悲しげな顔をじっと見つめた。
「クスラ国を探るために、カイン殿を潜らせていたのでしょう?父上が命じられたのですか?」
シュウは口調が鋭くなってしまうのを止めることができなかった。ユアンの心情は、その表情から痛いほど伝わっていたが、自分の中にふつふつと湧いてくる制御できない怒りを押しつぶすことはできなかった。
「お前!」
と、ハクトが早足でシュウに近づき、シュウの襟元を掴んで無理やり立ち上がらせると、思い切り頬を殴りつけた。シュウは地面に倒れ込んだ。
「父上に何という口をきくんだ。家を出たお前に、そんなことを言う資格などない」
「ハクト、やめなさい」
ユアンは、倒れたシュウに近寄ると、シュウの肩に優しく手を置き、顔を覗き込んだ。
「お前の言う通りだ、シュウ。私が命じたのだ。私がカインを死なせてしまった」
ユアンの目の中には、悲しみや後悔、怒り、自己嫌悪といったあらゆる思いが渦巻いていた。その視線を真正面で受けながら、相変わらず正直で不器用な人だとシュウは思った。
リンビルは窓際で後ろ手に立ち、外を眺めながら呟いた。
カインの遺体は、診療所の一番奥の部屋に安置されていた。
「カイン様は、とても強くて優しくて、兵士たちの憧れでした。私の兄も、この事を知ったらどんなに悲しむか…」
と、ルイは溢れ出てきた涙を袖で拭いた。
「そうか、ルイの兄さんも軍に入っておったのぉ」
シュウは、カインが毒矢で命を落としたということを二人に伝えたきり、一言もしゃべらなくなってしまっていた。壁に背を当てて座り込み、じっと前をみつめていた。そして、そんなシュウを包むように、トウが寄り添って座っていた。
「来られたようじゃ。ルイ、案内をして差し上げなさい」
と、外を眺めていたリンビルが言った。
程なくして、ユアンとシュウの兄ハクトが、ルイに案内され部屋に入ってきた。二人は、中央のベッドに横たわっているカインの姿を目にすると、揃って息をのんだ。
「カイン、すまない」
ユアンはカインに近づくと、冷たくなったカインの手を握った。ハクトは悔しそうに唇を噛み、両手の拳にぐっと力を入れた。
「奇妙なことじゃの、ユアン殿。クスラ国の軍服を着たカイン殿が、五十年に一度使われるかどうかという稀少な毒で命を落とすとは。モサビの毒が使われて命を落とした者を見るのは、わしが生きている中でも初めてのことじゃ。それほど、モサビの毒は貴重で量も限られている。国を揺るがす大事でも起きない限り使われることはない。現に、以前モサビの毒が使われたと噂されたのは、クスラ国の先先代の国王が、国を二分して争っていた反勢力の長を暗殺するのに使われたというものじゃった。そんな毒をなぜカイン殿に使ったんですかな」
「リンビル先生…ご迷惑をおかけしました」
「いや。シュウがカイン殿を見つけたことが、不幸中の幸いじゃよ」
ユアンは部屋の隅でじっとしているシュウに近づくと、
「シュウが、カインの最期を看取ったんだな」
と、話しかけた。七年ぶりに会う父と兄を見ようともせず、シュウは俯いた。
「カインは、何かをお前に話したか?」
「影の住人がクスラ国王ナバルに取りつき、ナバルがこの世すべてを己のものにしようとしている、と。そして、聖剣をと言って果てました」
シュウは俯いたまま淡々と答えた。
「ナバル……」
ユアンの顔が曇った。
「なぜ、カイン殿が死ななければならなかったのですか?」
シュウはそう言いながら、ゆっくり顔を上げた。そして目の前に立つ父親を見上げ、その悲しげな顔をじっと見つめた。
「クスラ国を探るために、カイン殿を潜らせていたのでしょう?父上が命じられたのですか?」
シュウは口調が鋭くなってしまうのを止めることができなかった。ユアンの心情は、その表情から痛いほど伝わっていたが、自分の中にふつふつと湧いてくる制御できない怒りを押しつぶすことはできなかった。
「お前!」
と、ハクトが早足でシュウに近づき、シュウの襟元を掴んで無理やり立ち上がらせると、思い切り頬を殴りつけた。シュウは地面に倒れ込んだ。
「父上に何という口をきくんだ。家を出たお前に、そんなことを言う資格などない」
「ハクト、やめなさい」
ユアンは、倒れたシュウに近寄ると、シュウの肩に優しく手を置き、顔を覗き込んだ。
「お前の言う通りだ、シュウ。私が命じたのだ。私がカインを死なせてしまった」
ユアンの目の中には、悲しみや後悔、怒り、自己嫌悪といったあらゆる思いが渦巻いていた。その視線を真正面で受けながら、相変わらず正直で不器用な人だとシュウは思った。
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