下らないボクと壊れかけのマリ

ガイシユウ

文字の大きさ
6 / 26

しおりを挟む

 ――最悪だ。

 雅は洗面台に映るどんよりとした自分の顔を見ながら思った。
 結局あれからさほど眠ることも出来ず、こうして疲れ切った顔で朝を迎えていた。

「雅~、朝ご飯早く食べないと、あんた遅刻するわよー」
「今行くから~」
 リビングから聞こえる母の声で、雅の体は洗面台から引きはがされた。
 
◆◆◆

「そういや、転入生の子、うまくやれてるの?」
 リビングで朝食をとっていると、母がそう言った。
 雅の脳裏に、無邪気に笑う真理の姿が浮かぶ。
 そして、それと同時に昨晩の夢も。

「……うん、結構明るい子だったし、大丈夫だよ」
「へぇ。なら良かったじゃない。出だしで妙に孤立しちゃうと、大変だから」
 それはないだろう、と雅は思った。
 
 むしろ、昨日転入したばかりというのに、すでにクラス中が彼女の魅力に呑まれてしまっている節すらある。
 もうすぐ始まる夏休みまでに、彼女の連絡先を手に入れようと、みな躍起になっている。

「あ、今年は山未君と一緒にどっかに行くの?」
「へ?」
 あまりにも唐突な話題に、雅は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「だって、来年は受験でしょ。まぁ、夏休みにどっか行くくらいは、母さん良いと思うけど、塾とか大変そうじゃない」
 だから今年は、と母は言った。
 確かに、中学生としてのんびり過ごせる夏休みは今年で最後かもしれない。
 高校に進学すれば、会えなくなるかもしれない。
 もしかすると、同じ高校を受けるかもしれないが、それも『もしかしたら』の話だ。

 けれども。
 親しげに真理と話す宗助の姿が頭に浮かぶ。
「……別に大丈夫だよ」
 雅の口から出たのは、そっけない言葉だった。

◆◆◆
 
 通学路。
 アスファルトを夏の日差しが容赦なく照らす中、雅はとぼとぼと一人、学校に向かって歩いていた。
 頭の中にあったのは、今朝の母との会話だった。
 
 別に宗助の事が好きというわけではないはずだ。
 ただ、彼の母親が死んでから、彼は明らかに暗くなってしまって、それを間近で見ていながら何もしなかった自分に、何とも言えないしこりを感じているのだ。
 だが具体的にどうしたい、どうなりたい、などは分からない。

 目の前の信号が赤になっていることに気づき、立ち止まる。
 と、横に人の気配を感じ、ちらと視線をやるとそこにいたのは宗助だった。
 雅は思わず声を出しそうになるのをどうにかこらえて、じっと彼を観察する。
 夏の暑さにやられているのか、どうにもだるそうな顔をしていた。目の下にはクマもあった。
 
 何かを話すべきなのだろう。
 しかし適切な話題が思い浮かばない。
「あ、暑いね」
 だからこのように、何の他愛もないことを言うのだった。
 宗助も横の雅に気づき、一度視線を送ってから「うん」と、小さく返してきた。

「そ、そういえばさ」
 信号が青になる。二人は歩き出す。
「山未君って、高校とかどうするかって、考えてたり、する……?」
 とっさに受験の話をしたのは、今朝の母との会話を思い出したからだろうか。
 それとも、無意識に空値真理のことを話題にしたくなかったからだろうか。

「……高校」
 ぽつりとつぶやく宗助。やがて、気の抜けたような声で笑う。
「考えたことも無かった……」
「ま、まぁまだ早いからね、そういうこと考えるの」
「風許さんは、高校とかどうするか、もう考えてるの?」
「いや、わたしも実は特に考えてなくて……。まぁでも、どこか行きたいところが見つかった時のために、塾にだけは通ってる感じかな」
「そっか、まだ通ってたんだっけ、あの塾」

 ――あ。

 雅は心の中で小さくつぶやいた。
 自分と彼は、かつて同じ塾に通っていた。
 けれど彼は母親が死んでから、その塾を辞めてしまったのだった。
 今の発言は、つまり地雷だったわけだ。

「あ、でもさ」
 どうにか取り繕おうと、雅が声を上げる。
「山未君って、頭いいよね。難しい本読んでるっぽいし。ほら、え~っと、パソコンにも強いんだよね、確か」
「でも、受験には関係ないじゃん」
「……あー」
 今度こそ、雅は口に出していた。
 自嘲気味にそうつぶやいた宗助に、どういう風に返事をすれば良いのか分からなくなってしまった。
 
 次の話題を探している内に、せりあがるそれにこらえきれず、雅は欠伸をしていた。
「寝不足?」
 宗助が聞く。
「うん、最近なんか変な夢見ちゃってて」
「――どんな夢?」
「誰かが話してる声が聞こえてくる夢」
 あー、っていうか、と雅は要約した。
「まぁ、最近流行ってる夢女みたいなやつなんだけどね」

◆◆◆

 いつも通り教室に入った宗助は、そのまま荷物を置いて自分の席に座った。
 恐る恐る周囲を見渡すが、真理はまだ来ていないようだった。
 真理の席にも、彼女が来たらしい痕跡はなかった。

 ――結局、昨日のあれは何だったのか。

 宗助は考えを巡らせるが、自分を納得させられるような答えは見つからなかった。
 
 そのまま時間だけが過ぎ、担任が教室に入ってきて朝礼が始まった。
 いつも通り今日一日の予定について説明し、最後に欠席者の確認を行う。
 担任が言うには、真理はどうやら風邪で休んでいるらしかった。

「先生、杉本さんは?」
 クラスの誰かが言った。
 欠席者については、よほどのことが無い限り、先ほどの真理のそれのように担任からその理由が告げられてきた。しかし、今出た杉本という女子については、それが無かった。

 生徒の言葉からややあって担任は「風邪だよ」と答えた。
 どうにもおかしな様子で、それが嘘である事はおそらく誰の目に見ても明らかだっただろう。
 けれど、その件に関しての追及はそれ以上なく、この話でそこで終わりとなった。

 ただ宗助は、そんな担任の様子を見ながらぼんやりと考えていた。
 風邪と偽らざるを得ない状態とは、どういう状態なのだろうか。
 より重い病気か、あるいは家庭内の問題か。
 最近だと、ネット上のいじめから登校拒否というのもあるらしいが……。

 ―――いや違う。

 自分は昨日、彼女を見たのだ。
 夜、真理と一緒に遊ぶ、杉本の姿を。

◆◆◆

 自宅に戻り次第、宗助は杉本というクラスメイトについて調べ始めた。
 保健室でカルテを盗んだ際に使用した学校のサーバーに侵入し、欠席連絡時の記録を探る。自分たちのクラスの担任のデータだろう。

 エクセルファイルでまとめられた、一年間の出欠データを見つけた。
『昨晩より帰宅しておらず、連絡がつかないため欠席』
 杉本の欄には、そのように記載されていた。
 
 やはりと思いつつ宗助の脳裏には、昨晩の真理と一緒にいた杉本の姿が思い浮かぶ。
 
 ――真理が何かをしたのか。
 
 いや待て、と突発的に浮かんだ妄想を振り払う。
 まだ、情報が出そろったわけではないのだ。確かに、昨晩の真理は常軌をいつしていたが、それでもだからといって、彼女が杉本を――。
 そこまで考えが至り、宗助は息を吐いた。
 
 ――やめよう。
 
 杉本はもともと素行の悪い生徒だった。
 夜出歩くのなんて、よくあったことだろうし、今回のそれだって、きっとその延長だ。
 特に最近は、寝不足気味だったのか、授業中によく欠伸をしていた。
 
 ――変な夢を見るとも言っていた。誰かの話し声が聞こえる、とか、なんとか……。

 保健室のカルテのデータを引っ張り出す。
 
 ――あったはずだ。
 
 寝不足、不眠症、声……。思いつくワードで検索をかけて、該当するものを探す。
 目当ての条件でヒットした件数は六件。その中の一つに杉本はいた。
 
 頭の中を様々な憶測が駆け巡る。
 声。変な夢。昨日の真理。
 ――そして、夢女。

 気が付けば宗助は、真理の自宅の住所を調べていた。

◆◆◆

 バカな事をしていると思っている。
 
 茜色に染まった空と、それを背にそびえたつマンションを見上げながら、宗助は手にしたスマートフォンを握りしめた。
 この辺りでもかなり新しい、十六階建てのマンションこそ、空値真理の自宅があるマンションだった。一四〇二号室が彼女の自宅らしい。例によって拝借した学校のデータにそう書いてあった。
 行方不明となっている杉本に対して真理は、はっきりと風邪と記されていた。
 
 エレベーターに乗り込み、一四階のボタンを押す。
 もし彼女が本当に風邪だったなら、自分はその見舞いに来たことにすればよいだけだった。彼女の両親にはそのように言えばよい。
 
 自分は転入先の学校の、数少ない友人のはずだ。
 それらしいことを言えば、多少の無理は乗り切れるはずだ。
 中学生同士の、他愛のない会話が行われて、それで終わりになるはずだ。

 ――だが、そうではなかったとしたら……?

 自分の下らない妄想が当たっていたとしたら。
 空値真理が杉本をさらったとしたら?
 真理が夢女だとしたら?

 ――それはないはずだ。そんなものはない。
 
 などと思いつつも、頭をよぎるのは、昨日の不良たちの様子だった。あれは明らかにおかしかった。何か、得体のしれないものに罰を与えられているようだった。
 やはり、と弱気になった時、エレベーターが動きを止めた。

 扉が開く。
 調べていた真理の家へと向かう。
 空値とかかれた表札の前に立ち、震える体をどうにか押さえつける。
 腕を上げ、指を伸ばして、インターホンにそっと添える。
 呼吸を整えて――押した。
 
 ありふれた電子音が鳴り響いた。
 その階は、それ以外の音が全て飛んだように静かだった。
 
◆◆◆

 インターホンを鳴らしてから、いくばくかの時が流れた。
 反応はなかった。
 もう一度押す。だが、依然として反応は無かった。
 
 どうしたものかと考えあぐね、ひとまずドアノブを回してみると、ドアは事もなげに開いた。
 明かりのついていない、暗い玄関がぽっかりとその口をあらわにした。
 唾をのむ音が聞こえる。自分のソレだ。
 
 気が付けば宗助は一歩踏み出していた。
「おじゃましまーす」
 などと、気休めにもならない言葉を口にしつつ、靴を脱いで家に上がる。
 入ってすぐの廊下の右側に、リビングらしき部屋に続く扉を見た。
 薄暗い廊下の中、ギシギシと床を踏む音だけが耳に届く。
 リビングへと続く扉を開ける。

 リビングには――
 いや、宗助が勝手にリビングだと思い込んでいた部屋には、何もなかった。
 
 テレビも、テーブルも、椅子も、本棚も。
 おおよそ、人がここで生活をしていると思えそうなものは、何もなかった。
 ほとんど新居に近い状態だった。
 
 というか新居なのではなかろうか。
 真理たち家族は、実はまだここに来ていなくて、だからここは空き部屋なのではないのだろうか。
 表札を確認するために、リビングを出て玄関へと向かう。
 
 その途中、リビングと反対側の部屋の扉が、開いているのを宗助は見てしまった。来たときは閉まっていた。
 
 いつ空いたのだろうか。
 誰か、あるいは何かが開けたのかと考えていると――
 ひょい、と白いものが現われて扉のふちを掴んだ。
 
 ――手だ。
 
 真っ白な病人のようなそれが、両手で扉のふちを掴んでいる。
 だが、それは明らかにおかしな話だった。
 
 なぜなら、その両手がつかんでいるふちが、扉の上側のものだったからだ。
 
 上側のふちを、その両手がぐいとつかんでいる。
 向きを考えると、この手の主はうつぶせに近い形で天井にへばりついていることになる。
 
 それを理解した時、宗助は動くことが出来なくなった。
 では一体、何がいるというのか。
 
 さっと細く長い黒い何かが、垂れる。
 それは黒髪だった。黒い長髪だった。
 心臓が早鐘をうつ。
 早く逃げよと、頭の中で誰かが言っている。
 
 ――きっと、予感は悪い方に当たってしまったのだ。

 突如として、ふちを掴んでいる両手に力が入る。
「や……み……ん……」
 天井からぬっと顔を出したそれは、『にぃっ』と笑いながら、そんなことを言った。

 白い肌に、黒い長髪。
 老婆のようにやせこけた頬。
 吸い込まれるように暗い、暗い眼窩。

 骨と皮だけの少女が、天井から顔を上げてこちらを見下ろしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。 王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。 『…本当にすまない、ジュンリヤ』 『謝らないで、覚悟はできています』 敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。 ――たった三年間の別れ…。 三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。 『王妃様、シャンナアンナと申します』 もう私の居場所はなくなっていた…。 ※設定はゆるいです。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

処理中です...